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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
二章 北方征伐
37/223

十四話

続きです。

**** ****


 一方その頃―――

 アリアは斥候からの報告を聞き、決断を迫られていた。

 「前線が皇都内部へと移行、皇都周辺に敵なし―――か」

 騎馬隊五千による強襲で皇都外周部にいた敵を蹴散らした―――まではよかったのだが、前線を皇都内部へ移されては騎馬隊の本領である突破力は無効化されたようなものだろう。

 (敵の指揮官は咄嗟の判断力に優れているとみえる)

 敵はこちらの攻撃を受けて瞬時に皇都内へ後退していってしまった。だが、それは苦肉の策ともいえるだろう。

 なぜなら敵は皇都内に残存している守備軍と外部から攻め入ってきた鎮圧軍に挟まれる形になったからだ。

 前後を敵で囲まれれば全滅は必定―――なのだが、

 (敵はおそらく援軍を期待しているのだろうな)

 今回の戦いでは南方貴族たちは鎮圧に協力しているが、それ以外の地域―――東方、西方、北方の貴族は日和見を決め込んでいる。おそらく彼らは勝敗が決するか、もしくはエドガー第一皇子が皇位簒奪を達成するまでは動かないだろう。

 だからこそ敵は市街地戦に持ち込んでまで時間を稼いでいるのだと予想できる。だからこそその策を打ち破らねばなるまい。

 アリアは考え込んでいた顔をあげると、隣にいたデニス伯爵に話しかける。

 「デニス伯爵、こちらは任せてもいいか?」

 「アリア殿!?」

 突然の発言に驚くデニス伯爵に、アリアは説明していく。

 「先ほど斥候からの報告にもあった通り、あちらの指揮官はあの(、、)キール将軍だ。生半可な兵では相手にもならんだろう。ゆえに私が行こうと思う」

 「……確かにキール将軍は“戦狂い”とまで呼ばれているほどの武力を誇っている。だがしかし、私は軍を指揮した経験などありませんぞ?」

 不安げな表情を浮かべるデニス伯爵。そんな彼に対しアリアは安心させるかのように微笑みかける。

 「大丈夫ですよ。ここにいる第二陣三千は、他地域の貴族が敵の援軍としてきた際の保険として用意しましたが、この様子では大局が定まるまで来ないでしょう。ですから指揮するとは言っても実際に戦うことにはならないかと」

