七話
続きです。
「アマジキレン?……呼びにくいのでレンさん、とお呼びしてもいいですか?」
「もちろん……それより“さん”は付けなくてもいいよ。キミの方が年上だろう?」
ノクト、否、蓮は名前の由来等を聞かれないために、話を僅かに逸らそうと試みた。
(やってしまった。名前ならこの世界風の偽名を考えればよかったのに……人間焦ると何を言い出すか解ったもんじゃないな、まったく……)
蓮が内心ため息を吐いていると、シエルが、
「私は17歳ですが……レンさんは何歳なのですか?」
と聞いてきた。
「僕は16歳だよ」
と蓮が答えると、シエルは蒼穹の瞳を見開いて、
「ええっ!?言葉使いが大人のような感じだったので、てっきり年上だとばかり……」
驚きを顕わにした。
「そんなに驚くようなことかな……まあ、とにかくそんなわけだから“さん”は必要ないよ。むしろキミの方が年上だから……シエルさん、って呼んだ方がいいかな?」
と蓮が笑みを浮かべながら言うと、
「いっ、いえ!“さん”はいらないです!ただ……」
シエルは口ごもる。なにやら恥ずかしげに、眼を伏せたり上げたりを繰り返している。
「ただ?」
「~っ!あ、あの!し、シエル、と呼んでくれませんか?キミ、じゃなくてです」
蓮が問いかけると、シエルは顔全体を真っ赤に染めながらも言い切った。
「分かった。これからはそう呼ばせてもらうとしよう……シエル」
「~~っ!」
シエルは恥ずかしさのあまり、顔をあさっての方向にむける。
(ちょっとからかいすぎたかな?羞恥が怒りに変わらないうちに話題を変えるとしよう)
蓮はそう決めると、話題を変えるべく口を開き―――
「ねえちゃんに近づくな!」
背後からの殺気に反応し身をひねり、飛んできた拳を左手で受け止めた。
「うらぁぁぁぁ!」
殺気の根源である少年―――ラインは続けざまに拳を放ってくる。
(威力は申し分ない。狙いも正確だ。けど……)
「技術がなさすぎる」
蓮はそう言うや否や、ラインの右手を腕ごと掴み、
「ふっ!」
背負い投げのごとく、地面に叩き付けた。
「がはっ!」
それなりの威力を持って叩き付けたためか、ラインは苦しげにのた打ち回った。
「ライン!!」
そこでようやく、突然の事態に固まっていたシエルが反応する。
「うあ……?ねえちゃん!?大丈夫!?あいつらに酷い事されなかった?」
「私は大丈夫だよ。レンさん……ラインがたった今、殴りかかっていった人が助けてくれたから」
「え……うそ……」
シエルが状況を説明すると、ラインは顔を青ざめさせ、
「ごっ、ごめんなさい!知らなかったとはいえ、助けてくれた人を殴ろうとして……」
謝罪を口にした。
「かまわないよ。自分の姉を守ろうという気概が伝わってきたからね」
(それにすぐに自らの非を認め、謝罪した点も評価できる)
蓮がラインの事を評価していると、
「私からも謝らせてくださいっ!弟が迷惑をおかけしました!」
シエルが頭を下げてきた。
「謝る必要はないんだけどな……怪我をしたわけじゃないし」
(むしろ謝るのは僕の方なんだけどな。割と手加減なしで叩き付けちゃったし……)
だが、実際に謝りはしない。ラインの今後のために。
(この世界で殺気をぶつけたあげく、殴りかかったら殺されてもおかしくはない。いや、むしろ殺されない方が不自然だ。その場合は、別な形での謝罪を要求される可能性が高い)
金銭や身体で、と言う人も珍しくない世の中なのだ。姉のためにも、今後不躾な行動は控えてほしい。
そう願う蓮であったが、
「でもねえちゃんに手を出したら許さないからな!」
……ラインはそう言いながら再び殺気を放ってきた。
「こらっ!そんなこと言わないの!すみません、本当に……」
「……いや、いいよ別に……」
(この調子じゃ、まだまだかな)
内心ため息を吐く蓮であった。
ここから主人公の呼び方が変わります。
これは主人公自身がボロを出してしまわないように、と自分自身を戒めたためです。
加えて、千年後ということを意識させるためです。
なのでこれからは、基本的には蓮という呼び名になります。