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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
一章 英雄の再臨
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十七話

続きです。

時は遡り―――

  ―――ツィオーネ北門城壁上―――

 

 「討ち取ったか!?」

 蓮は戦場の大きな変化を()で、より具体的にいうならば、いつの間にか色彩が変化していた左眼で捉えた。

 「……?レンさん、どうして分かるのですか……ってその眼はどうしたんですか!?」

 そんな蓮の様子を不思議がったのか、シエルが蓮に尋ねようと顔を見て―――驚愕する。

 なぜならば、先ほどまで黒曜石の様な黒だった左眼がいつのまにか不可思議な色に変化していたからだ。

 その瞳は黒から白へ―――限りなく白に近いが黒も混じっており、灰色ほど濁ってはいないが銀色でもない、およそこの世のものとは思えない色彩に彩られていた。

 それは見る者全てを哀愁に誘うかのような、胸を締め付けられるほどの哀しみを湛えている。

 「―――っ」

 シエルは胸に去来する哀しみの大きさに、思わず呻いてしまう。

 「シエル……?」

 蓮はシエルが突然苦しんでいるかの様な姿を見て困惑し―――ある推測に至った。

 (急にどうしたんだろうか……もしかして“天眼”(アマテラス)を直視したせいかな?)

 “天眼”―――これは千年前の大戦時、とある出来事を得て蓮が手に入れた(・・・・・)特殊な瞳だ。

 この瞳は万物を見通すという極めて強力かつ恐ろしい能力を所持者に与える、世界でただ一つの代物であり、蓮はこの世界の歴史上二人目の所持者だった。

 (そういえば、“天眼”を使っているときは、誰も僕と目を合わせようとしなかったっけか)

 蓮はふと苦い記憶を思い浮かべた。

 実は“天眼”は常時起動しているわけではなく、任意での切り替えができたので、千年前は専ら戦闘時のみ使っていたのだが……ある時興味本位でそれを非戦闘時―――しかも祝宴の真っ最中に起動してみたことがあった。

 結果誰もが恐れおののき、下を見つめて黙りこくってしまい、祝宴が一転、葬式の様な雰囲気に早変わり―――という大参事を招いてしまったのだ。

 後から祝宴の参加者に聞いたところによると、なんでも自分の内側を見られている―――まるで丸裸にされているかのような不気味な感覚を味わったらしい。

 (まあ、“天眼”の由来を考えれば、さもありなんって感じなんだけどね)

 蓮は苦笑を浮かべるとシエルを落ち着かせるべく、顔は戦場に向けたまま穏やかな口調で語りかける。

 「えっと、この眼のことは気にしなくていいよ。一時的なものだから」

 「そ、そうなのですか?気にしなくていいって……でもその瞳の色……」

 シエルは納得していない様子だったが、それ以上追及してこなかった。

 (口は災いの元ってシエルはしっかり分かっているみたいだね)

 蓮は“天眼”について今話そうとは思っておらず、時が来たら話そうと考えている。

 故に、ここでしつこく追及されなかったことを、ありがたく思った。

 そして再び注意を戦場に戻すと―――困惑する。

 「……何故離脱しない?」

 “天眼”は先ほど確かに勝利の気配を捉えていた。しかし第五皇軍は離脱しようとはせず、敵陣の中央で円を描くように馬を走らせている。

 (いったいなにが……それにこの異質な気配……もしかして)

 蓮は城壁に手を付き、眼を凝らした。

 しかし距離や戦場の混沌さゆえ、思ったように状況を把握できない。

 加えて“翠帝”とは別の“力”を感じ取っていた。

 (もし予想通りのモノを敵将が持っていたとするならば……今のルナでは対処できないだろう。なら)

 「直接行くしかないか……」

 蓮はそう決断すると、

 「シエルはラインとともにここに居て欲しい」

 「えっ?レンさんは……?」

 「僕はちょっとばかり用事ができてね。行ってくるよ」

 「行ってくるって……ちょ、え、まさか」

 「そのまさかさ」

 城壁から一息に飛び降りた。

 蓮は上の方での騒ぎを背にすると、空中で“天銀皇”(アガートラム)に願う。

 すると着地の寸前に“天銀皇”が裾を広げ風を生み出し、衝撃を完全に殺した。

 蓮は着地と同時に走りだし、第五皇軍が突入した敵軍の穴に強化された身体能力に物言わせ、一気に突入する。

 『なんだ、おい―――ぐぎゃ』

 『なにが、一体―――があ』

 もちろん敵兵がいたのだが、蓮は無表情で“白帝”(ブリューナク)を喚びだし進路上の敵を淡々と排除していく。

 それは空から見下ろすと、光の線が大地に一直線に伸びているかの様でもあり、流れ星が天駆けるがごとき光景であった。

 あまりの速さに敵兵は蓮が通り過ぎたあとに気付く。自らが死んでいることに。

 とても知覚できない、なにか光の奔流が通り抜けたとしか思えない速さ。これは光を司る“白帝”が所持者に与える恩恵であり、天恵(ギフト)と呼ばれるものが起因していた。

 “白帝”の天恵―――“光輝”(フォトンレイ)

 それは所持者を光と同じ速度、つまり光速で動けるようにするといったものだ。しかも一直線ではなく、所持者の思うがままに動けるというまさに破格の力。

 その力を存分に振い、道を切り開き―――たどり着く。

 そこには禍々しい剣を手にし、空いた手でルナの首を絞める異形の怪物が居た。

 蓮は湧き上がる怒りのままに光の斬撃を飛ばし、怪物の腕を切り飛ばすと、

 「まったく、懐かしい気配がすると思ってきてみれば“堕天剣五魔”とはね。しかも制御しきれてないじゃないか」

 凄絶な殺気を怪物にぶつけ、

 「まあ、何はともあれ―――あなたは殺そう」

 ルナを安心させるために穏やかな笑みを取り繕いながら、そう宣言した。

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