 「そうですが……」

 なおも不安がるデニス伯爵にアリアは天を見るように言った。

 「あの御旗がある限り、我らに敗北の二文字はない。それにもう少しすれば主殿が終わらせてくれるでしょうから」

 天にたなびく黒竜の大旗。それは千年以上使われることのなかった英雄王の御旗。アインス大帝国では“軍神”の神旗とも呼ばれており、神聖視されている。

 「……そうですね、私も腹をくくるとしましょう。これでも皇家に忠誠を誓った身なればこの程度の責務、果たしてごらんにいれましょうぞ」

 それを見たデニス伯爵は覇気を取り戻し、覚悟を決めた表情を浮かべる。

 「では、私は往くとしよう……伯爵、頼みましたよ」

 アリアはそう言うと、呼び寄せていた愛馬の背にまたがり皇都へと駆けて行った。


 *


 皇都シュネーはさながら地獄の様相であった。

 天には建物等が燃えた際にでる黒煙が立ち上り、地上では剣戟の音が鳴り響き、そこらかしこで怨嗟の声が漏れ出ていた。

 そんな地獄で一際異質な空間があった。

 そこでは青髪の少年が暴虐の嵐を創り上げていた。

 『な、なんだこいつは!?』

 『がはぁ』

 少年が繰り出す剣戟の乱舞に多くの命が刈り取られていく。

 『ひぃ―――』

 『ひるむな!相手は一人だぞ!たたか―――ぐぎゃぁ』

 十数人で取り囲むも、恐るべき速度で繰り出される斬撃によって瞬く間に切り伏せられていった。

 そこへ―――

 「おまえらは下がっとけ。こいつの相手は俺が受け持とう」

 筋骨隆々、その太い体躯から覇気を放つ偉丈夫が現れた。

 『キール将軍!』

 「おうよ、なんかやべぇのがいると聞いてきたんだが―――これはとびきりやばそうだな」

 キール将軍は視界に映る青髪の少年を見やる。

 少年は憤怒の形相でこちらを見つめているが、気になったのはその細身の体躯から発せられている紫色の光だった。

 「なんだありゃあ?あんなの見たこと―――っ」

 不意に声が途切れさせたキール将軍は、驚異的な速度で距離をつぶしてきた少年が繰り出した一撃を身をひねって回避すると後ろ手で背負っていた大剣を抜いた。

 「おいおい、戦う前の口上もなしかよ」

 と、うそぶいたキール将軍は手にした大剣で続く二撃目を防ぐと勢い任せに少年を吹き飛ばした。

 「ご、あがっ」

 少年は背後にあった建物に激突すると、地面に転げ落ちた。

 それを油断なく見つめたキール将軍は、

 「おい、おまえら!今のうちに行け。ここは任せろって言ったろうが」

 『し、しかし―――』

 「しかしじゃねぇ、前線が押され気味だ。お前らはそれを手伝いに行けってことだよ」

 と、言って部下を立ち去らせた。

 「手ごたえはあったが―――なにか妙だな……勢いを緩和されたっていうか―――なにっ」

 思案していたキール将軍だったが、不意に眼前まで迫った少年に驚愕する。

 少年は手にしていた剣を下から突き上げてきたが、キール将軍は咄嗟に大剣を前に出して刀身で受けた。

 「が、アアアァァ!!」

 「く、そ、がぁ!」

 キール将軍は、体勢を崩した少年に向けて横なぎの一撃を放つ―――が、少年は剣を縦にして受けきった。

 「なんだとっ、一体その体のどこにそんな膂力が―――」

 「あがアアアァァ!」

 両者がぶつけあう剣が不協和音を奏でる。少年を見やれば、いつの間にか全身を覆っていた紫光が手にしている剣にまで及んでいた。

 「なんなんだよっ、おまえは!」

 「ころす……殺す!!」

 キール将軍の問いかけに、少年は答えずただただ憤怒と殺意に満ちた声を上げていた。

 そして―――均衡は崩れた。

 「ガアァアアア!」

 「―――っ」

 少年が咆哮した瞬間、剣にかかる圧力が増し、キール将軍は勢いよく吹き飛ばされ―――背後にあった建物にぶつかった。

 あまりの衝撃に建物は崩壊し、キール将軍は瓦礫に埋もれて行った。

 「はあ、はあ、はあ」

 少年―――ラインは崩れ落ちそうになる体を気合で持たせると、

 「まだだ、まだ敵はいる……殺さないとみんなが―――」

 と、言ったが無情にも体から力が抜け倒れ込んでしまった。

 「ま……だ……」

 そしてラインの意識が途絶えて行った。


 「まだまだぁ!」

 轟音とともに瓦礫が吹き飛ばされていく。土煙が吹き上げる中、それをかき分けて現れたのは―――キール将軍だった。

 「く、はは!やるではないか、少年!!だが、俺はまだ倒れてはおらんぞ」

 キール将軍は額から流れ落ちる血をぬぐうと、視線を正面へ向けた。

 「……ん?なんだ少年、もう終わりか?」

 そして倒れ込むラインの元へ歩いていくと、

 「おい、俺をここまで昂らせておいてそれはないだろう」

 足で小突いた。

 「……はぁ、ほんとに終わりかよ……なら」

 と、言ったキール将軍は大剣の切っ先をラインに向ける。

 「もっと楽しみたかったが、仕方ない。お前は俺の部下を殺ったみたいだし、ここは戦場だ。殺るか殺られるか、だからな」

 そして大剣を振り上げると―――硬直した。

 理由は単純。激烈なまでの殺気が体を貫いたからだ。

 キール将軍が急いで視線を上げると―――そこには白銀の鎧を纏った一人の女が居た。

 「確かにここは戦場で、殺すか殺されるかの世界だ。なら、貴様も覚悟はできていような」

 女は紅水晶(ローズクォーツ)の髪をたなびかせ、

 「私の弟子を傷つけたんだ、楽に死ねるとは思わない事だ」

 手にしていた剣の切っ先を向けてくるのだった。

 

実は一回書いている最中にフリーズして消えてしまうというアクシデントがありました。

萎えましたが、ご飯を食べたら気力が回復し、今に至ります。

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