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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
八章 王の帰還
162/223

三話

続きです。

 アインス大帝国はこの三年間で大きな変革を遂げた。

 最も大きなものとして挙げるとすれば、軍事面だろう。

 新たに皇帝となったルナは、護国五天将や軍務省と協力して軍を再編し直した。

 まず各領域に駐屯する領域軍、並びに皇族専用の軍団である皇軍を解体。再編して方面軍と名を改めた。

 また、権力を高める貴族諸侯を抑えるために大胆な命令を下した。


『私軍を解体し、全て方面軍に参加させよ』


 女帝の発した命令に貴族諸侯らは当然反対した。

 私軍は自らを守る盾だけでなく、権力を増やすための剣でもあるからだ。

 しかし、ルナ皇帝は軍務省長官であるバルトや宰相であるマリアナ、加えて護国五天将を後ろ盾としていたために、その権勢は絶大。

 更に不正を行っていた貴族諸侯を処罰し、数多くの有力家が零落していったために反抗するための団結が出来なかった。その上、それらの行いを民衆が支持したため、抗えるものではなかった。

 

 だが、内に溜まった鬱憤や不満が消えるわけではない。

 神聖歴千三十四年一月十五日――アインス大帝国中域中部グロースの町。

 この町は中域五大貴族ダオメン家の本拠地である。

 肥沃な四天平原(アンファング)で行われる農業、それを支える雄大なザオバー川を背景とした富。更に大帝都に近く、また南大陸の中央部にあることから交易でも大きな富を得ている。

 故に、グロースの町は各領域に存在する帝都と同等の繁栄を誇っていた。

 そんなグロースの町――領主の館では、ダオメン家当主が怒りの声を上げていた。


「ふざけおって、あの皇帝めが!我がダオメン家を切るなど……恥をしれっ!」


 激昂するダオメン家当主――アルバ・ユーバー・フォン・ダオメンを、冷めた眼で見つめていた者が口を開く。


「いい加減、静かにしていただけませんか。話が進みませんから」


 外套を深々と被った女性であり、僅かに青髪が見て取れる。

 諫められたアルバは、怒りを抑えようと机に置かれていた杯に手を伸ばし、注がれていたワインを一飲み。


「ふぅ――……すまんな、使者殿。みっともない姿を見せてしまった」

「いえ、構いません。あなたの怒りはお察ししますから」


 それより、と女性は問いかける。


「あなたに渡した指輪ですが、エーデルシュタインに流しましたか?」

「ああ、言われた通り、ガイウス派にな」

「それならば問題ないですね。……では次に、賛同者についてはどうですか?」


 間髪入れずに質問を重ねる女性に、アルバは僅かに眉を顰めつつも応じる。


「……予想よりも少ない。あの忌々しい女帝が新興の貴族を優遇したことや、一度は処罰された連中に温情を与えたことで、不満が減ったのが原因だろうな」


 なにもルナ皇帝は貴族諸侯が嫌いなわけではない。ただ、不正を行って富を肥やすのが許せないだけだ。

 故に改心を誓った者や新興の貴族諸侯とは比較的円満な関係を築き上げている。


「連中は何もわかっておらん。私兵の件といい、あの女帝は中央集権を目論んでいる。そうなれば貴族諸侯の権力が減ることは明確だというのにな」


 間抜け共め、とアルバが罵り嘲る。


「だが、一部の者はそれに気づき、私の元へと集まっている」


 現在、グロースの町にはアルバに賛同する貴族諸侯らが集結しつつある。

 無論、付き従う兵士たちもだ。


「徴兵される危険性があるのでは?」

「町の中に匿っておけば問題ない。いくら権力を削がれたとはいえ、ここはダオメン家の本拠地だ。皇帝とて軽々とは訪れられない」


 ダオメン家はアインス大帝国誕生の時――すなわち建国初期から存在する由緒ある家柄だ。

 ダオメン家の歴史はアインスの歴史と言われるほどの名家である。

 五大貴族から外されたとはいえ、それ以上の干渉を皇帝は出来ないでいた。

 

