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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
三章 動乱の世界
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四話

続きです。

 大帝都クライノートの街並みは、中心に座する帝城アヴァロンから放射状に広がっている。

 帝城に近ければ近いほど身分の高い者の家が建てられていた。

 蓮は現在、帝城を出てすぐにある一軒の屋敷にいた。

 そこは東域の五大貴族フィンガー家の屋敷だった。

 「あなたがレン殿下ですか。初めまして、私はフィンガー家現当主バルト・シュテルケ・フォン・フィンガーと申します」

 蓮の眼前に立っていた男がそう名乗った。

 「初めまして、レン・シュバルツ・フォン・アインスです。先ほど皇族の末席に加えられた身です。弱輩ものではありますが、よろしくお願いします」

 蓮がそう言って手を差し出せば、男もまた握り返してきた。

 バルト・シュテルケ・フォン・フィンガー。

 五大貴族フィンガー家の現当主であり、第五皇女であるルナを支持している東域貴族の筆頭格だ。齢四十でありながら引き締まった体躯をしており、未だ衰えを知らないと言わんばかりの覇気に満ちていた。 「まずは食事でもどうでしょうか。宴席ではほとんど召し上がらずにここまで来られたのでしょう?」

 「ええ、そうなんですよ。なのでその申し出をありがたく受けさせていただくとします」

 と、蓮が答えればバルトはこちらです、と先行した。

 「じゃあ、行こうか」

 蓮は今まで黙っていたルナに声を掛けると、バルトの後に続いた。

 (ルナ、眠そうだな……)

 横目でちらりと見やれば、ルナが眠たげに目じりをこすっているのが分かった。

 (さっさと切り上げて正解だったかな)

 ルナを支持するという蓮の宣言は波紋をもたらした。なにせルナを支持するということは、同じくルナを支持している東域の五大貴族フィンガー家を支持すると言っているにも等しい。

 故に東域貴族たちは歓喜したが、他の貴族たちは驚きと動揺で揺れ動いていた。なので蓮はこれ以上余計なことが起こる前にと、ルナを連れてその場を後にしたのだった。

 そしてその足でフィンガー家にあいさつに行くことにした。幸いルナが大帝都で泊まっている所がフィンガー家の屋敷だったため、道に迷うことなくたどり着き、今に至る。

 (あのまま僕があそこにいても、お互い気まずいだけだったろうし)

 と蓮は考えていたが、真実は違っていたりする。

 宴席にいた貴族たちは地位や立場に関係なく、一言でもいいから蓮と話したいと考えている者が大多数を占めていた。英雄王の末裔というのは貴賤を問わず尊敬の的なのだが、蓮がそれに気づくのはしばらく先の話だ。

 「さて、席についてください。食事の用意はすでにできております」

 バルトはそう言うと大広間に置かれた長机を指差した。そこには所狭しと、見るからに豪勢な食事が並べられていた。

 蓮はルナのために上座を開けようとし、机の中央あたりの席に腰かけたのだが、ルナは蓮の横に座ってしまう。

 「ルナ……?」

 と言う蓮の言葉に、ルナは美味しそうな匂いに気を取られつつも答えてくれた。

 「レンの隣がいい……ダメ?」

 上目遣いにそう言われては蓮とて拒否できようはずもなかった。

 「……わかったよ。バルトさん、そういうわけなので……」

 蓮が申し訳なさそうに言えば、バルトは驚きから立ち直って返事を返してきた。

 「もちろんかまいませんよ……いや、しかし驚いた」

 「何がです?」

 「実はルナの母は私の遠戚の者でして、ルナが幼いころからよくここに遊びにきたりと、家族のような関係でしてね。ルナが誰かにそんなに懐くのは初めてのことだったので驚いてしまいました」

 バルトはそう言って、笑みを浮かべた。娘をみるかのような温かい視線に、蓮は安堵する。

 (味方が少ないかと心配していたけど……こんなにも頼れる人がいるなら安心だ)

 横目で見れば、ルナが気恥ずかしそうに頬を赤くしているのが分かった。

 (家族、か……)

 蓮は故郷にいる家族の事を思い出し、少しばかり郷愁に浸るのだった。


 それからしばらく談笑しながら食事をとり、バルトには息子と娘が一人ずついるという話で「ルナも娘の一人だな」と言うバルトに、ルナが「……羞恥で殺す気?」と返していると、大広間の扉が派手な音を奏でて開かれた。

 入ってきたのは帝城の文官だった。

 『急報、急報にございます!』

 彼は息を切らせながらも、

 『ルフト属州で大規模な反乱が発生!更に、アルカディア騎士国が侵攻を開始!すでに属州内に入ったとのことです!』

 と言い切った。

 「なんだとっ!」

 バルトが驚きのあまり立ち上がる。蓮もまた驚きに包まれていた。

 (いくらなんでも早すぎる。何故だ……?)

 蓮の見立てでは、周辺諸国が末裔という存在の真偽を確かめようとするか、無視するかを決めるのには一月はかかるとみていた。だが、アルカディア騎士国は即座に打って出てきた。

 (国内の意見をまとめるのが早すぎる。いや、世論を無視しての強行か?)

 なんにせよ実際問題として、攻めてきたのなら対処しなければならないだろう。

 そこまで考えた蓮に、先ほどの文官が声を掛けてきた。

 『レン殿下、並びにルナ殿下は今すぐ帝城に来るようにとのことです』

 「……それは皇帝陛下の命?」

 『はい、その通りです』

 ルナの問いに、文官が答えた。

 皇帝が呼んでいる。ならば話は後だろう。

 「バルトさん、僕とルナはもう行きます。話の続きはまた今度ということで」

 頷くバルトを後目に、蓮はルナの手を握ると走り出した。

 「……レン?」

 「今は帝城に向かうのがなにより優先すべきことだよ。それになるべく急ぐ必要がある」

 迎撃するにしても、講和するにしても早くしなければ被害は増える一方だからだ。

 それを理解したのだろう。屋敷の外に出たルナは頷くと―――立ち止まった。

 「ルナ!?」

 驚く蓮の身体を有無を言わさず華奢な腕で持ち上げたルナは、

 「……こうした方が早い」

 と言って跳躍し、虚空を踏みしめると(、、、、、、、、、)、そのまま帝城の方へと向かった。

 「これは……」

 最初は驚いていた蓮だったが、“翠帝”(ミストルティン)の特性を思い出して納得した。

 (風を司る“翠帝”の力で、空中に風の足場を作り出してるんだ)

 戦場では弓兵のいい的だが、大帝都のような建物が多い所では有効的な使い方だろう。入り組んだ地上を走るより、障害物のない空を進んだ方が確実に早いのだから。

 (流石は覇彩剣五帝の中で、もっとも応用性が高いと言われただけのことはある……いや、この場合はその発想に至ったルナをほめるべきか)

 蓮はルナに抱きかかえられ、空を飛んでいる状態でそんなことを考えるのだった。

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