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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
二章 北方征伐
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二話

続きです。

神聖殿―――それは女神ルミナスを祭った祭殿。各種族につき一戸作られ、そこには巫女と呼ばれる神力を扱うことのできる存在が居る。

 人族の巫女は緋巫女と呼ばれ、人々から崇められており、その発言力は諸国が無視できないほどに強大であった。

 そして今、蓮達はその神聖殿の前まで来ていた。

 「すげえ……浮いてる(、、、、)……」

 そう呟いたのは驚愕の表情で固まっているラインだ。その視線は眼前に広がる湖の()に向けられている。

 そこには白亜の神殿が空中(、、)に鎮座していた。

 「へえ、これは……」

 思わずといった様子で声を漏らしたのは蓮だ。その表情もまた、驚きで彩られている。

 (千年前は地面にあったんだけど……)

 おそらく歴代の緋巫女達が神力を用いて宙に浮かせたのだろう。物理法則を曲げるほどの所業はいくら緋巫女とはいえ、一代では不可能だ。

 それ故に長い年月がかかったのだろうと蓮は推測した。

 (しかしなぜこんな真似を?)

 疑問が浮かび上がる。魔族がいない今、神聖殿が戦火に晒されることはまず無いといっていい。なぜならここは人族にとっては聖地のようなもの。緋巫女の力を欲して侵攻などすれば、周辺諸国から袋叩きにされるのが明白だからだ。

 加えて神聖殿には緋巫女直属の神殿騎士団なる存在が居り、現在はアインスの第二皇軍も守護についている。守りはほぼ完璧に思えた。

 疑問符を浮かべる蓮に、驚きで興奮しているライン。そんな二人に突如、誰何の声が掛かった。

 『貴様ら、何者だ!』

 蓮達が声の方を向けば、そこには緋色の鎧を纏った兵士が、驚きと怒りをないまぜにしたような表情で憤然とこちらに歩み寄ってくる様子が見て取れた。

 『どうやってここまで……“天軍”は一体なにをしていたんだ……いや、今はそれよりも貴様らだ』

 兵士は屈強そうな顔を怒りで歪めると、蓮達を睨みつける。

 『ここがどのような場所か分かっているのか!ここはおいそれと近づいてよい所ではないのだぞっ!』

 その言葉に、突然として怒りを向けられた理不尽に耐え切れなかったのか、ラインが果敢に反論する。

 「なんだよ急に!俺たちはここに行くように言われたから来たっていうのにさ」

 『なんだと?……一体誰にそのような事を―――』

 「アインス大帝国の皇帝陛下にだよ」

 兵士の声に被せるようにして蓮は告げ、天銀皇”(アガートラム)から書状を取り出し見せる。

 「ほら、ここに皇帝陛下の印が押されているだろう?」

 それをまじまじと見た兵士は本物であることを確認し―――顔を青ざめさせた。

 『っ!も、申し訳ありません。皇帝陛下の使者の方たちとは知らず……なにとぞ無礼をお許しください』

 神聖殿はアインスと密接な関係にある。そのため皇帝の不況を買ったりなどすれば、緋巫女から叱責を受けるのは自明の理。

 故に兵士は可哀想なくらい怯えを滲ませていた。

 蓮は兵士を安心させるべく口を開く。

 「大丈夫ですよ、このことはここだけの秘密としますので」

 『ほ、本当ですか!?それは助かります』

 「ええ、もちろん……それと言ってはなんですが緋巫女の元まで案内してくれますか?ここには初めて来たものでして……」

 嘘ではない。神聖殿自体にはなんども訪れたことはある。しかし、空中に浮かぶようになってからは一度もないからだ。

 『もちろん、喜んで案内させていただきます。さ、こちらへ』

 兵士は先ほどとは打って変わって丁寧な口調で接してくる。これに対しラインは少しばかり不満げな様子だった。

 「なんだよ、さっきまではあんなんだったのにさ……」

 「それだけ職務に忠実だったってことだよ。だからあまり責めないでやってほしいな」

 「むぅ……レン兄がそう言うなら」

 兵士を擁護する蓮の言葉にしぶしぶ納得するライン。その様子を見て蓮は苦笑を浮かべる。

 (理屈では納得できても、感情では納得がいかないって時もあるよね)

 だが以前と比べるとはるかに進歩している、と蓮は思っていた。以前は納得いかないことがあると誰彼かまわず突っかかっていたラインだったが、ここ最近は自重することが増えたようだった。

 (ここまでの旅路の最中にいろいろ教えたからかな)

 剣の稽古だけでなく戦術や一般教養、果ては王侯貴族への接し方まで教えていた。

 (どうやらラインは僕についてくるみたいだから、いろいろ教えとかないとね)

 ラインはことあるごとに蓮の配下になると言ってきかないので蓮はそれを踏まえたうえで教えていた。

 (彼らがどのような道を選ぼうともそれを後押しする、と決めていた以上は受け入れなきゃね)

 あらためてそう決意し、蓮はラインの後に続いて兵士の背を追って歩き出した。

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