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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
最終章 その未来は
218/223

千年の時空を越えて

続きです。

(なんだか、夢を見てるみたい……)


 ステラは、はっきりとしない意識の中でそう思っていた。

〝世界神〟を名乗る女性に囚われてから今に至るまで、意識は混濁とした状態である。

 故に夢の中にいると考えても仕方のないことであった。

 

 今も――、


(……わたし、ご主人様と戦ってる?)


 揺らめく視界には黒衣を纏った少年――蓮が焦りを浮かべた表情でこちらを見ている光景があった。

 よく集中すれば自分の身体が勝手に動いていて、両手に装着したかぎ爪で彼を襲っている。

 

 それらを認識した時、ステラは激しい衝動に突き動かされた。


(ダメ……駄目っ!!こんなの……わたしは望んでない!)

 

 自分を救い出し、更には居場所すら与えてくれた恩人に刃を向けるなどあってはならないことだと思った。

 勝手に動く身体を必死に抑えようとするも、身体はまるで他人の物のように命令を受け付けてくれない。


(な、なんで……?どうして!?)


 激しい動揺に襲われる。自分の身体が自分の物ではない感覚は、気味が悪いを通り越して恐怖するものであった。



(動いて……っ!動いてよ、わたしの言う通りに!!)


 想い虚しく、身体は依然として勝手に蓮を攻撃し続ける。

 どう足掻いても絶望――けれども、ステラは諦めずに何度も体に力を込め、主導権を取り戻そうと試みる。


(止めて!これ以上ご主人様を傷つけないで!)


 どれほど強い思いを以てしても現実は変わらない。

 今もステラの身体は勝手に動き、超人的な動きで蓮に襲い掛かっている。

 彼は手にする黒刀でかぎ爪を弾いているが、ステラを相手にしているからか動きに精彩が欠けていた。

 

 かぎ爪による怒涛の連続攻撃――一部は黒刀の防御を抜けて蓮の身体に当たっていた。

 けれども黒衣を貫通させることは出来ずにいる。


 少し安堵したステラだったが、依然として状況が好転していないのは事実である。

 そればかりか、状況は更に悪化してしまう。


「ふふ、苦戦しているようだねぇ、レン。そんなところに悪いんだけどさ、私も混ざろうと思うんだ」

「ッ!?くそ……!」


 回復を終えた〝世界神〟――否、〝創造王〟(ルミナス)が戦線復帰、白き剣を手に蓮に攻撃を仕掛けた。

 結果、ステラと〝創造王〟の二人を同時に相手取ることになってしまった蓮は必死の表情だ。

 両者の攻撃をさばきつつ、気を伺う。更にはステラに攻撃を当ててはならないと考えているのか、動きは鈍く迷いを感じさせる。


 これではさしもの蓮とて耐えられるものではないだろう。

 そう悟ったステラは更に焦り、叫び散らす。


(止めて!!わたしの身体を返して!!ご主人様を傷つけないで……っ!)


 されど祈りは天に届かず、闇に沈むだけだ。

 だが、それでも。


(諦めない。諦められない!だって、わたしはまだご主人様に恩を返してないもの)


 この身は、心は――既に彼に奉げると決めている。

 一生をかけて恩返しすると己自身に誓っているのだ。

 故に諦めることなど出来はしない。膝を屈することなど許されはしない。

 祈りが届かないのなら――自力で叶えればいいだけのこと。


(動いて、動いて……っ!!)


 だからこそ足掻く。絶望?闇?知ったことかと吠える。

 

 決して諦めない姿は気高くも美しい――だからこそ、(えいゆう)は微笑んだ。


『――よくぞ絶望に負けなかった。その心根に称賛を贈ろう』

「!?あ、あなたは……」


 雄々しい声と共にステラの視界が爆ぜる。

 暴力的なまでの黄金の光が視界を染め上げた。


 思わず瞼を閉じたステラだったが、光が収まりをみせたことで徐々に視界を開ける。

 さすれば見えてくる光輝。黄金の光を携えし青年がそこには居た。


 金髪碧眼――見た目は美青年、されど身に纏う雰囲気は老獪のそれだ。

 獅子のように雄々しく、鷲のように気高い。激烈な覇気は双黒の少年に劣らないものであった。


『余の義弟に〝星々〟(ステラ)と名付けられし神器よ、そなたの決して折れぬ意志が余を招いた。発動条件を満たしたのだ』


 あまりにも突然すぎる言葉――けれども本能が訴えかけてくる。

 自分の正体を、役目を、力を。

 

