六話
続きです。
「…………」
ノクトは絶句した。
(なんて聡い子なんだ……哀しみまでをも見抜いてくるなんて……)
そう、ノクトは怒りだけでなく、哀しみも覚えていた。もう二度と仲間達に会えないこと、親友であるリヒトやシャルルに会えないこと、なにより“皆”が袂を分かち、決別したということに。
「はは……」
ノクトの胸中は空虚で満ちていた。もはや自分がこの世界にいる意味などない。大切な人たちがいない世界に、一人残ることに何の意味があるのか。思考を巡らせても、答えが出ない。
―――不意に、思考が断ち切られた。
「……っ!」
気が付くと、ノクトは少女に頭を抱きしめられていた。まるで震える幼子をあやすかのように優しく、温かい抱擁だった。
―――大丈夫ですよ。きっと―――
少女には、眼前の少年の胸中が解らなかった。しかし少女には、途方に暮れ、嘆き悲しんでいるように見えた。自分たちを救ってくれた恩人だから、という思いだけではなく、なんとかして少年の哀しみを癒してあげたいという思いが、少女を突き動かしたのだ。
「…………」
瞬く間に、ノクトの胸中は温かいモノで満ちていった。今日初めて出会い、助けた少女。怯え、それでも弟を守ろうとしていた少女。なんの力も持っていないはずの少女から、今まさに、尊いものを貰った。 そんな気がした。
(温かい……そうだ、僕にはやることがあったじゃないか……)
眼前の少女と少年を導かねばならない。彼らが暮らしていた村は壊滅し、生き残りは彼ら以外にいないのだから…。
(嘆くのは後にしよう。今は、彼らの今後を考えるべきだ。まずは……)
そう決意し、ノクトは少女の抱擁から脱する。
「ありがとう……おかげで落ち着いたよ」
ノクトは微笑みながら、少女に告げる。
すると少女は頬を赤く染め、
「いいえっ!私がしたくてしたことでふから!」
と噛みながら、両手をパタパタと振り、
「そっ、そういえば自己紹介がまだでしたねっ!」
と照れをごまかすかのように言った。
「そういえば、そうだった……」
少女から語られた事の衝撃が大きすぎて、今の今まで失念していた。
(名前って、最初に聞くべきだったのに……やってしまったな)
思わず苦笑を浮かべる。そこへ、
「まずは、私たちから名乗らせていただきます」
と声が掛かった。
「私の名は、シエルです。そこで寝ている弟は、ラインと言います」
少女―――もとい、シエルはそう名乗ると、
「それで……貴方の名前は……」
と尋ねてきた。
「それは……」
ノクトはその問いに言いよどむ。なにせ自分は今や千年前の人物だ。加えて、黒髪黒目という容姿はこの世界には存在しない―――少なくとも千年前は、だが。
しかも、英雄王として広く名前が知れ渡ってしまっている以上、リヒトに付けてもらったノクトという名を名乗るのは色々とまずい気がする。
ノクトは、瞬時にそう考え―――名乗った。
「僕の名は……蓮。天喰蓮だよ」
―――元の世界での名を。




