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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
最終章 その未来は
211/223

戦う者たち

続きです。

 聖都パラディースの歴史は永い。

 千年前、魔族の圧政から解放された後――アインス大帝国建国当初に成立した国家、エルミナ聖王国。

 その当時からパラディースは町として存在しており、エルミナ聖王国が首都として定めてからは飛躍的な発展を遂げたとされている。


 首都とは王族の住まう都。王族とは国家の象徴であり権威そのものだ。

 故に何としてでもその血脈が絶えることは避けなければならない。

 幾多もの保険をかけて守り抜く必要があった。


 だから――このような場所が出来上がったのだと、オティヌスはルナたちに説明していた。


「王族専用の避難路です。有事の際に使用されることになっています」


〝聖王〟の騎士、オティヌス・ハーヴィ・ド・ヴィヌスの声が反響して聞こえる。

 現在、ルナたちがいる場所は聖都パラディースの地下に掘られた王家専用の避難路であった。

 

 突入作戦決行時――郊外にある入り口には結界の所為でたどり着くことは出来なかったが、その直後結界が消滅したためにこうして潜入に成功していた。

 尚、その際に天使の群れをこじ開けて突き進む黒竜の姿をルナたちは確認している。


(レン、必ず追いついてみせるから……)


 通路を駆けながらルナは想いを巡らせていた。

 蘇るのは初代皇帝リヒトに託された願い。そして、初代緋巫女――蓮の元恋人に託された想いである。


(ソフィア……あなたの想いは、祈りは、決して無駄にはしない)


 届けてみせる、叶えてみせよう。遥かなる千年の時空を越えた先で、必ず。


(それらが全て終わった時、共に歩むことができるはず)


 既に想いは伝えている。後はこの戦いを終えた後に返事を聞くだけだ。

 それがどのようなものであろうと――たとえ望まない答えだったとしても。


(それでも、私は――)


 と、ここで前方を往くオティヌスが立ち止まったことで、ルナは意識を戻した。

 続けて立ち止まれば、周囲にいたアリアとキールもまた同様の動きをみせる。


「着きました。ここが王城グランツに繋がる扉です」


 オティヌスの前には、地下通路の扉にしては豪華すぎる扉があった。

 六つ(、、)の玉座に六人の人物が座っている絵が彫られている。

 

 ルナたちの視線に気づいたのか、オティヌスが扉に手をかけながら説明する。


「ヴァイク陛下が以前仰られていました。この絵は真実を指し示していると。その時は意味が分かりませんでしたが……今は分かります。これは〝世界神〟――いえ、〝創造王〟を含めた六柱の神を描いたものです」


〝創造王〟(ルミナス)

〝天魔王〟(マーラ)

〝星辰王〟(ユースティア)

〝日輪王〟(ソル)

〝白夜王〟(ガイア)

〝黒天王〟(ウラノス)


 この世界を創造した原初の神が、世界の管理を任せた六柱の〝王〟。

 互いに拮抗した力を有していたものの、〝創造王〟の策略で五柱は天上から地上へと追いやられてしまう。それが〝五大冥王〟の誕生であり、千年前から続く〝停滞期〟の真相だ。


 原初の神は既にこの世界から立ち去っている。故にいくら〝黒天王〟――蓮といえど、〝世界神〟を名乗る〝創造王〟には勝利できないだろう。

 他の〝王〟の力添えがあろうとも、それでは千年前の再現にしかならないのだから。

 

(だからこそ、私が行かなくちゃいけない。この()を宿す私が……)


 ルナが胸元に手を当てる中で、オティヌスが〝聖王〟ヴァイクから託された鍵を取り出し扉を開け放つ。

 

「行きましょう」


 オティヌスの言葉に頷いた一同は、再び走り出した。

 この場にいる者は全員神器所持者。故に、加護によって長距離を走っても疲れなど微塵も感じてはいない。

 けれども顔は強張っている。何故か、それは緊張によるものだった。

 

 何せこれから挑むのは千年に渡ってこの世界に君臨し続ける神なのだ。

 神とは人が抗える存在ではない。そう理解しているからこその緊張である。


 ルナももちろん緊張していたが、他の三人ほどではない。

 何故なら、既に対抗する術を知っているからだ。


(けど、それを発現できるかは未だ未知数。加えて勝算も不明)


 ソフィアに教えてもらった、この身に宿る力――それが使えれば勝機はある。

 けれど、一度も使用したことがなく、その力に頼りきるのは危険と言えた。


(単独では危険。はやくレンと合流しないと……)