「……そうだったんですね。わたしは――」


 そして完全に理解すれば、口をついて出てくるのは安堵(、、)であった。

 この状況を打開できると、彼の役にたてると知ったが故のものである。


 意志と身体を持つ神器としての自覚を得たステラに、青年が微笑みかけてきた。


『千年の時空を越え、ようやく訪れた機会だ。余はこの瞬間に全てをかける――ノクトを、レンを今度こそ助けるために』


 そなたはどうだ、と訊かれたステラは頷いた。


「ご主人様をお助けしたいです!」


 迷いなど一切ない返事。実に清々しいと青年は笑った。


『では――往くとするか』

「はいっ!」


 ――そして、千年越しの希望が今、開花する。



 *****



 蓮は苦戦を強いられていた。


「ハハハッ!さっきまでの威勢はどうしたんだい?」


 喜悦を弾けさせて攻撃を仕掛けてくる〝創造王〟に、


「…………」


 無言で、無表情で攻撃を加えてくるステラ。

 圧倒的な武力を持つ二人を同時に相手取るのは厄介であった。

 

 加えて――、


「っ!駄目だ、〝黒薔薇〟!反撃するな!!」


 黒衣による自動迎撃を押さえなくてはならない。それを許してしまえばステラにも傷をつけてしまう。

 蓮が与えた神器〝月下美人〟による防御があろうとも、格が圧倒的に上の〝黒薔薇〟は容易く貫いてしまうことだろう。そうなればステラは串刺しになってしまう。


 片方には手加減を、もう片方には全力を――などという無理難題は、さしもの蓮といえど苦戦を強いられる要因となっていた。

 

 そして遂に――均衡が崩れた。


「ふはっ、隙ありだよ、レン!」

「な――ぐあぁ!?」


 ステラのかぎ爪を〝黒帝〟で防ぐも、強靭な刃に絡めとられてしまう。そこに〝創造王〟が放った斬撃が襲い掛かり、蓮は吹き飛ばされてしまう。

 何度も床を転がり、やがて壁に激突して止まる。


「ぐぅ……くそッ!」


 致命的な損傷はない。〝黒薔薇〟による守護のおかげであった。

 けれども蓮は即座に異常を察知した。〝黒薔薇〟の反応が鈍くなっていたのである。


(これは……そういうことか)


 左眼――〝天眼〟(アマテラス)で黒衣を〝視〟れば、切られた箇所から神力が流れ込んでいるのが分かった。これは不味い。魔力で編まれている〝黒薔薇〟には致命的ともいえるからだ。


 そして更に気づく。今の一撃で蓮は〝黒帝〟を手放していた。周囲を探れば黒刀はステラの足元に転がっているのが見える。


「詰みだよ、レン。もうどう足掻いたところでキミは私には勝てない。私に勝つため全てを利用し、投げうってきたくせに、最後の最後でこの子を切り捨てられなかったからさ」


 図星――痛い所を突かれた蓮は黙り込む。

 そうしている間にも〝創造王〟の上機嫌な語りは止まらない。


「ほんと、キミは昔からそうだ。非情に、冷徹になろうとしてなり切れない。最後には甘さが出てしまう。そんな半端な覚悟で私に勝てるわけないだろう?まったくさぁ」


 多くの者を利用した。多くの者を切り捨てた。復讐のために、故人の遺志のためにと言い聞かせてここまできた。

 けれども最後の最後で――甘さが出てしまった。これまで自分がしてきたことを鑑みるならば、今度も切り捨てるべきだったというのに。


「でも――そんなところが人間らしくて良いんだけどねぇ。私はキミのそういうところ、好きだよぉ」


 喜悦満面、余裕綽々。完全に勝敗は決したと言わんばかりの態度であった。

 確かに状況を見ればそういった態度を取るのも無理もないといえよう。

 切り札であった〝死玉〟には対応され、〝黒薔薇〟という絶対防御も抑え込まれた。

 得物である〝黒帝〟も手放してしまっている。

 

