5-6:ぼくらなら
「──ッ!」
破れかぶれに放ったレーザーはセイレスの炭化した手に止められて、即死させられる場所まで届かずに腕を焼き尽くすだけで終わる。致命傷だが、すぐに殺さなければ何の意味もない。
ノアの手が動き、もう一度上にいるロスヴィータを刺そうとしたところで、ノアは笑う。
「セイ……レス。僕の能力も、知らないのかい?」
ノアの能力……全てを貫くレイピア。それで一矢報えるとは思えなかったが、彼は能力を発動させる。レイピアを持っていたノアの手から血が吹き出る。レイピアの柄がノアの胸に当たり、抵抗もなく沈んでいく。
「レイピアはあくまで触媒……能力のベクトルは、自由自在なのさ……」
レイピアの切っ先はロスヴィータを貫くことなく、能力によって柄からノアの方へと滑り落ちる。
衝撃と共に、ノアの胸にぽっかりと穴が開いた。
「ノアァァァァアアアアア!」
返事はない。気を失っただけ、などと希望は持てなかった。心臓のあるべき場所が貫かれていて、目には生気がなく、不敵な笑みを浮かべていた顔はだらしなく固まっている。
ロスヴィータはノアを見て、自身の傷を気にすることもなく、彼の身体に抱きつき泣いていた。
「仲間を殺さないために、自害か。役立たずにしては頑張ったね」
セイレスへとレーザーを放つ。乱雑に放ったそれは当たらず、彼の横を通り過ぎていく。
「……セイレス」
「足手まといが減ってよかったじゃない!」
「セイレス。セイレス」
「熱烈なラブコール? でもごめんね、僕には愛する妻と子が……」
ノアは文字通り命を使ってロスヴィータを守った。その、ノアが……役立たず、足手まとい。
ふざけている。
ふざけるな。
これ以上、仲間を侮辱させてたまるか。
「殺す……セイレス、お前を殺す……!」
「いい。すごくいい」
ありったけの光を無理矢理寄せ集める。この世で最も巨大な光源、太陽の光を全て奪うつもりで能力を発動させると、周囲が、いや、辺り一帯から光が失われる。
「世界が丸呑みされたみたいだ! やっぱり違う! 君はホンモノだ!」
「死ね」
放ったレーザーは体よりも大きい範囲でセイレスを狙うが、当たることはなく、セイレスの横を貫く。
間違いなく狙ったが……セイレスの能力で手元が狂わされたのだろうか。光線は市街地を駆け、ビルに大穴を開ける。
「ちょっとちょっと、街を崩壊させるつもり?」
「殺してやる……! お前だけは……!」
遊び半分で、ノアを。今の今まで笑って、つまらない冗談を言っていたのに、もう動かない。
外しても殺せるように地面を狙う。この威力なら、直接当たらずとも地面を溶かしてそこに落として殺せるだろう。
「実際のところ、仲間なんていない方がヨミヒトくんは強いよ。変なしがらみで加減して、気を使って仲間に活躍させて。いらないでしょ、この力があればみんな簡単に倒せる」
「……俺は弱い」
「寂しいから弱いフリをして、一緒にいようとする。人の真似をするなよ、自分が優れているって認めていたら、そしたらこんなことにはならずに済んだのに」
「……一人だと、何も出来ない」
「一撃で街を壊せるクセして?」
「死ね……!」
溜め込んだ光を解き放つと、セイレスの足元が熱により爆発し、こちらにまで異常な温度を持った熱風が押し寄せる。殺したかと思ったが、仕損じていたのかセイレスは飄々とした態度で溶解した地面の上を歩く。
ひたすらレーザーを放ち、当たりはしないが余波でセイレスの身体が傷ついていく。
「ああいう人間じゃなくてさ、こっち寄りだよ、君は」
「──ノアはっ! 何があっても真っ先に向かう勇敢な人間だった! 辛くとも笑える強い人間だった! 危険があろうと、自身が傷付こうと人のためになれる気高い人間だ! 足手まといでも、役立たずでもない!」
世界が騒めく音がする。先程までいなかった虫が集まり、集い、それより大きな鳥や小動物が姿を現わす。
「心移り。生物を操る能力なんだけどさ、まぁ格下相手にしか効かないんだよね」
俺の能力で暗くなっていた世界が、より深く黒くなり、騒がしいほどに生命の気配が増え、黒い靄のように立ち上り、絨毯のように集まり、龍の姿を模すように集う。
「心移り:集狂する我」
数多幾多の生物がセイレスに従い、俺へと向かう。幾度もあった破壊で瓦礫となっていた扉を手にし、自分の足元にレーザーを放ち、起きた爆発を扉で受け止めてそれに乗って空に飛ぶ。
全身をカラスなどに食いつかれ、毒虫に刺されるが、無視して地面に全力でレーザーを放ち、セイレスのいた場所を蒸発させる。
まだ生物に攻撃されていることから、セイレスがまだ生きていることがわかる。周囲に複数のスコープを展開して、近くにいる虫や鳥を焼き尽くす。地面に着地してから再びセイレスがいた場所へ全力で撃つ。
「素晴らしいね。数発で半分は蒸発したよ。それでまだ息が切れる様子すらない」
声の聞こえた方向にレーザーを放つが、見えたのは九官鳥が焼け落ちる姿。隠れられたと理解していると、周りからひたすら声が聞こえる。
「すごいすごい」
「役立たずとは一味違うね!」
「セイレスさんはこっちだよー?」
「一緒に世界征服しようぜー!」
どれもがダミーと分かりきっているがあまりに腹立たしく、焼き尽くす勢いでレーザーを放った。
「出てこいセイレス! 殺してやる! 絶対に殺してやる!」
レーザーをひたすら放ち、融解した地面や建物に目をやるが、憎らしい白髪は見つからない。
うざったい虫や動物も乱雑に焼き払い、隠れられる範囲を潰していく。
「ヨミ、ヒト……! 落ち着いて!」
俺の手を止めようとするロスヴィータの手を払い、より一層に能力に力を込める。
のらりくらりとセイレスが躱すのなら、辺り一帯ごと焼き尽くす。
初めからこうしていれば良かった。それが出来るだけの力があり、殺すことを前提にすれば一瞬で済む。
そうでなくとも、一人でやっていた方が遥かに楽だ。