 得意げに語るアルバを、眉一つ動かさずに眺めていた女性が口を開く。


「……どれくらい集まりそうですか?」

「五万程度だろうな。北域貴族共の結束が揺るがなかったせいで、北域からは賛同者が出なかった」


 北域をまとめるのは五大貴族オーベン家であるが、実際にはブラン第二皇子が支配者である。

 そんな彼は三年前、大帝都を襲撃した賊徒と戦い負傷。療養を余儀なくされた。

 このことで北域の結束が乱れるかと期待されたのだが、なんと彼はたった半年の療養で全快し、今では北域守護〝北域天〟に任命され、更に強まった権勢を北域で振るっている。


「おかげで当初の見積もりよりも少ない」


 落胆の息を吐くアルバに、女性が慰めの言葉をかける。


「ですが、五万も集まれば十分かと。適切な時期を見計らえば、国家転覆は可能でしょう」

「……もうすぐ、女帝がエーデルシュタインにむけて出立する。反旗を翻すとすれば、その時だろうな」

「その時は我々も協力を惜しみません」


 淡々と告げる女性に、アルバは胡乱げな視線を投げかける。


「しかし、私に協力してお前たちにはなんの得がある?金か?それとも権力か?」


 対して女性は感情なき声のまま応じる。


「どちらでもありません。我々が望むのは現状のアインス大帝国の崩壊のみです」

「……そうか。だがしかし、それを実現するには問題がまだある。女帝留守の大帝都を守護するのはあの(、、)ライン大将軍だ」


 その言葉に、初めて女性の表情が変化する。

 が、気づかぬアルバは言葉を続けた。


「三年前のエルミナ聖王国との戦いでは女帝を守り、その後に行われたアイゼン皇国との共同作戦であるベーゼ大森林制圧時に、多大な功績を上げた男。紫電放つ剣を振るうその姿はまさに悪鬼羅刹と名高い男でもある」


