表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
九章 古都炎上
188/223

エピローグ

 天は黒く染まり、地に涙を落としている。

 荘厳なる帝城も今はその威容をくすませていた。


 そんな帝城前では、一人の少年が慟哭を響かせている。

 腕に青髪の女性をかき抱いて、天に届けと泣き叫んでいた。

 周囲には三人の男女が立っている。彼らの表情は一様に悲痛をこらえるものであった。


 今、帝城の胸壁からその様子を眺める者がいた。

 雨に打たれることを厭わず、立ち尽くしている。

 その人物の表情を伺うことはできない。不気味な鬼面に阻まれてしまうからだ。


「……そうか、逝ったのか」


 死は等しく平等である。

 老若男女、貴賤を問わず訪れる不変のもの。

 例外はない――神でさえも、その真理から逃れられはしない。


「だからこそ、人は悲しむ。二度と会えぬ者を想って魂の悲鳴を上げるのだ」


 鬼面の男は眼下の光景から視線を外すと、背後を振り返った。

 そこには黒一色の全身鎧に身を包んだ男と、彼の足元に無様に転がる恰幅の良い老人がいる。


「マティアス、この者が例の?」

「そうだ、アルバ・ユーバー・フォン・ダオメン――叛乱軍総大将だ」

「叛乱軍は?」

「時間は掛かったが、最終的に一人残らず始末したぞ」

「……ご苦労だった。先にアイゼンに戻っていてくれ」


 鬼面の男が片手を振れば、何もない空間が割れて闇が噴き出す。

 そこに黒騎士――マティアスが躊躇いなく姿を消した。

 

 鬼面の男が再び手を振れば、闇は消え空間は安定する。

 それから指を鳴らして魔法を発動させ、倒れている男に近づき蹴りを入れてたたき起こした。


「がぁあ!?い、一体なにが……ま、マティアスか!?」

「違うぞ、アルバよ。我は彼の上役だ」


 痛みと動揺から喚くアルバを無感情に見下ろして告げる。


「それより、お前に教えてやろう。お前がのんきに寝ていた間に何があったのかを」


 叛乱軍の壊滅、息子の死、巨人の消滅――すなわち戦いの終焉を。


「う、嘘だっ!そ、そんなはずない!」

「お前が否定するぶんには自由だが……何故こうなったか教えてやろう」


 アルバに近づきながら、腰に吊るしていた黒刀を抜き放つ。漆黒の刀身が雨粒に濡れて、彼の恐怖心を煽る。


「な、なにをする気だ!?」

「決まっているだろう?裁くんだよ、お前の犯した罪をな」


 告げた鬼面の男は黒衣から指輪を取り出し見せる。

 これにはアルバも激しく動揺した。


「な、何故それがここに!?それはエーデルシュタインに送ったはず――」

「……語るに落ちたな。だが、いちいち証拠を提示する手間が省けた」


 冷酷に呟いた男は――なんの忠告もなしに黒刀を振るった。


「あ、がぁあああああああ!?痛い!わ、私の腕がっ、腕がああ!?」

「いくらでも騒ぐが良い。ここで発した音は外部には一切漏れないから安心しろ」

「何故――なんでこんなことを!?」

「何故?何故だと?わからないのか?」


 地面でのたうち回るアルバに、冷淡な視線を向けた男が殺意に塗れた瞳を向ける。


「人の恋人の墓を暴いておいてよく言うな」

「恋人だと?……ま、まさか貴様は――」


 何かに気づいたのか、アルバが顔面を蒼白にしたが――手遅れだった。


「死を想え――罪人よ」


 黒衣が揺れ、黒刀が一閃――鮮血を噴き出してアルバの首が飛んだ。


 地面を転がる苦痛に歪んだ首を一瞥して、鬼面の男は淀んだ声で呟いた。


「もうすぐお前もこうなる。首を洗って待ってろ――〝世界神〟」


これにて九章〝古都炎上〟編は終了です。

次話より十章〝解放戦争〟編が始まります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