 だが、それでも。


(……まだ身体は動く。意志も折れていない)


 五体満足――ならばまだ戦える。

 蓮が立ち上がれば、〝創造王〟は目を丸くした。


「……おや?おやおやおや?まーだ諦めないのかい?私としてはそろそろ絶望に染まったキミの顔が見たいんだけどねぇ」

「お前の思い通りにはさせない。必ず――殺すッ!」


 言って、蓮は全力で床を蹴った。

 その衝撃に耐え切れず床がひび割れる。 

 神速の動き――されど〝創造王〟は知覚できていた。


「体術戦か――」


 一瞬で〝創造王〟の懐に入り込んだ蓮が掌底を繰り出す――かに思えたが、


「――いや、違う!狙いは〝黒帝〟か!!」


 彼は瞬時に方向転換するとステラの足元に転がる黒刀に飛びついた。

 敵が再び得物を得る――それを許すほど〝創造王〟は甘くない。


「させないよ!ステラ、レンを殺せ!」


 自身も蓮を追いながら彼女が命じれば、灰髪の少女が忠実に従う――はずだった。

 けれども。


「――――は?」


 ステラの方を見やった〝創造王〟が唖然と声を漏らす。演技ではない、そう悟った蓮もまたステラを見やって――絶句する。

 

 何故なら――


 ――そこに立っていた人物は金髪碧眼の青年(、、、、、、、)だったからだ。


「久しいな、我が義弟、そして偽りの神よ」

「なん――ッッ!?」


 青年の雄々しい声が空間に伝播する――と同時に、彼の姿は蓮と〝創造王〟の間にあった。

 その手には不可思議な剣が握られており、〝創造王〟の白き剣を軽々と受け止めたことから〝王剣〟に匹敵する武器であると理解できる。

 

 吹き飛ばされる〝創造王〟から視線を外し、青年はもう片方の手に握っていた黒刀を蓮に投げ渡す。


「武器を手放すとは、まだまだだな、ノクト」

「――リヒト……なのか……?」


 蓮は黒刀を掴み、驚愕に眼を見開いていた。

 その表情は信じられないと言いたげであったが、〝天眼〟が神力の集合体だと教えてくれたことで我に返る。

 そして寂しげに言葉を紡いだ。


「生きて――はいないんだな……」

「当然であろう。余の時代は千年前に終わっているからな。今ここにいるのは余の残滓、お前がステラと名付けたこの神器に付与していたものだ」


 ステラが千年前に生み出された意志と肉体を持つ神器だという話は既に緋巫女から聞いていた。けれどリヒトが現れるとは聞いていない。


「あ…………」


 言いたいことが山ほどあった。けれども唐突すぎる再開に言葉が出てこない。

 そんな蓮を青年――アインス大帝国、初代皇帝にして蓮の義兄であるリヒトが温かな笑みを携えて見やる。

 次いで嘆息してきた。


「まったく、お前は変わらんな。弱いくせに強がろうとする。甘いくせに非情であろうと徹する。性格を真逆にすることほど馬鹿なことはないとあれほど言ったであろうが」


 その指摘に蓮は鼻白み、気づけば反論していた。


「……そうしないといけなかったんだ。そうじゃないと復讐は達成できない。ソフィーやキミの遺志を叶えることも」

「はぁ…………。いいか、余はそのようなことは望んでおらぬ。姉上とてな。我らがお前に望んだことはただ一つ、自由に生きてほしいというものだよ」

「なっ!?何を言うんだ!世界を支配し、いつまでも闘争の輪廻から外そうとしない〝創造王〟は打倒するべきだろ!?魔族を率いて皆を、ソフィーを殺した〝天魔王〟も!!なのに、なんでそんなこと――」


