五話
続きです。
愕然とした。あり得ないと、目の前の現実を否定したかった。あるいは少女が虚言を述べているのだと、信じたかった。
(はは……嘘だ……千年後だって?あり得ない。いや、あり得てはならない。だって、それはつまりもう“皆”に会えないってことに……)
ノクトは乾いた笑みを浮かべた。そこで、
「あの、大丈夫ですか?顔色が悪いみたいですけど」
少女の一言で現実に引き戻された。同時に、此処は現実なんだと自覚させられる。
「……いや、大丈夫だよ。少しばかり考え事をしていてね」
ノクトはかろうじて返事をすると、天を仰いだ。
(気持ちを切り替えろ……現実を受け入れて前に進まなければ、待っているのは停滞、そして“死”だ。)
ノクトは己にそう言い聞かせ、強引に思考を断ち切る。そして、視線を眼前の少女に戻すと、気になっていたことを聞いた。
「さっき大帝国って言ったよね。アインスは、建国時は帝国って呼ばれていたはずだけど、いつから大帝国になったんだい?」
それに対し、少女は困惑を浮かべながらも
「建国時って……確かにそう呼ばれていた時期もあったみたいですけど、建国祭の次の日、のちに“絶望の日”と呼ばれることとなった日に起きた事件をきっかけに、大帝国と呼ばれることになったんですよ」
「……絶望の日?」
「はい。英雄王が忽然と姿を消し、更には“五帝星君”の一人である“竜王帝”が突如反旗を翻し、竜人族を率いてイグナイトに侵攻。
加えて精霊族、妖精族も敵対を宣言し、世界大戦が起こりかけました」
少女は一旦言葉を切り、唇を湿らせて
「事態を重く見た神は、各種族をそれぞれの大陸に強制送還し、更に各大陸を繋ぐ“神門”を封鎖しました」
と言った。更に、
「人族は、こんな悲惨な事態になったのはアインス帝国の所為ではないのか、とアインスを非難しました。そして貴族家が次々に離反し、各々国を作りました。なんとか離反を止めた頃には、国土は三分の一まで減少。その頃から、アインスは大帝国と名乗るようになったそうです」
衝撃的な事実を口にした。
(僕が居なくなったことで、あんなにも団結していた皆がばらばらになるなんて……なんてことしてくれたんだルミナス!何故、僕を突然千年後に飛ばした!何故、皆に何も説明しなかったんだっ!)
ノクトは怒りに肩を震わせ、天を睨みつけた。膨大な殺気が膨れ上がり、空間を軋ませる。
しかし、
「ひっ!」
少女の悲鳴で我に返った。
ノクトは即座に殺気を抑え込み、穏やかな笑みを取り繕い、
「ごめん。キミを脅す気はなかったんだ。どうか許してほしい」
と言った。
少女は怯えながらも、必死に笑顔を浮かべると、
「いっ、いえ。大丈夫ですっ!それよりも、あなたこそ大丈夫ですか?何だか怒っているというか、哀しんでいるような……」
と言った。




