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COLON:SERIES - 異世界への扉と導かれし者達  作者: 暦史書管理機構
シグレの異端争議典
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4-10:太陽が呼んでいる

「リリィ……そこら中に、氷を張り巡らせてくれ」

「どんな風に?」

「適当にでいい。可能な限り多く、大量に」


 張の攻撃を、後ろから襲いかかってきた小型のゴーレムを盾にして防ぐ。さらに上から押しつぶそうと手を伸ばしてきた巨大なゴーレムを見て、リリィを抱いて飛び跳ねて避ける。


「まだいるの!?」

「まだ頼む、水を使い切る勢いで」


 辺りが闇に覆われてルドルフが笑う。


「最後の一撃か!」


 太陽光は、他のどんな光源よりも強大だ。リリィが出し尽くしたところで、彼女の身体を抱きしめて地面に押し倒しながら、溜め込んだ太陽の光を解放する。

 瞬間、大量のレーザーはリリィの生み出した氷により、屈折、反射をひたすらに繰り返して工場の跡地を何の法則性もなく焼き尽くす。それは、建物や地面、壁、ルドルフと張、俺にしても例外はなく……俺が覆っているリリィを除いて、全てが焼かれた。


「は、はは」


 視界の端でゴーレムが崩れ落ちて、ルドルフが落下する。張がボロボロの身体を引きずってこちらに向かい、俺の下から這い出たリリィが水を放って弾き飛ばす。

 ルドルフは土くれの中から這い出て、勝ち誇るように紙片をばら撒いた。


「何の、つもりだ」

「負けたんだから渡すよ。立ち上がることも出来ないからね」


 偶然かあるいは……運が良かったのか、紙片は風に流されて俺の手元にくる。張は気を失う直前で紙片を懐から取り出し、手をあげて渡そうとして、そのまま倒れ込む。

 リリィがそれを回収し、この戦いに勝利したことが確定した。

 リリィに支えられながら立ち上がると、遠くから破砕音が聞こえ、それが俺の家の方向であることに気がつく。

 聞き覚えのある音。昼に聞いたサナムと出会った時の音と似ていることを思い出す。


「サナムが、危ない」

「いや、でも……ヨミヒト、動けないのに……」


 足を引きずって這ってでも向かおうとすると、ルドルフが口を開く。


「彼女に怪我はないよ。あるわけがない」

「……何故分かる」

「能力を使っている張本人が怪我をするわけないだろ?」

「サナムの能力は、治癒で……」


 ルドルフは異端書を見せびらかす。それにより、気づかされてしまう。


「……破壊の……異端書」

「持ち物の確認はした方が良かったかもな。していたら殺されていただろうけど」

「完成はしていないはずだ」


 事実、多くの紙片を集めたが、能力の発動などは出来ない。


「紙片の枚数じゃない。重要なのは“表紙”と“背表紙”……つまり、本としての体裁が揃えばある程度の力は使える。集まり切ったときの比ではないけれどな」

「……サナムがするとは思えない」


 俺が言えば、ルドルフは頷いて倒れる。


「あれは周囲全てを破壊し尽くす。油断していれば何の抵抗も出来ずに殺されていただろう」

「その言い草、まるで──」


 ルドルフは俺の言葉を読んでいたように言葉を合わせる。


「──俺を助けるため、とでも言いたいのか。……と、こんな風に、予知能力が私の本筋だ。植物やゴーレムはこちらの異端書の能力だな」

「予知能力……か」


 否定のしようがないのは、先程幾度もそうとしか思えない行動をしていたからだ。

 だが、だとしたら何故ルドルフは敗北しているのか、その答えは先程話されていた。


「……サナムから引き離すための足止めか」

「異端書を渡してはいけないやつがいる。勝ち残れないのなら、渡してもいい人間のために使わせてもらう」

「話せば……」

「信用しないだろ? 緊急性があるか分からない用事で、預かっている子供を放置するような奴でもない」


 否定のしようもないが……どうしてもサナムがそんなことをするとは思えない。

 そこに歩いて向かおうとして、ルドルフに止められる。


「車を用意させているから、それに乗って向かえばいい」


 目を向ければ黒塗りの高級車が近くの道路に数台止まっていて、あまりの用意の良さに真実味が増す。

 一応礼を言ってリリィに乗り込ませてもらい、血で内装を汚しながら移動する。




 程なくして着いた俺の家は、抉り取られるように失われていて、サナムの荷物が全て失われていた。


「……ヨミヒト! る、ルドルフがこれをした可能性もあるから……!」

「……内側からだな」

「侵入されて、とか」

「鍵はしまっていた、今も残っているがしまっている。呼び鈴を鳴らされても自主性のないサナムは動かないだろう」

「一回目で小さい穴を開けて入った、中から大きい穴を開けて、とか」

「破砕音は一度しかなかった。……間違いなく、これはサナムの仕業だ」


 信じていた、というには殆ど関わっておらず、裏切られたという感覚も薄いが、嫌な気分は残る。

 すぐに自分の感情を理解する。信じていたわけではないが、信じたかった。悪い奴ではないと思いたかった。あんな少女が、星を見て綺麗と思える彼女を……殺人鬼と、考えたくなかっただけだ。

 ふっ、と力が抜け落ちて、リリィに支えられる。アドレナリンで感じていなかった痛みが戻ってきたのか、突然体が動かせなくなる。


「ヨミヒト……」

「……悪い。体が限界みたいだ」


 必死で身体を支えていた感情が抜け落ちて、日の出てきた空を見上げた。

 サナムは敵なのだろうか。決まり切っている答えを考えないようにしていると、意識が途絶える。

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