 それらの功績を以って西方守護〝西域天〟に任命された平民出身の少年ライン。

 彼の武威は国内のみならず、周辺諸国にも広く知れ渡っている。

 無論、アルバもその恐ろしさは知っていた。


「私の配下で奴に敵う武人はいない。だからお前たちの方でなんとかしてもらいたいものだな」

「……問題ありません。彼の相手に相応しい者を派遣致しますので」

「ほう、それは頼もしいことだ。是非とも頼んだぞ」

「我が主に伝えておきます」


 そう言って女性はアルバの部屋を退出する。

 廊下を歩き、ふと窓から差し込む夕日に視線を向けた。


「……ライン。あなたは姉であるこの私が――……」


 呟きを聞く者は誰もいない。ただ、静寂に消えるのみだった。


 *****


 神聖歴千三十四年一月二十日。

 アイゼン皇国東部国境アナトレー。

 雪降る街道を往く軍勢がいた。白銀の鎧を纏い、三つ首の黒竜の紋章旗を掲げている。

 千年の歴史を誇る〝天軍〟三千だ。

 その中央、騎兵に囲まれた場所には黒馬に跨った男がいる。

 黒衣を纏い、黒刀を腰に差した鬼面の男――蓮である。


「まもなく国境です、陛下」


 隣に馬を寄せて報告してきた女性の名はアリア・ローゼ。

 千年前、蓮と共に戦ったヴィレという女傑の末裔であり、〝天軍〟副官だ。


「そうか……向こうからはなんと?」

「歓迎する、とのことです」


 ここに至るまでに、蓮はガイウス派に向けて手紙を送っていた。入国許可を得るためだ。

 手紙にはそれ以上は何も書いていない。協力するとは伝えていないということだが、どうやら相手方は勘違いをしている可能性が高い。


「味方してやるって言ってないのにな。能天気な奴らだぜ」


 鼻で笑ったのは、筋骨隆々の大男キール・アトレビド。

 元アイゼン皇国将軍であり、今はアリアと同じく〝天軍〟副官の地位にいる。


「その方がこちらとしては都合がいい」

「まあ、そうだけどよ……」


 退屈そうに息を吐くキール。

 そんな彼を見咎めたのはアリアだ。


「おい、キール。貴様、陛下のお考えに何か文句でもあるのか!?」

「いや……ただ、つまんねえなと思っただけだよ」


 キールは生粋の戦闘狂であり、戦いを続けるために蓮の配下に加わったという経緯がある。

 故に、今回のように内紛への介入に消極的な姿勢は彼にとってはまさにつまらないのだろう。


 蓮は苦笑を浮かべると、キールへ視線を向ける。


「おそらくだけど、国境を越えていい兵数を向こうが指定してくるだろう。こちらは僅かな兵力でエーデルシュタインに乗り込むわけだ。つまり……何かあった場合は、少数で大軍を相手にしなければならないだろうね」


 何が言いたいのか、察したキールが口端を吊り上げる。


「へえ……それはいいな」


 ひと暴れできる可能性を提示されたキールが笑う。

 逆にアリアは不安そうに進言してきた。


「陛下、仮にそうなった場合、不味いのではありませんか?御身が危険にさらされることを、私は看過できません」

「問題ねえよ。陛下を守るために俺たちがいる。それに今回は頼もしい助っ人が来てるしな」


 と、キールが話の矛先を蓮の右斜め前を往く女性に向ける。


「さあ、どうかしらね。私がこいつを見捨てる可能性の方が高いかも」


 女性――マーニュが横目で言ってくる。

 それに対して反応したのは、蓮に忠誠を奉げているアリアだ。


「貴様……陛下の寵愛を得ているからと調子に乗るなよ。貴様は所詮は外様、敵国の人間なのだからな」

「別に好きでここにいるわけじゃないわよ。こいつに無理やり連れてこられただけだもの」


 マーニュが親指で蓮を示せば、我慢ならないとアリアが吠えた。


「陛下!今すぐこの狼藉者を誅せよとお命じください!」

「はっ、望むところよ。あんたなんか私の足元にも及ばないってことを、思い知らせてやるわ」


 事あるごとに喧嘩する二人に、キールは面白いと笑みを浮かべ、蓮は嘆息をついた。


「……二人とも、そこまでだ。マーニュを連れて行くと決めたのは僕だし、アリアはマーニュに劣らぬ武力の持ち主だ。どちらも頼りにしているよ」

「陛下……!」

「……ふんっ」


 対照的な反応を示す女性陣を見たキールが更に笑い声を強める。

 そんな配下を見つめながら、蓮は思案に入った。


(おそらく国内に連れていけるのは多くて百……いや、五十くらいだろうな)


 こちらが味方だと完全に分かるまでそうなる可能性が高い。三千とはいえ、精兵揃いだと天下に轟く〝天軍〟を領内に引き入れるのは、安全保障上の観点から避けたいだろうからだ。


(だからアリアたちを連れてきたわけだけど……)


 アリアとキールは神器所持者であり、マーニュにいたっては〝世界神〟が創り出した神聖剣五天所持者だ。一騎当万とまではいかないだろうが、一騎当千レベルであることは確かだと断言してよいだろう。


(それに僕も力を完全に取り戻しているしね)


 問題があるとすればオルティナ派に援軍として向かったルナたちと出会ってしまう危険性だろう。

 ガイウス派の援軍として見られてしまえば、戦闘は避けられないものとなる。


(今のルナたちは純粋に強い。手加減して勝てる相手じゃない)


 故に、戦闘は何としても避けるべきだ。ルナたちにはエルミナ聖王国征伐に赴いてもらわなければならない。このような場所で負傷されては困る。


(さっさとガイウス派には滅んでいただくとしよう)


