エピローグ
続きです。
ツィオーネ平原に置き去りとなったアイゼン皇国軍の天幕群。
その合間の日陰から先ほどまで戦場となっていた平原を見つめる存在が居た。
「クリストフが“堕雷”に呑まれることまでは予測していましたが……いやはや、よもや英雄王の末裔とは」
第五皇女らを見つめるその存在は、クリストフから道化と呼ばれていた仮面の者だ。
「おかげで予定が大幅に狂ってしまった。第五皇女の身柄は確保できず、“堕雷”も回収できなかった」
言葉とは裏腹に、その顔には思わぬ楽しみを見つけたかのような笑みが浮かんでいる。
道化は興味深そうに双黒の少年を注視する。
「しかしよく似ていますね……雰囲気や、身に纏っている覇気といい“あの方”にそっくりだ」
その時、双黒の少年が突然として道化の方を向いた。
少年は確かに道化を見つめ、笑みを送ってくる。
「っ!この距離でばれますか……潜伏には自信があったんですがねえ」
五百メートル先の暗がりにいても一分と持たないとは、とつぶやき道化は闇に溶け込むかのように消え去った。
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あの戦いから早くも五日が経過した。その間蓮達はツィオーネを救った英雄として、賓客並みの扱いを受けており、ゆっくり羽を休めていた。
そして六日目の朝、蓮の元へ現皇帝からの勅命が届いた。
蓮は朝食前にそれを受け取ったのだが、見るのは朝食を終えた後でもいいかと思い、現在朝食を取っていた。
そんなまったりとした雰囲気の蓮の元へ、ルナがやってくる。
「お父……いえ、皇帝陛下から勅命が届いたって聞いたけど……何が書いてあったの?」
「うん?まだ見てないからわからないかな」
「え、まだ見てないの……?陛下の勅命なのに?」
ルナはじっっと蓮の顔を見つめる。
(そんなに近くで真顔で見られると、怖いんだけど)
蓮はそんなルナの無言の圧力に負け、朝食を一旦中止すると“天銀皇”から一通の手紙を取り出すとそれを開いた。
そこには、
「なんて書いてある?」
「……これは」
『レン殿。
貴公は英雄王の末裔を名乗られたのだとか。
であるならば初代皇帝陛下の遺言に従い、神聖殿に赴き真偽のほどを確かめられたし。
第四十九代皇帝カール・マル・フリードリヒ・フォン・アインス』
そう綴られていた。
これにて第一章 英雄の再臨編は終わりです。
次回からは第二章 北方征伐編が始まります。