 信じられない――否、信じたくなかった。自分が彼らの想いをはき違えていたなんて、認めたくなかった。

 なのに――、


「……お前は十分我らに尽くしてくれた。多くのものを犠牲にして、お前は我らに〝救済〟と〝勝利〟を齎してくれた。もう、いいんだ。我らは満たされている。心残りはむしろ――お前だけなのだ」


 だからこそリヒトは、ソフィーは千年というあまりにも永い時を待ち続けたのだ。

 ステラという力を遺し、ルナという希望を開花させた。

 全てはたった一つ、家族である蓮を救う、ただそれだけのために。


「……だが、これだけ言っても止まらないのがお前だ。余も、姉上もそれは良く理解している。だからこそ、こうして今、余はここにいるのだ」


 リヒトが険しい表情で見つめる先には、状況を理解した〝創造王〟が屈辱に燃えている姿があった。

 彼女の視線は激烈な殺意を孕んでいる。

 けれどもリヒトは怯むことなく、蓮を背にかばっている。


 その背中を何度見たことだろう。幾度となく勇気づけられ、元気づけられた頼れる義兄の背中。

 千年経った現代では、二度と見られないと思っていた背中だ。

 身体が熱くなる。視界が歪んだ。


 ――男の涙は軽々しく見せるものじゃないぞ。


 かつて義兄から言われた言葉は今でもこの胸の中で輝いている。

 蓮は黒衣の袖で目元を拭うと、リヒトの隣に立った。


〝創神〟リヒト・ヘル・ヴァイス・フォン・アインス。

〝軍神〟ノクト・レン・シュバルツ・フォン・アインス。


 光と闇、相反する属性でありながら、共に戦場を駆け抜けた二人の英雄。

 魔族による圧政から世界を解放した偉大なる功績を讃えられ、神と成った男達。


 二人そろえば天地に敵なし。そう言われた者たちの覇気を浴びた〝創造王〟が肩を震わせる。

 これまでのように喜悦からではない。屈辱からの憤怒がそうさせるのだ。

 

「……もういい。不愉快だよ。千年前の亡霊が――でしゃばるなッ!」


 激昂した〝創造王〟が神力を操作する。

 たったそれだけで、リヒトの輪郭が揺らいだ。


「リヒト!?」


 叫ぶ蓮だったが、考えてみれば当然のことだ。

 今のリヒトは神力の集合体、故にその力を生み出した〝創造王〟が消去できるのは当たり前。

 絶体絶命――のはずなのだが、リヒトは笑みを崩さない。


 そんな彼に更なる怒りを覚えたのか、〝創造王〟が吠える。


「何がおかしい!」

「ふっ、おかしいさ。いつも余裕を崩さず嘲笑していた貴様がこれほど動揺しているのだからな。その顔をみれただけでも千年待ったかいがあるというものだ」

「…………ただでは殺さないよ?お前の意識は今、神力に拠っている。私が操作すれば、お前の意識は永遠に消えず、無限に私が弄ぶことだってできる」

「いいや、そうはならない」


 余裕を取り戻そうとした〝創造王〟の言葉を切って捨てたリヒトが、手にしていた剣を胸元まで持ち上げた。

 

 実に神秘的な神器だ。

 刀身に北斗七星の配置で神力の結晶である〝神石〟が七つはめ込まれており、それぞれが異なる輝きを放っている。

 それ以外の部分は夜空の如き色合い――満点の星々が細かく無数に鏤められていた。


「これは貴様に――神力に対抗するためだけに生み出されたものだ。その意味が正しく理解できるなら、先ほど貴様が言ったような事態にはならぬと分かるはずだがな」

「…………まさか」


 じっとリヒトが持つ剣を観察していた〝創造王〟が何かを悟ったように口元を引きつらせる。

 そんな彼女の様子を確かめたリヒトがしてやったりといった表情を浮かべた。


「この剣の銘は――〝七星剣〟(ステラ)。天恵は〝神力の断絶〟だ」


 毒を以て毒を制す。その言葉通りに、神力を以って神力を制す――という無理難題をリヒトと当時の緋巫女はやってのけたのだった。


「傲慢な貴様を――千里眼たる〝地眼〟を持つ貴様を出し抜いてやったぞ?どうだ、悔しいだろう?」


 それは千年前、運命を弄ばれた者たちからの復讐――意趣返しだ。

 

