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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
九章 古都炎上
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プロローグ

九章〝古都炎上〟編始まりです。

 燃えている。

 千年の歴史を持つ古の都市が。

 永き時を経ても尚、朽ちることなく鎮座していた都市が。

 戦火に焼かれ、燃え落ちようとしていた。


 闇夜にあって、この都市だけが煌々と光を発していた。

 平時であれば賑わいを見せる中央通りは、瓦礫と死体で埋まっている。

 綺麗な石畳の道は、今や赤黒い血で汚されていた。


 時折鳴り渡るは剣戟の音色。侵略する側と、抵抗する側で刃を交えているのだ。

 だが、その音色はすぐに聞こえなくなってしまう。

 もはや抵抗する側の戦力が尽きかけているからだ。


 半比例して大きさを増す声がある。怨嗟の声だ。

 奏者はこの都市に住まう民衆たち。

 彼ら無辜の民はただ等しく生きるために逃げ惑い、その果てに死んでいくのだ。

 無常の一言に尽きる。絶望とは彼らの為にある言葉なのだと理解してしまう。


 建物が、人が、ありとあらゆるものが焼けていく。

 肉が焼ける不快な臭いが嗅覚を襲い、燃え盛る劫火の音が耳朶を嬲る。

 まさにこの世の地獄。冥界から浮上してきた悪鬼羅刹の巣窟であった。


 大炎は都市の中央に向かうにつれて勢いを増している。

 中央には何があるか?

 答えは単純明快、見れば分かる。


 ――荘厳な巨城。


 都市内とは幅が広い堀で分かたれている。

 入るには堀にかけられた吊り上げ式の橋を渡るしかない。

 その橋の都市側には、一対の巨像が座している。

 片方は大剣を地面に突き刺し、その柄に両手を置いている獅子のように雄々しき青年。

 もう片方は直剣を両手で持ち天に掲げ、外套を大きく広げた少年。

 どちらもこの都市だけでなく、国家に大きく貢献した偉大なる男たちで、今では神として祀られている。


 そんな二柱の神像の下、城と都市を繋ぐ跳ね橋に向かう者たちがいた。

 青髪をたなびかせる女性に率いられた、純白の羽を背中から生やした異形の者たち――〝天使〟たちだ。

 先頭を往く青髪の女性以外、皆空を進んでいる。その手に握られているのは神々しく輝く杖だった。


 侵略者たる彼らを阻むが如く、跳ね橋の前に立つ少年がいる。

 軍服を着こなし、その上から藍色の外套を纏っている。

 こちらも青髪であり、睨みつける同色の双眸には覚悟の炎が宿っていた。


 やがて侵略者たちが立ち止まる。異形の姿を見ても、圧倒的な数を目の当たりにしても、少年は子揺るぎもしない。

 不動――しばしの沈黙。

 破ったのは、侵略者を率いる女性だった。


「そこをどきなさい。いくらあなたが私の弟とはいえ――慈悲はかけないから」


 対する少年は重々しい口調で返す。


「それはこっちの台詞だ――姉ちゃん。おとなしく投降しろ」


 二人は姉弟の関係にあった。だが、片や敵に寝返った裏切り者(あね)で、もう片方は軍属にして国家を守護する大将軍(おとうと)である。

 故にこの対決は必然で。


 少年が腰から剣を抜く。紫光放つ禍々しき剣だ。

 引き下がる気なし、戦意ありと認めた女性もまた剣を抜く。先端の無い奇怪な剣であった。

 

 高まる熱は闘気。空間を圧迫するは覇気。互いを鋭く突き刺すは戦気。

 じりじりと距離を詰めた両者は――ある一定の距離で同時に地を蹴った。


「ハァアアアッ!!」

「オォオオオッ!!」


 雄たけびが大気を切り裂き――互いの剣がぶつかり合って鮮烈な音色を奏でる。

 数奇な運命によって敵対した姉弟が今、ここに激突した。


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