1-12 夢はいらない、
都会の隙間、忘れ去られたような空き地。
乗り込んだ車は白の軽。ミリアの愛車。
酒場に車で来る彼女は別段酒にひどく強いというわけでもない。
ただレオは酔わないと彼女は知りすぎている。
最初から彼に運転させるつもりだったことは明白。仕事の人待ちに酒をいれないというのを知っていてか知らないでか。
知らなかったところで平気で同じ行動をするのだろうと想像に難くはない。
彼女が座すのは助手席、怠惰にシートにもたれて足を組む。
つまらなそうだ。
それを横目に発進。
夜の街に滑り出す。進行方向は北。
癪なことだ。結局言うとおりに向っている。
それ以外に取れる選択肢もないのだけれど。
いや、本当はそうではない。
とれる選択肢なんて無限。別に従わなかったところで、結果は存外どうでもいい。
ただ、蚊帳の外というのは面白くない。
理由は、いつだって単純なものだ。
面倒臭いことは面倒くさい。
何もしないならばそれでもかまわないのだ。マリアに情などないのだから。
けれどひどく、退屈だ。
下らなくて切実。
動いてみるのも興が乗ったから。子供じみていて短絡的。
お仕事をしましょう。
選んだのは自分だ。
単純さは純粋さで、愚かさでもある。
知っていても改める気はないし、気づいていてもそれこそ笑ってしまうくらいそんなことはどうでもいいけれど。
だってほら、それでも世間は動いているのだから、本当に些細なことだ。
「素直に話さねえ気がすんな、あいつら」
静かな車内、喉の奥でくつり、笑って零してみる。
ミリアは閉じていた瞼を片側上げて、ちらり、笑んだ顔はレオと似ている。
「……言わなかったら撃つわよ」
「言っても撃つんだろ?」
「分ってるじゃない」
戯れのような言葉の掛け合い。
何処までが嘘だろう。
一つも嘘などではないと判っているけど。
彼女はためらいなく、出会いがしらにでも引き金を引くんだろう。
ああだってそう、彼女はこれ以上なく不愉快だ。
『お姫様』に苛立っていた、一見優しげでその実怒しやすい彼女で、遊ぼうとしているあいつらが悪い。
それで撃たれてくれるような可愛げも、『彼等』にはないのだけれども。
見越してにやにやと笑う性格の悪さはもう慣れた。
慣れとその性格の悪さを楽しめるかは別物ではあるが。
走り始めてどれほどだろう。いつの間にか夜は深い。だからあちらが来ればいいのに、本当に面倒臭い。
甘えている? じゃれている? 遊んでいる?
のらりくらり、子猫のようだ。
レオたちに仕事がないなら、必然彼等とのかかわりも薄くなる。
寂しかったと拗ねているとでも?
似合わない。
でも遊びたかったのは確かなのだろう、あちらもよほど退屈のようだ。
つまらない毎日に放り込まれたこの仕事。結末は誰が決めるのだろう。
『お姫様』か『シルバーブレッド』か、レオたちか、それとも。
面倒くさくて、でも少しはきっと楽しいと思っているからこうして動いているのだろう。
車は闇を、静かに切って走っていく。
目的地まで、あと少し。
遊びが少しでも楽しければいい。
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――二日後。
夜の静寂に音を殺して漂う硝煙の匂い。
黒く、消えた。