 受けた〝創造王〟は――激昂した。


「ふっっっざけるなッ!!たかが人族の分際で、神たる私を愚弄するかッ!」


 吠え猛る〝創造王〟を後目に、リヒトは蓮の方を向いて〝七星剣〟を手渡してくる。


「ノクト、この剣はステラそのものでもある。彼女はどのような絶望にあろうとも、お前を想っていた。その想いを無駄にするなよ」

「……うん、わかってる」


 神妙な顔つきで受け取った蓮、直後に眼を見開いた。

 何故ならリヒトの身体が虚空に解け始めていたからだ。


「リヒト……僕はまだキミに言いたいことがある――!!」

「良い、余は全て理解しているからな。どうせ謝りたいとでもいうのであろう?」


 図星、言葉を詰まらせた蓮の肩にリヒトは手を置いて微笑みを向けてくる。


「昔からお前は顔に出やすいから、推測するのは容易い。……それより、謝るのは余の方だ。――すまんな、お前にいろいろと押し付けてしまって。全ては余が至らぬせいだ」

「違う……それは違うよ、リヒト!僕が弱いから……守れなかったから、キミを苦しませてしまった。悪いのは僕の方だ」


 仲間を守れなかったのも、ソフィーを救えなかったのも、〝創造王〟の策略で千年後に飛ばされてしまったことも、その結果世界が騒乱に包まれたのも――全て己の弱さが招いたことだと懺悔する。

 けれどもリヒトは温かな微笑みを向けてくる。


「良い、と言ったであろう?それに弱かったのは、至らなかったのは余も同じだ。お前が主張を譲らないのであれば……そうだな、同罪と言ったところだな」


 笑ってそう言ったリヒトの身体は透けていて、大部分が光の粒子になっていた。

 蓮は悟った。もう二度と会えないと。


「……お別れなんだね?」


 と、蓮が泣きそうな顔で言えば、リヒトは困ったような笑みを向けてくる。


「……そうだな。本当はもっと語らいたかったが――時間のようだ」


 そして〝獅子心王〟の名に相応しい、勇猛かつ剛毅な笑みを湛えて両腕を広げた。


「もう、余は止めぬ。ここまで来てしまったのだ、必ず勝てよ。勝って――今度こそ自由に生きろ。世界は広い、まだ見ぬ天地が、出会いがお前を待っているぞ!」


 実に義兄らしい言葉に、蓮は必死に笑みを作った。


「ああ――世界を再生させたら、旅に出てみるとするよ」


 だから見守っていてほしい――という言葉は飲み干して、蓮は別れを告げた。


 光の粒子が虚空に消えた。けれども彼が残した熱い想いは胸の内に残っている。

 蓮は右手に〝黒帝〟(フラガラッハ)を、左手に〝七星剣〟(ステラ)を携え、宿敵を見据えた。

 

 もう戦う理由は復讐という昏いものだけではない。〝自由に生きる〟という未来を得るためという輝かしい理由もある。

 

 先ほどまでとは明らかに異なる雰囲気の蓮に、〝創造王〟が一歩後ずさる。

 無意識だった。だが、だからこそ気づいた時に想像を絶する屈辱を感じた。


「……遊びは終わりだよ、レン。四肢を切り飛ばし、意志を殺す。人形にした上でキミを可愛がってあげよう」


 昏い欲望を向けられた蓮は、かつての戦闘体勢――二刀流の構えを行い虹彩異色の双眸を向けた。


「断る。僕は〝負債〟(おまえ)を乗り越えて、〝未来〟に向かうよ」


 そして――二柱の神は今一度、されど全力を以って激突した。

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