 と、思案していたルナだったが、前方から放たれる強大な気配を感じ取って即座に意識を切り替えた。

 オティヌスたちも感じ取ったのか、それぞれ神器を抜き放っている。

 

 階段を昇り、王城の通路へ。そこを駆け抜けて王城の外へ――大聖堂に繋がる道に出た。

 一気に視界が開け、紫光に覆われた空が現れる。視線を落とせば大聖堂と、そこに行くための大階段が見て取れた。

 ――そして、大聖堂を守護する存在もまた。


「止まりなさい、人の子よ。これより先は至高の御方が住まう地。あなた方のような下賤の身が踏み入って良い所ではありません。直ぐに引き返しなさい」


 一方的、反論など許さないとばかりに放たれた言葉。

 出所は大聖堂を背に、空中に佇む天使の女性であった。


「〝七大天使〟――ミカエルとは……最悪だ」


 槍を手に呻くオティヌスに、キールが問いかける。


「そんなにヤバイ奴なのか?」

「ああ、あれは〝世界神〟が自ら丹精込めて創り上げた七人の上位天使〝七大天使〟の一人だ。しかもその中でも頂点に立つ〝天使長〟のミカエルだ」


 三対六翼を広げ、美顔を無表情で固定させている女性――ミカエルが虚空に手を伸ばす。と、光が凝縮して一振りの剣が生成された。


「退かぬというのであれば……私手ずからあなた方に引導を渡しましょう」


 放たれる膨大な覇気が大気を伝って四人に襲い掛かる。

 

 時間やこの後の戦いを考えると、ここで疲弊するのは不味い。

 けれどもミカエルを無視して先に行くことはできない。大聖堂に向かうにはこの道が最短であるし、何より必ず彼女が妨害してくることだろう。

 

 歴戦の戦士でもある四人は即座にそれを悟り、ルナを除く三人が前に出た。


「ルナ殿、ここは我々が引き受けます。あなただけでも行ってください。……どうか、勝利を」

「ルナ陛下……主殿を頼みます」

「我らが意固地の〝王〟を連れ戻してきてくれよ」


 オティヌス、アリア、キールが想いを託してくる。

 固い決意、感じ取ったルナは「うん」とだけ返事をして大階段を昇る。

 そこに、


「行かせると思いましたか?」


 ミカエルが剣を構え、上空よりルナに襲い掛かった。

 凶刃が銀髪めがけて振り下ろされる。

 しかし、それがルナに届くことはなかった。


「やらせない!」


 アリアが流星の如き速度で距離を詰め、ミカエルの一撃を防ぐ。


「ラァアアッ!」


 続けてキールが硬直の隙を突くように神器〝岩切丸〟を上段から振り下ろせば、ミカエルが施していた防御魔法が破れる。

 

「なっ――!?」


 こうもあっさり防御魔法が破壊されるとは思っていなかったミカエルが、驚愕しつつも翼を動かして後ろに下がる。

 

〝聖雷〟(グングニル)よ、討て!」


 勇ましい声音が発せられ、ミカエルめがけて雷電纏う槍が放たれた。

 咄嗟に彼女は剣――神器〝天罰〟を下からすくいあげて、飛来した〝聖雷〟の軌道を逸らす。

 直撃は避けた――が、雷撃が剣を伝ってミカエルに襲い掛かり、彼女はたまらずうめき声をあげてしまう。

 

「が、う……くっ、防御魔法が切れている所為か……ッ!」


 即座に神力を練り上げ、抵抗力を上げると雷撃が収まる。

 ようやく体勢を整えなおせば、正面には三人の神器所持者が。後方には遠ざかる一人の気配を感じ取ることができる。

 ――突破された。今すぐにでも追いかけなければならない。だが、それは叶わないこともミカエルは悟っていた。否、悟らされたのだ。先ほどの攻防で。


「……人の子よ、あなた方は不敬です」


 ミカエルが忌々しげに吐き捨てれば、オティヌスたちが笑みを浮かべる。


「〝七大天使〟ともあろう者が情けないな」

「〝天使長〟という肩書は名前倒れか?」

「ハハハッ、大したことねえな」


 強張った笑み――虚勢だと察せられる。

 けれども彼らは退かずにこうして対峙したままだ。

 だから、ミカエルは。


「……いいでしょう。ならば我が全霊を以ってあなた方を粉砕します。それがあなた方の勇気に対する敬意です」


 言って、全力を解き放つのだった。


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