二話
続きです。
歩き始めてから体感で半刻ほどだろうか。ノクトは森から出ることに成功していた。
「やっと出られた…代わり映えしない景色だったから、退屈だったよ」
疲れたという言葉が出てこないのは、ノクトの身体能力が“白帝”の加護で底上げされているためだ。常人であれば、整備された道のない森の中を半刻も歩き続けることは困難を極めるだろう。もっとも、“白帝”があることが当たり前になっているノクトは、その事に気づいていないのだが。
「さてと、ここは大陸のどの辺りなのかな?」
そうつぶやきながらノクトは辺りを見渡す―――が、
「分からないな…」
…辺り一面草原だった。これと言って目立つものはなにもない。ノクトはがっくりと肩を落とし、
「…しょうがない。また歩いて人里でも探そう」
そうつぶやくのだった。
*
「うん…?あれは…」
歩き続けることさらに半刻。ノクトの視界に見えてきたのは、天に立ち上る黒煙だった。
(煙ってことは、誰かが火を使っている可能性が高い。やっと人に会えるかもしれないな。…でもなんだろう、嫌な予感がする)
黒煙をあげるほどの火は、日常生活では使わない。それに黒煙は、戦争の際に嫌というほど目にしている。ノクトは不安に駆られた。
「とにかく行ってみるか。このままじゃ、らちが明かないし」
そう自分に言い聞かせ、黒煙の上がる方へ足を向けた―――その時だった。
「…悲鳴?」
ノクトの耳に、かすかにだが人の悲鳴が聞こえてきた。それは前方の黒煙の方から聞こえてくる。
(…っ!魔物にでも襲われているのかッ…!だとしたら助けないと)
人族を救う。かつてノクトが戦友と交わした誓い。それを果たす時が再び来た。
「救って見せるさ…何度でも」
そう言うや否や、ノクトは悲鳴の元へ走りだした。