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COLON:SERIES - 異世界への扉と導かれし者達  作者: 暦史書管理機構
シグレの異端争議典
17/39

3-8:警告

 実のところ、シードは仲間ではあるが関わりが少なかった。

 セーラとは能力を教えてもらっていることで仲良くなり、リリィとは喧嘩しながらもよく話す仲だ。ノアとはよく飯を共に食べるし、ロスヴィータには細かな世話を焼いてもらっている。

 シードとは関わりがなく、稀に見るだけだ。けれど、それでも彼女は信用に値すると知っていた。

 散々努力しているところも、必死になっているところも見てきたからだ。


「レイズ……です」

「ドロップだ」


 しかしながら戦況はよくない。相手に思考が読まれているというのは駆け引きが重要なこのゲームに置いて勝ち目がないと言えるほど不利だ。

 元々リリィとノアの時間稼ぎと能力の正体を探るために使った紙片の分で減っていたこともあり、紙片の枚数はみるみるうちにニコライへと傾いていく。


「どうした? 勝てると思っていたのに、策もなしか。レイズだ」


 ニコライは紙片を一気におき、シードを見る。

 ブラフの可能性もある。ニコライは自分と相手の手札を両方知っているから負ける勝負はしないと思い、ニコライが大きく賭けた時にドロップをしていれば、ニコライの手が悪いものであっても細かく支払っていくことになってしまう。

 あるいはニコライにとっては能力がバレた方が有利になると踏んでいた可能性すらある。不利な状況であればあるほどに翻弄されてしまう。

 シードは目を逸らさず、持っている紙片を置いていく。


「私も、レイズです」

「ほお、この私がブラフで勝とうとしていると踏んでいるのか。残念だが、そう簡単に譲ったりはしないさ」


 ニコライが勝利を宣言しながら、手札を公開した。キングと五のツーペア……それに対して、シードの手は『フルハウス』


「……なッ! 確かにそちらはツーペアだったはず!」


 驚くニコライをよそに、シードは淡々と机の真ん中におかれていた紙片を取り、数に間違いがないかを数えていく。


「……私の能力は、貴方の能力に……よく似ています」


 確か、シードの能力は……テレパシー。しかしニコライの能力とは真逆で、思考を送ることしか出来ない能力だったはずだ。


「……ニコライさんの能力は『受信』で、私の能力は『送信』。嘘の情報を掴ませただけですよ」

「なるほど、一杯食わされたな。それにしても、何故それを」

「二度目は通じないだろうという判断です」


 シードはそう言いながら立ち上がり、ノアが席に座り、手拭いを目に巻きつけてアイマスクをする。


「能力による不正は証明不可能。これ以降、貴方の能力は役に立ちません」


 シードはそう言い放ち、ノアは目隠しをしたままカードを配る。能力による助言ゆえに聞こえはしないが、右から何番目のカードを交換する、などの伝え方をしているようで、ノアは数えながら交換を済ませ、レイズやコールを行なっていく。

 もうニコライの能力は通用せず、通常のポーカーと相違がない。駆け引きによる差と単純な運や計算もあるが、ニコライが細かなミスをしているのが目立つ。動揺しているのだろうか。


「……貴様がプレイ中にドロップした時、テレパシーで別のカードを覚えさせたのか」

「気がつくの早いですね」

「私がカウンティングを違うはずがないからな」


 愉快そうにニコライは笑う。いつも手玉に取る側だっただろうから、こうも何度も手玉に取られるのが珍しく愉快なのだろう。


「ああ、いいぞ……! 素晴らしい……! ここまで互角に争われたのは何年、何十年振りだ! 幼子の頃以来じゃないかっ!」


 嬉々としてはしゃぐニコライに対して、シードとノアは淡々とした態度で賭けを進めていく。細かな駆け引きをしながら、けれど能力が使えなくとも一日の長があるニコライに対して攻めきれずにいた。

