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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
十章 解放戦争
207/223

エピローグ

続きです。

 エルミナ聖王国首都パラディース――大聖堂。


 ここでは現在、〝聖女〟シャルルが一心不乱に神力を行使していた。

 両手を組んで、祈りを奉げる姿で膝をついている。

 

 そんな厳かな光景を眺め――否、見守っていた金髪の青年、アーサーが大聖堂の窓から外を見やる。

 そこには聖都を囲む神力の障壁と、夥しい数の天使と黒竜が戦っている光景があった。

 

 アーサーの視線はその光景に釘付けだ。正確には黒竜の背に乗る栗色の髪の女性に視線は注がれている。

 これは合図だ。今すぐやれ(、、)という命令でもある。

 抗えばどうなるか、知っているアーサーはここに至ってようやく覚悟を決めた。

 

 ――恩人よりも、生まれ育った故国よりも……愛する女性を選ぶ。


 長らく静寂に包まれていた大聖堂に足音が鳴り響く。

 アーサーの接近に気づきながらも、シャルルは動じない。

 当然だ、信頼する味方が近づいてきただけなのだから。


 そんな彼女とは真逆に、アーサーの双眸は冷たい光を孕んでいた。

 足を止めず、近づきながら腰から剣を抜き放つ。


「……アーサー?一体どうしましたか?」


 と、ここに至ってようやくシャルルが異変を感じ取った。だが、攻撃を加え続けられている障壁の維持に集中しているため、身動きは出来ない。

 そんな彼女の無防備な背中に、アーサーは――


「……申し訳ありません――シャルル様」


 ――普段、決して言わない呼び方をして、剣を突き刺した。



 *****



「ふっ、はは――やっとか……!」


 黒竜の背から聖都を見やった蓮が喜悦を弾けさせる。その虹彩異色の双眸には確かに掻き消える障壁の姿が映り込んでいた。


(随分と時間が掛かったけど……いよいよだ)


〝絶対悪〟(アジダハーカ)!一気に突破しろ!」


 風音に負けないように声を張り上げれば、三つ首から勇ましい咆哮が放たれる。

 蓮は片手でマーニュの腰を抱きかかえて落ちないようにする。

 瞬間――黒竜が三つ首から線熱を吐き出し、進路上の天使を撃滅した。


「ちょ……!?一言声かけてからにしなさいよ!」

「すまない、掴まっててくれ」

「はぁ!?言うの遅すぎ――きゃああ!?」


 マーニュの非難は、一気に加速した〝絶対悪〟によって悲鳴へと転じた。

 普段とは打って変わった弱々しい姿――なれど、興奮していた蓮は気付かない。


(いよいよだ。……ここで終わらせてやる)


 千年に渡る因縁にけりをつける時がやってきた。過去を清算する時が来たのだ。

 ここに至るまで多くの罪業を積み重ねてきた。多くの屍を築き上げ、多くの者たちを犠牲にしてきた。

 そうまでして打倒しなければならない相手――だからといってこれまでの行いを正当化する気は毛頭ない。


(全てが終わった時――その時こそ、僕が罪を償う時だ)


〝王〟は――〝神〟は殺せる。決して不死身ではない。その事実は千年前に蓮自身の手によって確認済みだ。

 そして、積み上げてきた負債――罪科はもはや己が命を以って清算するしかないことも知っている。


(ルナ……決してキミに罪を負わせない。決してキミに負債を残したりはしない)


 当事者の手で全てを終わらせる。そうして初めて古の神話は終焉を告げるのだ。

 過去を捨て去れば、到来するのは新時代――新たなる夜明けだ。


(その光の中で、どうか幸せになってほしい。それが――それだけが、僕がキミに望むことだ)


 全ての闇を引き受けよう。そして深淵に飛び込み、二度と闇が噴出しないように抑えつけてみせる。

 未来永劫――この身が朽ち果てようとも、魂にかけて。

これにて十章〝解放戦争〟編は終了です。

次話より最終章〝その未来は〟編が始まります。

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