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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
一章 英雄の再臨
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三話

続きです。

 そこは怒声と悲鳴で満ちていた。おそらくは穏やかな風景が広がる農村であったはずだが、今やその面影はない。老若男女の区別なく、村人たちは物言わぬ死体と化していた。かろうじて生きていた者たちも、ある者は拷問まがいの虐待を、またある者は欲望のはけ口にされていた。

 ――地獄だった。人が人を虐げる光景。それを成していたのは、見慣れぬ紋章旗を掲げた兵士たち。

 (なんだこれは…人族同士でこのようなまねをするなんて…それにあの兵士たちは一体どこの所属だ?)

 その光景を、ノクトは建物の陰から見つめていた。魔物に襲われているのなら、すぐにでも介入しようと意気込んできたが…兵士たちの暴虐を見て思いとどまったのだ。

 (アインスのどの貴族家や部隊にも当てはまらない。紋章旗が増えたなんて聞いてないぞ)

 ノクトは、人族の英雄にしてアインス帝国の重鎮“大将軍”の地位に居る。紋章旗が増えたなら、すぐにでも知らせが届くはずだ。

 (…まあいいや。どの所属だったとしても、無辜の民を傷つける者たちはこの国に必要ない)

 ノクトは今後のアインスに、今まさに暴虐を行っている兵士たちは必要ないと判断を下す。

 そして“白帝”(ブリューナク)を呼び出すや、近くの兵士に向かっていった。

 『なんだ、貴様は!?』

 驚く兵士に一閃―――だがなぜか、その兵士の周りにいた仲間たち4人の首も飛んでいた。

 他の兵士たちはしばし呆然としていたが―――5個の首が地面に落ちる音で我に返った。

 『ふ、ふざけるなあぁぁぁぁぁ!』

 『殺せぇッッッ!』

 突如として現れ、仲間を殺した黒髪の少年に対し、手にしていた剣や槍を突き出す。

 だが、

 『おごッ、ガアァ』

 『ば、化け物めぇぇぇぇ』

 瞬く間に、その命を刈り取られていく。慈悲などなかった。ただただ、死。黒髪の少年は兵士たちに終焉をもたらしていった。

 

 ―――静寂が訪れる。


 「…終わったか」

 ノクトはそうつぶやくと“白帝”を虚空にしまい、辺りを見渡す。

 …生きている者は皆無だった。

 (村人も全員殺されたか…迷わず飛び出していたら…いや、今更後悔しても遅い)

 ノクトは天を仰ぎ、

 「僕は、あの時から後悔してばかりだな…つくづく自分の甘さが嫌になる」

 と己の甘さを呪った―――その時だった。

 「ライン、しっかりして!!」

 ノクトの耳に、子供らしき声が聞こえてきた。

 (ッッ!まだ生存者が!?)

 ノクトはその声の元へ駆けた。すると、半壊した家屋の壁にもたれかかっている少年と、その少年に必死に声を掛ける少女の姿があった。

 「キミたち、だいじょうぶかい?」

 ノクトがそう声を掛けると、少女はビクリと肩を震わせこちらに振り返った。おだやかな海を思わせる青髪に、蒼穹の瞳、一目で見目麗しいと分かる容姿。だが、その美しい顔は血で汚れ、恐怖と怒り、なにより焦りで曇っていた。

 「こ、こないで!これ以上、私たちにかまわないでください!」

 そう言って、少女は意識がないらしい少年をかばうように手を広げる。

 それに対し、ノクトは両手を挙げ、

 「おちついて。キミたちを傷つける気はないよ。それに、この村を襲った兵士たちはもういないから」

 おちつかせるように言った。だが、

 「ウソですっ!だって、さっきまでみんなの悲鳴が―――っあれ?聞こえない…?」

 興奮から一転、少女は困惑に顔をゆがめる。

 「兵士たちは僕が倒した。それより…後ろにいる子は大丈夫なのかい?」

 (気絶しているのか、それとも…)

 最悪を想定したが、少女がそれを否定する。

 「ラインは、えっと、わたしの弟はわたしを守ろうと兵士に立ち向かったんです。でも、兵士に殴り飛ばされて壁にぶつかって…それから目を覚まさないんです」

 (最低最悪だ。子供にまで危害を加えるなどと…殺して正解だったな)

 ノクトは必死に怒りを抑え込むと、おだやかな笑みを浮かべた。

 「そうだったのか…よく頑張ったね。もうキミたちを傷つける者はいない。それよりも、キミの弟さん…ラインって言ったかな。彼を治療してあげよう」

 そう言ったノクトは“天銀皇”(アガートラム)から霊薬を取り出した。

 霊薬とは、精霊族と人族の薬師が共同で作りあげた、驚異的な回復力をもたらす薬だ。その回復力は、ちぎれた腕をくっつけてしまうほどのものだ。もっとも、ちぎれてから1分以内という制限はあるし、なにより素材が貴重すぎて量産はできないという欠点はあるのだが。

 ノクトはその霊薬をためらわずに少年に振り掛ける―――すると、瞬く間に怪我が治っていった。

 「えっ、凄い!傷が治った!?」

 少女は驚きに顔を染め、それからノクトに顔を向けると、

 「あのっ!弟を助けていただき、ありがとうございましゅ」

 …盛大に噛んだ。ノクトはどう反応していいか分からず、困惑する。

 すると少女は頬を真っ赤に染め、

 「あっ、ありがとうございます」

 と言い直すのだった。

 


 

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