十九話
続きです。
瞬間、少年は―――世界の全てを置き去りにする。
『ぐギャアアアアア!』
怪物の身体が瞬く間に切り刻まれていく。怪物が必死に防ごうとするも、あまりの速さに蓮を捉えることができない。
斬撃は止まることを知らず、更に加速し、辺り一面が極光に包まれる。
「覇あぁあああぁぁぁ!」
更に、蓮が叫ぶと突如何もなかった空間に光が集まり、凝縮して光剣を形作ると一斉に怪物に殺到した。
それらは迷いを捨てた少年に“白帝”が与える祝福。
“白帝”の天恵―――“光輝”が真価を発揮する。
―――覇光白夜
光速で繰り出す激烈な斬撃。
その衝撃は三千世界にまで轟き、天地を震わせる。
おびただしい光量に誰もが眼を瞑った。
そして―――
眼を開けると、そこには―――
爆散した怪物の肉片と地に落ちている禍々しい剣、そして天を仰いでいる少年が居た。
その光景に誰もが手を止め、一様に思い浮かべる。
千年前、英雄王と呼ばれた存在を。
英雄王ノクト・レン・シュバルツ・フォン・アインス。
かの者の伝承にはこう記されている。
『常勝不敗の英雄王。双黒を持ち、白銀の衣を身に纏いし絶対者。光り輝く剣を手に、天を仰ぐその姿はまさに“軍神”であった』
目の前に広がっている光景はまさしく神話伝承を彷彿とさせる。
誰もが疑いようもなく受け入れた。
目の前にいる少年は神話から抜け出た英雄王その人なのだと。
やがてアイゼン皇国兵は戦意を失い、静かに敗走していった。
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「「レンさんっ!レン兄!」」
しばらく呆然としていた蓮は自分を呼ぶ声で我に返った。
視線を前に向けると、そこにはアイゼンの兵士達とライン、そしてシエルが居た。
「……シエル、ライン?まだ戦いは終わってないのにどうしてここへ!?」
「レンさん、もう戦いは終わりましたよ」
見てください、と言ってシエルは蓮の背後を指さす。
そこには敗走していくアイゼン皇国の兵士達の後ろ姿があった。
「いつの間に……いったいどうして」
(指揮官を失ったことが大きいんだろうけど……だからってこんなにあっさり引くものかな?)
疑問を持った蓮に対し、ラインが興奮気味に答えを告げる。
「そりゃあ、レン兄のあの姿を見たからだよ」
「あの姿って、戦ってるところを?」
(僕の武力に恐怖したってことかな?だとしたら、まあ納得いくかな)
蓮の武力は誰が見ても異常だろう。それに実際指揮官を討たれたのだから、その恐怖たるや想像に難くない―――と蓮は少しずれた推測をしていた。
実際のところはそれもあったが、なによりも神話伝承を想起させる光景に胸を打たれたから、というのが大きな理由だった。
蓮は知る由もなかったが、それほどまでに英雄王と言う存在は人族のなかでは尊敬と畏怖、果ては崇拝の対象だったのだ。
千年たってもそれが薄れることはなく、残り続けていた。
それが今回の結果につながった。
「レン、あなたは……」
そこへ、ルナがやって来た。泥と血にまみれたその姿は痛々しかったが、腹の負傷はほとんど治っているようだ。
(覇彩剣五帝の加護による超回復が働いているようだね。これなら問題ないかな)
蓮は“天眼”でルナの容体をざっと見ると、安堵の息を溢す。
「ルナが無事で本当に良かったよ」
「ルナ殿下!?その姿は……本当に大丈夫なのですか?」
「ん、問題ない。この子が頑張ってくれたから」
ルナはシエルに笑みを向けると、左手を上げ“翠帝”を翳す。
「それよりも……レン、あなたは本当に末裔なの?」
「―――」
ルナのどこか訝しんだような視線に、蓮は冷や汗を浮かべる。
(感が良すぎるのも考え物だな……)
「もちろん、そうだよ」
「ふーん……そう言い張るのなら、それでもいいけど」
ルナは蓮の回答に納得したわけではない様子だったが、それ以上追及はしてこなかった。
「ルナ殿下、末裔というのは……?」
シエルが疑問を口にする。
ルナは蓮を一瞥し―――歴史を動かす決定的な言葉を告げた。
「レンは―――英雄王シュバルツ陛下の子孫なの」
その言葉に誰もが眼を剥き、一様に蓮を見つめた。




