1-13 小さな世界の些細な話
マリアは美しいものが好きだった。
美しいといわれてきた。
美しいと、知っていた。
見られることが好き。
見られている自分が好き。
でも自分を美しいと思える自分が何よりも好き。
つまり自分を、世界で一番愛してる。
それのいったい何が悪いというのだろう。
人間なんてそんなもの。博愛主義者を気取っていたって、結局は誰かを大切にする自分を愛おしいとうぬぼれている。
誰かのために死ぬなんて、それこそ自己満足。
滑稽なものだ。
ごまかしはいらない。
自分が大切。
きれいごとが好きできれいな自分が好きで、誰かから賞賛されたい。
自己愛だ。
わかりやすいでしょう?
自分に正直な方が世界はほら、生きやすいのだからそうであるべきだ。
表面はどれほど虚飾で彩っていたとしても。
だって人は簡単に騙される。綺麗で優しいものが見たいから。
簡単なお話。
誰だってそんなこと、知りすぎるほど知っている。その上で騙されるのだから馬鹿なものだ。いつも、いつだって。
それもきっと正直さなのだろうけれど。信じたい世界を、誰だって信じていたい。
愚かで愛らしい生き物なのだ。
彼女自身を含めて。
そう、もちろん彼女はその中で、最も美しい生き物は自分であると確信しているけれど。
それこそが、『彼女の信じたい世界』であったとしても。
構わないのだ。願う世界と違うのならば、その『違い』なんて排除してしまえばいい。
彼女にとってそれは異分子で、歪みだ。
些細な話。間違っているのは世界なのだ。
消えるのが正しいこと。
そうでしょう?
見たい世界を見ればいい。生きたい世界で生きればいい。
そのためならどんなことでも簡単だ。
騙してあげる。騙されるのは得意でしょう?
それが『彼らの見たい世界』だから。
優しさだ。
エゴでもあるけれど。
陳腐な話。
踊りましょう、導いてあげる。舞台はここに、いつでも用意してある。
楽しいでしょう。
彼女は嗤う。綺麗できれいで、無邪気な笑みだ。
簡単で単純で、純粋なのだ。
一番は自分自身。
選択肢を用意して、甘い甘い言葉で誘う。堕ちていくのは相手の勝手。責任なんてその人自身がとればいい。
嘆きなんて聞こえないし聞く気もない。
自分勝手だ。誰よりも。
誰よりも自分勝手にならなければ、生きていくなんてできない。
美しさが全てだ。
信じる世界が全てだ。
見えるものは自分の目が映すただ一つしかないのだから、彼女にとってはそれが真実。
現実であって真理だ。
欺いている。
だからきっとどこかで誰かに欺かれている。
勝つのはどちらだろう。
いらないものは捨てなければ。
正しい世界が必要だ。
彼女にとっての、正しい世界。
どんなことも、そのためなら簡単。
だってそのようにして生きている。
たとえそれで死んだとしても。
自分に正直。
騙して欺く。虚飾で彩る。他者に対して。
自分自身に対して自分自身が、美しいと思えればそれでいいのだ。
それが彼女の真実だから。