 目的の物を手に入れた後は即座に出国し、ルナたちとの遭遇を避ける。


 蓮が考えをまとめ終えるのと、目的地に到着するのはほぼ同時だった。

 視界には広大な面積を誇るトランバル山脈が映り込み、山々の合間に置かれた砦が雪化粧をしているのが見て取れた。

 この砦こそがエーデルシュタイン連邦、アイゼン方面の警戒所である。

 こちらを見つけたのか、砦の胸壁に続々と兵士たちが集まってきて弓矢を構えた。

〝天軍〟側も即座に応じ、蓮を守るために正面に密集して盾を構える。

 一触即発の雰囲気の中、蓮は気さくに片手を挙げて言葉を発した。


「〝天軍〟司令官〝黒天王〟(ウラノス)である。ガイウス殿の招待を受けてやってきた。既に入国許可は得ているはずだが、何故そのような態度を示すのか、答えてもらいたい」


 蓮が慎重に言葉を選んで告げれば、返ってくるのは重苦しい静寂だけだ。


「……まだこの砦まで伝達が行き届いてないのでは?」

「それはないだろ。書状を送ったのは七日前だぞ?」


 囁き声で言葉を交わす副官二人に、マーニュが言う。


「ガイウスって男が完全に軍を掌握してないんじゃないかしら」

「つまり……この砦の司令官はオルティナ派ではないけど、さりとてガイウスに忠誠を誓っているわけではないということか?」


 元々、商人たちが治める自治都市の集まりだ。それ故に忠誠心などなく、金銭で繋ぎとめているということだろう。


(それと英雄王の指輪を使ってね)


 現在の状況は砦の司令官か、あるいは国境の土地を治める自治都市の長の指示である可能性が高い。

 ならば次の言動も予測できるというものだ。


(通行料でも取る気かな。大胆な性格であれば、僕を捕らえて身代金を要求するかもしれない)


 蓮が想像を巡らせていると、砦の正門上の胸壁に人影が現れた。


「私は国境沿いの領土を治めるヘンドラーの町の長、アルム様よりこの砦を任されているシェンケルという者だ。そのような話はこの砦にはきていない。故に貴殿らを通すわけにはいかぬ。早々に立ち去るが良い!」


 派手な服を着た禿頭の男――シェンケルが嘲りに満ちた表情で言ってきた。

 距離があり、常人では見えないだろうと高をくくっているのだろうが、あいにく蓮と一部の配下は超人の類だ。


「あの男……っ!陛下、今すぐあの不敬者を討ち果たしましょう!」

「まてまて、嬢ちゃん。そう急くなって」

「で、我らが〝黒天王〟陛下はどうなされるつもりなのかしら?」


 いきり立つアリアをなだめるキールに注意を向けながら、マーニュが問いかけてくる。

 対して蓮は〝黒薔薇〟から一枚の手紙を取り出して見せた。


「ここにガイウス殿から送られてきた入国許可証がある。これでもまだ貴殿らは我々を遮るつもりか?」


 ひらひらと手紙を振って注意を引くも、確認のために誰かがやってくるわけでもなければ、門を開けて出迎えるわけでもなかった。

 外交面を鑑みれば、このような無礼を自治都市の長が許すはずがない。

 つまりはシェンケルという男の独断である可能性が高かった。


(しかし、何故このような真似をするのだろうか……?)


 考えてみても思いつかない。得などないように思えるが……。


「もしかして……ガイウス派じゃないのか?」


 そうだとすれば辻褄があう。ガイウス派の援軍である蓮たちをここで足止めすれば、それだけオルティナ派が有利になるのだから。


(だがそのような人間に国境の砦を任せるか?……いや、オルティナ派に買収されたという可能性もある)


 どちらにせよ、このままでは埒が明かない。

 蓮は嘆息すると、指示を下す。


「全軍、この場で待機せよ。我一人で向かう」

「へ、陛下!?」


 驚きの声を上げるアリアを手で制しながら、愛馬クロを操って一人、突出する。

 突然壁から出てきた司令官に、砦の兵士たちが動揺する。


『どうなってやがる……なんで司令官だけが前に出るんだ?』

『お、おい!見ろよ、アレ!き、鬼面を被っているぞ!』


 一人の兵士が発した言葉で、場がにわかにざわつきだした。


『まさか……〝鬼面の死神〟か!?』

『嘘だろ……なんでアイゼンの守護神がここにいるんだよ』


 ある者は恐怖から泣きそうになり、ある者は畏怖から顔を歪める。

 それほどに蓮の異名は広く知れ渡っていた。

 

