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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
二章 北方征伐
24/223

一話

続きです。

「―――ぃ―――にい―――レン兄!」

 耳元で発せられた大声に、蓮は微睡の中から叩き出された。

 「……ん、もう朝?」

 「まだ夜明け前だよ。でも昨日レン兄が夜明け前に出立するって言ってたから準備してたのに……なんで言い出した本人が起きないんだよ……」

 ラインがあきれたようにため息を吐く。

 「はは、ごめんごめん」

 申し訳ないと思いつつ、蓮は起き上がり天幕から出る。視界に入ったのは鬱蒼とした森林と、雪溶け水が流れる小川だ。

 ここは神聖殿周辺に広がる森の中ほどに位置する空地だ。現在蓮は皇帝の勅命に従い、神聖殿に向かう旅路の最中に居た。

 ここまで来るのに本来であれば一週間あれば十分であったが、ツィオーネを出ておよそ二週間ほどの時が経過している。

 なぜこんなにも時間がかかったのか。それは旅の連れが原因であった。

 「さあ、今日も教えてくれよ蓮兄!」

 ラインは溌剌とした声を発しながら木剣を構え、蓮を見据えてくる。

 そんなラインの様子に苦笑しつつ、蓮は用意してあった木剣を持つ。

 「今日もやるのかい?」

 「当たり前だろ!一日でもサボったらなまっちゃうからな」

 (ラインが戦うことに興味を示すのは予想してたけど……まさかこれほどまでに強さに貪欲だとはね)

 今回の旅の中でラインはことあるごとに剣の鍛錬や戦いの知識を教えて欲しいと頼んできた。蓮はツィオーネでの戦い以降、ラインを導くことを検討していたため断らなかったのだが……どうやらラインの熱意の大きさを見誤っていたようだ。

 (皇帝の書状に期限が記されていなかったのが救いかな)

 そもそも蓮は今回の旅には同行者を連れて行く気はなかった。だがアイゼン皇国第二皇子との戦い以降、妙になついていたラインが一緒に行きたいとせがんできたのだ。

 それでも蓮は断ろうとしたのだが……

 『レンさんおひとりでは危ないです!万が一という事もあるのですよ!』

 『シエルは私が連れて行くから……ラインをお願い』

 シエルとルナの援護射撃に押し切られる形で首を縦に振ってしまったのだった。

 (まあ、別に急いでいるわけじゃないからいいんだけど……)

 記憶の障害について緋巫女に相談したいとは思っているが、しばらく戦いもないためそこまで急ぐ必要はないと蓮は考えていた。

 そんな風に思案していたが、正面に居るラインが剣を構えたのを見て打ち切る。

 「そろそろいくぜ!」

 そういうやいなやラインは蓮の返事を待たずに突っ込んでくる。

 「ぜああぁぁああ!」

 勢いのまま飛び上がって上段切りを放ってくる。

 それに対し蓮は自然体のまま、佇んでいた。

 「いきなりそれは悪手だよ」

 ラインの持つ剣が触れそうになる―――その一瞬、蓮は右に体をひねりつつ持っていた剣をラインの腹部に加減(・・)して当てた。

 「ぐわぁ!」

 だがその一撃でラインは吹き飛び、近くにあった木にぶつかって地面に倒れ込む。

 「げほっ、はあはあ―――少しは加減してくれよ!人をふっとばすとかどんだけ腕力あるんだよ!?」

 「いや、これでもかなり抑えた方なんだけどな……」

 苦しそうに息を吐くラインに対し、蓮は疑問符を浮かべる。

 (二割くらいまで落としたんだけど……それでもこの威力なのか)

 この時蓮は失念していた。“白帝”(ブリューナク)の加護によって自らの身体能力が常人をはるかに凌駕するくらい底上げされていることに。

 「それはともかく、いきなりアレはないと思うな」

 自分の事はさておき、蓮はラインに対して指摘することにした。

 「……なにがだよ」

 「初手で跳躍したことだよ。空中では身動きが極端に制限されるんだから戦いの序盤―――つまり相手の力量が分かっていない段階では悪手でしかない」

 相手がこちらの勢いに怖気付いて冷静さを欠いたり、そもそも対処できない程度の力量の持ち主なら問題はない。だが、対処できる力量を持った相手であれば先ほどのような事態になるだろう。

 「どのような戦いでもまずは相手の力量を探ることから始めないとね。敵を知り己を知る―――これは個人戦でも集団戦でもいえることだよ」

 この言葉に納得したのか、ラインはそれ以上何も言ってはこなかった。

 「さて……朝の鍛錬はここまでにしよう。天幕を片付けて朝食をとったら、神聖殿に向かうよ」

 蓮がそう告げると、ラインは曇っていた表情を明るくした。

 「おお、朝ご飯か!やったね」

 ラインはそう言いながら跳ね起き、天幕を片付け始める。

 そんな元気な様子に笑みを向けつつ蓮も片づけを手伝いだした。


 **** ****

 

 「ふぅー食った食った」

 ラインが満足そうな笑みを浮かべながら仰向けに寝転がる。

 「相変わらずよく食べるね」

 そんなラインに、蓮は水を飲みながら語りかけた。

 「レン兄が食べなさすぎなんだよ。糧食に余裕はあるんだしもうちょっと食べたら?」

 「僕はもともと小食なんでね、これで十分なんだ」

 そう言って蓮は手に持っていたパンをラインに見せる。

 「それにしたってパン一個にスープ一杯で足りるとか……ちょっと異常だろ」

 「異常か……」

 蓮はその言葉に千年前の大戦を思い起こす。あの大戦では常に物資が不足していたため、蓮達は数少ない糧食で戦いの日々を過ごさなければならなかった。その影響なのか、蓮はこちらの世界(シュテルン)に転移する前より食が細くなってしまったのだ。

 (異常も日常的に行われれば、正常になってしまう)

 思い返せば、あの大戦では平時であれば異常と断定されるようなことが平気でまかり通っていた。それほどまでに悲惨な戦争だった。

 (やっと終わらせたと思ったら、今度は人族(ヒューマン)同士の戦いとは……これじゃあ、皆が報われない)

 蓮は再び湧き上がりそうになった怒りを必死に押さえつけると、話題を変えた。

 「十分休んだことだし、そろそろ出立しようか」

 「えー、もう行くのか?」

 「そろそろ行かないとね。それに目的地はもうすぐだから、着いてから休むといいよ」

 「もうすぐなのか?じゃあ行こう、すぐ行こう!」

 ラインはそう言うと起き上がって荷物を背負い、歩き出した。

 「まったく、本当に元気だな」

 蓮はそう言いながら立ち上がるとラインの後を追って歩き始めた。

遅くなりすみません。最近忙しくて時間が取れないため更新ペースが落ちると思います。

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