 単純にノアの運がいいが、駆け引き自体では若干負け気味である。

 たまたま運が偏っているだけということを思えば、後になればなるほど確率が収束し、敗北に近寄るだろう。

 シードも能力の使いすぎからかバテ気味で、考えているのも合わさって息が荒くなってきていた。


「……わざと引き伸ばされていますね」

「だろうな。能力の限界がきたら、ニコライがまた有利になる」

「……早く終わらせないと」


 紙片の枚数はまだ半数も取り返し切れていない。息を切らし、フラフラとしながらも、シードは能力でノアに指示をし続ける。


「これは、持たないわね」

「……まだ、いけます」

「いや、無理だな。少なくとも終わらせるのは無理だ」


 シードは悔しそうに歯噛みし、リリィは焦燥を感じた表情を見せる。


「それだと勝ち目が……!」


 リリィの頭を撫でて安心するように言ってから、俺はシードに告げる。


「半分まで取り返せ」

「……はい!」


 クラクラとしているシードをリリィが支える。セーラの話によると、能力を使えば使うほど意識レベルが下がるらしい。

 俺は軽く伸びをしてから、ことの成り行きを見守った。

 ニコライは時間を引き伸ばすことを目的としていて勝ちに行っていないため、リリィがそうであったように徐々に押されてくる。それでもシードの限界の方が遥かに近そうだ。


「コール」


 ノアはテレパシーでの指示通りに言い、手札が互いに公開される。ノアの勝ちで、ニコライと同数の紙片を得て、ついにシードがグッタリとリリィに倒れかかる。


「ふむ、保った方だが、こんなものか。では、終わらせようか」


 ニコライはそう言い放つ。

 俺はノアの目隠しを取り、押しのけて椅子に座る。


「ふむ、勝つという自信がすごいな」

「当然だ。仲間がここまでやってきたんだ。負けるつもりでするわけがない」


 手札が配り終わり、ニコライはその手札を見る。


「どうした貴様、早く手札を手に取れ」


 真っ直ぐにニコライを睨みながら、自分の持っている紙片を全て前に出す。


「全て賭ける」

「……正気か」

「当然だ」


 心を読まれようと、読んだ俺自身がカードの内容を知らなければ一切の意味がない。

 伏せたままのカード、俺は椅子にふんぞり返り、ニコライを見る。

 当然のように交換をして役を揃えにいけるニコライの方が遥かに有利だが、確実といえる差ではない。繰り返し試行回数が増えるほどニコライが有利になるが、全てを賭けており、一度しかない以上、確率が収束する前に勝つことが出来るかもしれない。

 ニコライは口元を歪めながら、手札を入れ替える。


「理屈で分かっていても、そうそうできるものではない」

「お褒めにあずかり光栄、とでも言おうか」

「……ある種の化け物だな。迷いがない」


 ニコライはそう言いながら、俺に倣うように全て賭ける。


「じゃあ、これで最後だな」


 同時に手札が公開される。ニコライの手札はクイーンと三のツーペア、俺は四のスリーカードだった。


「……老いには勝てない……いや、若かろうと、負けていただろうな」

「どうかな。運良く勝つために必要な要素がすべて集まってくれただけだ」


 見ずとも、背後で仲間たちが微笑んでいるのを感じる。

 紙片は全てこちらの物になった。ニコライも愉快そうに口角を上げている。

 思わず舌打ちをして、椅子に深く座り直す。


「ゲームは終わりだ。おめでとう、ヨミヒト」

「……冗談じゃない」


 紙片を回収し、それを纏めてリリィに渡す。持ってきていた十七枚に加えて、ニコライの持っていた三十二枚が加わり合計四十九枚。これにロスヴィータに預けている紙片も加えると六十枚を超える。完成に必要なのが百枚程度だとしたら、過半数を得たことになる。


「これは私の連絡先とロシア支部の場所だ。困ったらいつでもくればいい」


 紙を俺のポケットに忍ばせてから、ニコライはそう言い、クルーザーから出ていく。


「ここでも歓迎したいがね、あまり用意がない。紅茶でよければ用意させるが」

「いや、このままだと日が暮れる。泊まることが出来ないのだから、早く戻りたい」


 またいつか、と言い合ってから別れ、そのままクルーザーで一息着いてから、孤島を抜け出す。

 長いこと揺られていたせいで酔って少し気持ち悪くなりながら、夕方になる前に陸に戻ってくることができた。

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