表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
一章 英雄の再臨
3/223

一話

太陽が木々を照らしている。暖かな春の陽気が、森を包み込んでいた。

 穏やかな風景。しかし、そこに異物が紛れ込んでいる。

 それは―――人だった。まだ少年と言ってよい年齢の男。

 少年は黒髪に、白銀の軍服を纏っていた。

 「う……あぁ……」

 その少年、ノクトはうめき声をあげながら地面から起き上がる。

 「なんだか悪夢を見ていた様な…そんな気がするな」

 そして辺りを見渡す―――

 「えっ、ここはいったい何処なんだ…?」

 呆然とした。

 (僕は確か帝城の露台(バルコニー)にいて…これから演説があるからって言われて…言われて?誰に?)

 思い出せない。とても大切な人だった気がするのだが…どうしても姿かたちや名前が出てこない。

 (…思い出せないなら仕方ない。時間がたてば思い出せるかもしれない。今は自分の現状を把握すべきだ)

 「まずは、ここがシュテルンなのか…それを確認してみるか」

 ノクトはそう言って、目の前の虚空に右手をかざす。

 すると、どこからともなく光の粒子が集まり始める。それは瞬く間に光り輝く剣に変化する。

 「おっ、ちゃんと出てきてくれたか」

 その剣の名は“白帝”(ブリューナク)。かつて神が人族に授けた“覇彩剣五帝”(はさいけんごてい)という五振りの剣、その内の一振りだ。そして、この剣は異世界シュテルンでしか顕現できないという特徴がある。逆に言えば、出せればここはシュテルン、ということになる。

 (此処はシュテルンなのか…別な世界とかに飛ばされてなくてよかった)

 ノクトは安堵の息を吐く。他の世界に飛ばされていたらと、気が気でなかったのだ。

 そして自分の身体を見下ろして、

 「ということは…よかった、ちゃんと着てる」

 また安堵の息を零す。そこには“天銀皇”(アガートラム)と呼ばれる白銀の軍服があった。

 “天銀皇”とは、魔族との戦争の最中に手に入れた意思を持った特殊な外套だ。姿を自在に変えることができ、今はアインツ帝国の軍服に変化している。

 (この世界はシュテルンで、記憶を除けば自分の状態に変化はない…なら次は、ここがシュテルンのどの辺りなのかってことを把握すべき…いや、その前に)

 「自分になにが起こったのか、それを考えるべきだよな」

 自分に言い聞かせるかのようにそう呟く。

 (状況的に、帝城の露台から転移したってことだけは容易に想像がつくけど…)

 何故転移したのか、それを考える必要がある。

 (あの時、突然視界が白く染まって…それからだれか(・・・)が僕を呼んでる声が聞こえて…そして…そして……そうだ!ルミナス、あの神の姿が見えて…謝っていた?ような気がするな)

 ノクトは必死に記憶をたどる―――が、それ以上は、思い出せなかった。

 「う~ん、記憶がいまいちはっきりしないけど…おそらく、ルミナスに転移させられたんだろうな」

 そう結論づけることにした。ふと、そこで疑問がわく。

 (何故、今更転移なんかしたんだ?しかもシュテルン内に。人族を救うって役目を果たしたから、元の世界に帰すっていうなら、まだ理解はできるんだけど)

 もっとも、そうなった場合、理解はするが納得はできないのだが。

 「まぁ、元の世界にいきなり帰されなかっただけましかな。帰るにしたって、皆に別れを言ったりしたいし」

 いきなり連れてこられて、役目が終わったら即座に帰す、という最悪の展開にならなかっただけでも御の字だ。なにせ自分にはそれを防ぐ力はないのだから。

 (記憶の事といい、転移のことといい分かっていないことは沢山ある…これからどうすべきか)

 ノクトはこれからの事を考える。

 (まずは、この森から出てみよう。開けた所に出ればここが何処か分かるかもしれない…分からなかったら、人を探して聞けば問題ないかな)

 魔族(アスラ)を駆逐した今の世であれば、人は大陸中を自由に闊歩することができる。ならば、適当にぶらつけば会うのはたやすいはず、とノクトは考えた。

 「さて、考えを纏めたところで行こうかな」

 そうつぶやくと、ノクトは森の中を歩き始めた。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