 三年前のことだ。

 エルミナ聖王国との戦いの折、本陣に迫った敵軍をアイゼン皇国軍が迎え撃った。

 その際、女王と共に最前線で戦った男がいた。

 不気味な鬼面を被り、黒刀を振るいて敵を屠るその武力はまさに一騎当千。

 返り血どころか埃一つ付かない黒衣を躍らせて戦うその姿はまさに悪鬼羅刹。

 そんな彼を目撃した者は一様にこう表した――〝鬼面の死神〟と。

 その後のベーゼ大森林制圧作戦で、単騎で万の魔物を滅したという噂もあってか、この異名を知る者は多い。

 

 そして今、砦にも知っている者がいたのだろう。瞬く間に恐怖と畏怖は伝染し、軽い恐慌状態が発生していた。


「静まれっ!たかが一人、恐れることなど何もない!」


 シェンケルが大声で命じるも、あまり効果は見られない。

 その間に蓮は歩みを進めながら黒刀の柄に手を置いた。


「シェンケル殿、あなたの態度が悪いのがいけないのだ」


 蓮は鬼面の下で鮮烈な笑みを浮かべる。

 そして黒刀を抜き放つ――時だった。


「がはっ」


 シェンケルが吐血した。

 驚きの表情で固まる彼の後ろには、眼鏡をかけた理知的な男が立っている。


「アルム様……!?」

「シェンケル、オルティナ派と通じウラノス殿に無礼を働いた罰として――ここで死ね」


 アルムと呼ばれた男がシェンケルを蹴り飛ばすと、彼は胸壁から落ちて蓮の足元に転がってきた。

 心臓を一突きされている。これではもはや助からないだろう。


「あ……た、助け――」

「死を以って償えと言ったはずだが?」


 後を追って飛び降りたアルムが冷徹に告げて、手にしていた剣でシェンケルにとどめを刺す。

 断末魔が生まれたが、蓮の注意はアルムの持つ剣に向けられていた。


(魔器……銘無しか)


 銘の無い魔器は銘ありほどではないが、常人を超える身体能力を所持者に与える。

 だからこそ、アルムは胸壁から飛び降りても大丈夫だったのだろう。

 

 蓮の視線に気づいたのか、アルムが眼鏡の位置を直しながら歩み寄ってきた。


「ウラノス殿、この度は部下が大変な無礼を働き申し訳ございませんでした。私は国境付近を治めるアルムと申します」

「〝黒天王〟だ。償いはしかと見届けた。故に許そう」

「ありがとうございます。ガイウス殿からあなたを本拠地であるトレーネまで案内してくれと頼まれていますので、どうぞこちらへ。……それと大変申し訳ありませんが、お連れの軍はこの砦で待機して頂くことになります。我が国の安全保障のためとご理解下さい」

「当然のことだな。しかし、護衛の為に数名連れて行っても良いか?」

「もちろんです。英雄王の末裔であり、アイゼン皇国の元帥であらせられるのですから、護衛をつけないのはむしろ論外でしょうからね」

「ありがたい。そうさせてもらうとしよう」


 丁寧な物腰のアルムに、蓮は殺気を引っ込めて疑問を口にする。


「先ほどのシェンケルという男はオルティナ派に寝返っていて、ガイウス殿の元へ向かおうとする我の歩みを阻止しようとした――という解釈でいいのか?」

「はい、大変お恥ずかしい限りなのですが……」


 恐縮を顕わにするアルムを見る限り、嘘を言っているようには見えない。


(ってことは、内ゲバに巻き込まれたってことか)


 幸先悪いなと思いながら、蓮は嘆息する。

 次いで案内を始めるアルムを一瞥して、アリアたちを呼び寄せるのだった。


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