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COLON:SERIES - 異世界への扉と導かれし者達  作者: 暦史書管理機構
シグレの異端争議典
16/39

3-7:警告

 クルーザーに戻ると、ニコライ相手に奮闘するリリィの姿があった。覚えたてのルールに頭を悩ませるフリをしながら時間を稼いでいるらしい。

 だが、おそらくニコライにとってもそれは分かりきったことであり、足掻いている姿を見ることが好きなためにそれを見逃しているのだろう。

 戻った俺達に気付いて、ニコライは静かに喜びの表情を浮かべていた。


「ふむ……なかなかどうして、出来る」


 その褒め言葉も、目の前のリリィではなく、紙片をまだ隠し持っていたことに気がついた俺に対してのものだ。リリィはそれに気がつき、不愉快そうに眉を顰めながら、トランプを入れ替えていく。


「どうした、小娘。ゲームとは楽しみながらやるものだ」

「ふん、勝ちが決まったゲームほどつまらないものはないわね」


 リリィは心底愉快そうなニコライに向かって、大見得を切った。


「ほお、負けながらも大した自身ではないか」

「もちろんよ。ヨミヒトが勝つために動いているのだから、負けるわけがない」

「信頼か。私について来れるものは少なかったのでな。少し羨ましく思える」


 互いの手札が公開される。リリィが六のワンペア、ニコライがジャックのワンペアで、賭けていた八枚の紙片がニコライの元に移る。

 負けに負け続けて、ついには手持ちの紙片が半数を切った。つまりはイカサマがなくなったとしても不利な状況となってしまったということだ。


「加えて私の全財産を賭けたっていい。私達は勝つわ」


 その宣言に、ニコライは満足そうに頷く。


「ならば私もそれに倣おう。ヴァシレフスキーの名に賭けて、必ず勝つと宣言しよう」


 リリィは負け続けていたが、タダで紙片を渡していたわけではない。俺が頼んだのは、イカサマに使っている能力の正体を見極めることと時間稼ぎ。

 勝つのはあとでも良い。俺がリリィの肩に手を置くと、ニコライの真似をするように頷いた。


「いい度胸。でも、貴方の能力は分かったわ」

「……そのようだな」


 トランプを手に取りながら、続ける。


「人の心を読む能力。それがニコライ、貴方の能力よ」

「心を、読むだと……」


 ニコライは愉快そうに笑う。


「それで、どうする? 気がついたとしても対処が出来るものでもないだろう。無心にでもなっていると良いかもしれんな」

「今から考えるのよ。よし、じゃあ二人も戻ってきたから、作戦会議でもするわ」

「好きにすると良い。ああ、私の能力は二メートルほどしか届かないのでな。この席に着かない限りは読むことは出来ない」

「忠告どうも。手の長い人でも呼んでくればよかった」


 リリィは軽口のようにそう言う。

 退席するリリィと入れ替わりで俺が前に出て、ニコライの目の前に立つ。


「忘れ物だ」


 六枚の紙片をニコライに手渡し、ニコライは喜悦に顔を綻ばせる。


「……見つけたか。しかし、ルールとして盗難は不正であったな」

「他人の家に忘れていた物を運んでやっただけだ。それとも、不正を証明するために起訴でもしてみるか?」

「ほお、そこまで分かったのか」

「白々しい」


 俺が吐き捨てるように言うと、リリィが顔を顰める。


「ヨミヒト、そこ範囲内……」

「心を読むというのは内言を読む能力ということだろ。なら、内言と外言を一致させたら普通に話すのと変わらない」


 事もなさげにヨミヒトは言い放ち、紙片を手で弄りながら不敵な笑みを浮かべる。


「リリィは優秀だっただろう」

「ああ、おかげでカウンティングの手間が省けた。よくあれだけ覚えられるものだ」


 怒気を煽るように嘲笑うニコライに、俺は笑い返す。


「ノアも優秀だった。いなければ見つけるのに時間がかかったな」

「ああ、そのようだな」

「……少し、舐めすぎだ」

「若造が。私はニコライ・ヤコヴレヴィチ・ヴァシレフスキーである。お遊びの謎解きが出来た程度だろう、ここからどう突破する」

「今から考える」

「ほお、そうか」


 俺は椅子に座り、他の三人に目配せをする。三人は頷いて外に出ていき、ニコライは意外そうな目でこちらを見る。


「貴様は考えないのか」

「ああ」


 置いてあったカップを手に取り、ゆっくりと紅茶を口に運んでいく。口から煙草の煙のように湯気を吐き出しながら、トントンと、机を叩いた。

 波に揺られるクルーザーの中で、揺れが止まるほどゆっくりとした時間が流れていくように、二人は感じていた。


「考え方が似ている、か。私もそう感じていたところだ」


 ニコライは白い髭を撫でて、口にする。


「どうだ。この戦いが終われば、私の下に付かないか」

「生憎、俺はあんたほど自惚れていないからな。必要になるとは思えない」

「なら、何故残った。考え方が似ているから策をそのまま使えなくとも、添削程度なら出来るだろう」


 紅茶のカップを置いて、ニコライの表情を見る。


「心を読む手合いに対して、表情を読んで対抗するつもりか。無謀だな」

「暇つぶしに、紙片を賭けずにポーカーでもしてみるか」


 慣れた手付きでカードを配って、ニコライはそれを受け取り、話しながらカードを変えていく。


「何が聞きたい」

「この戦い、どう思う」

「そうだな……。争議典を考えるならば、一枚を手に入れた時点で隠れるものも少なくないであろうな」

「だが、それは主旨から反している。ルールを作っている異端書は所有者を求めている。だから……それで話が終わることはあり得ない」

「その通りだ。貴様はどう見るか」


 俺は手札を確認することもなく伏せて、「オールレイズ」と口にする。


「回す者がいる。これらは異端書の欠片ではあるが、より重要な物はまだ見ていない。紙片ではなく、“表紙と背表紙”……それの中に異端書の意識があり、他の紙片の位置を知らせる贔屓をしていると考える」

「同意見だ。紙片の位置を知るのは人の手では不可能。であれば、人の手では異端書自体の力が働くと考えるのが自然であろう」


 ニコライは交換を終えたカードをテーブルの上に置き「コール」と口にする。

 クルーザーの中に作戦会議を終えた三人が戻ってきた音がして、ニコライは頷く。


「この勝負は取っておこう。ここで終わらせるのはつまらない」


 俺は溜息を吐き出して、カードをそのまま置いて、開いた扉を見る。


「勝てるか?」


 その問いに答えたのは、ずっと戦っていたリリィでも、自信家のノアでもなかった。

「……はい」


 控えめに、けれど確かに、シードが頷いた。

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