表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このせかいのかみさまは、  作者: 月圭
第一章 赤の夢
11/35

1-10 蜜蜂に愛を囁いた、


「お姫様は『お姫様』だわ」


 グラスの淵に指を滑らせながらのミリアの言葉。

 マスターも言っていた、歌姫の周囲の『騒がしさ』。


「『お姫様』のわがままか?」

「ええ。――単純ね。『お薬』だったわ」


 笑って聞けば笑って返される。

 だってほら、なんて滑稽な話。

『それ』に何の夢を見たのだろうか。

 お姫様自身にそれを使った様子は見られなかった。そんなことをするほどに飢えてもいないだろう。

 だとすれば。


「金か?」


 転売から利益を得る。

 一番あり得そうで、あのお姫様にはあり得ないことを、聞いてみる。

 もちろん返ってきた答えは否だ。


「まさか。――『お姫様』はわがままで、理想家なのよ」


 彼女は小首をかしげる。

 金色の髪がふわり、揺れた。


「美しいものが大好きなのよ。そして自分が一番かわいいの」


 わかるでしょうと目線で問われる。

 僅か、目を細めることでそれに応えた。

 ――なるほど確かに『わがまま』だ。


「許せなかったって?」

「完璧主義者なんでしょう」


 レオの言葉に、ミリアがお道化る。

 陳腐な話だ。

 美しい自分が大切で大好きだったお姫様は、自分よりも『美しい』ものをいらないと判じた。

 単純な理屈。

 いらないのなら壊せばいい。

 行き着いた先が『薬』だっただけ。

 稚いほどに欲望に忠実。


「運び屋は?」


 聞いてみる。

 ミリアはとん、と卓を叩いた。


「土の中。『彼等』の仕事よ」


 答えは簡潔。レオは眉を上げてわずか口端を歪める。

 案外と抜かりがない。

 そしてそう、これで『お姫様』のご所望の理由が透けた。


 殺し屋『シルバーブレッド』。


 薬を『誰か』に運ばせたお姫様は、その後始末を『シルバーブレッド』に頼んだのだろう。

 彼女は美しいものが好き。

 そしてきっと最上のものも好んでいる。

 ならば妥当な選択だ。


 そうして『シルバーブレッド』を、今度はレオたちに消させればそう、綺麗に片付いて何もなかったことになるという計算。

 傲慢だ。

 似合いすぎて滑稽なほど。

 おかげさまでああ、なんてこの状況は面倒臭い。


「まったく、面倒くせえ」


 言葉にして呟けば、ミリアが片目を伏せてため息。


「仕方ないでしょ。あっちもこっちも『お仕事』よ。たとえどうせあの人たちが――」

「『面白そうだからって理由で動いたとしても』?」


 言葉尻を引き取れば、彼女はその通りだと頷いた。

『仕事』と言いながら『遊び』と同列。

 勝手な話だ。

 知っていたけれど。


『シルバーブレッド』。同業者。厄介な相手だ。

 楽しいことが大好きで、仕事をえり好みするなんて話は結構有名。

 迷惑なことだ。


 眉を寄せる。けれど隣の相方は鼻で笑った。


「人の事なんて言えないくせに」


 よくわかっている。

 だからこちらも皮肉に返した。


「かわいい『わがまま』だろう?」


 彼も彼女も、この世界の人間は誰だって。

 だからそう、他人の身勝手がたまらないのだ。


 ――それさえも『わがまま』だとしても。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