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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
一章 英雄の再臨
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十四話

続きです。

『―――ォォォオッ!』

 鬨の声が戦場に響き渡る。両軍の間で熱せられた空気が、遠方にいても感じられる。

 「始まったか」

 蓮は戦の始まりを感じ取り、静かに戦場を見据えていた。

 「ルナ殿下の方から仕掛けましたね……てっきり相手の出方をうかがうのかと思ってました」

 隣に居るシエルが驚きを言葉に乗せる。

 「それはないかな。数で劣っている以上、せめて先手はとらないと厳しいからね」

 先手を取ることで戦の主導を握ることは戦の常道だ。後手に回ってしまえば相手の出方に合わせて動かざるを得なくなり、結果相手の掌の上で踊らされてしまうからだ。もっとも、策次第ではひっくり返すことも可能なのだが……なんにせよ損害が大きく出てしまうのは避けられないだろう。

 (さて、ルナはどんな策を……ってあれは―――)

 蓮はツィオーネ合同軍の布陣を見て、驚きを浮かべる。

 「この状況で大鷲陣か……なかなか大胆なマネをするね」

 「大鷲陣……?それに大胆というのは?」

 シエルが疑問符を浮かべながら聞いてくる。

 大鷲陣とは、大鷲が翼を広げる姿に似ていることからそう名付けられた陣形だ。

 中央に縦陣を敷き、その両側に残りの兵を敵軍を囲もうとするかのように弧を描くように配置する。そして両翼の兵が敵の背後を取りに行き、その間中央が敵をひきつけ包囲完成まで耐える、といったものだ。

 「大胆だと言ったのはね、本来大鷲陣は兵数が同等かそれ以上の時にやる陣形だからだよ」

 今回のように兵力差で劣っている場合、まず中央がそう長くは耐えられない。そして中央が崩壊すれば両翼の背後に回られ、前後からの攻撃で各個撃破されるだけだ。

 そう説明するとシエルが顔面を蒼白にして震えだした。

 「そ、そんなっ!なぜルナ殿下はそんな無謀な事を!?」

 「確かに大鷲陣を普通に(・・)使えばまず負けるだろうね。でも今回ルナは違う使い方をするみたいだよ」

 ルナが行おうとしている策に気付いた時、蓮は驚きを通り越して感心した。何故なら失敗すれば即全滅の憂き目に会いかねない、危険極まる策だったためだ。

 (並みの将であれば怖気づいて絶対に選ばないであろう策をルナは選んだ。それ故に相手の不意をつけるだろう)

 アイゼン皇国軍は現在、両翼に展開したツィオーネ合同軍に対処すべく本軍から兵を割いて向かわせている。この様子ではルナの策には気づいていないと蓮は踏んでいた。

 (でも懸念もある。アイゼン皇国軍の動きが不可解すぎる)

 アイゼン皇国軍は何故か(・・・)軍を第一陣、第二陣、本陣というように布陣している。

 (別働隊を組織してツィオーネの西からも攻めれば、ただでさえ少ないこちらの兵力を割くことができたのに)

 要塞都市ツィオーネは東から南に掛けてトゥール川が流れる位置にあり、東と南からは橋でしか入れない。トゥール川は水深が深く、橋を使わなければ渡れないという天然の防壁になっている。

 しかし、都市の西と北は平野が広がっているだけなので攻めるのはそう難しくない。

 故に、西と北の二正面から攻勢を掛ければ有利になるのは間違いない―――のだが、何故かアイゼン皇国軍はそれをしてこなかった。

 (しない事自体が策なのか、あるいは……)

 驕っているのか。確かに敵に驕りが生まれるのも無理はない。兵力差がそれだけ圧倒的だからだ。

 だが―――、

 (いくらなんでも一万の軍勢を預かる将が驕ったりするか……?)

 蓮はそう思わざるを得なかった。蓮の記憶では驕りで敗北した将は、大戦初期の、人族を馬鹿にしていた魔族ぐらいなものだったからだ。

 (なにか策が……)

 しかし、そこまで考えた蓮は思考を強引に断ち切る。

 (深く考えすぎるのはよくない。視野狭窄に陥ってしまい、真実を見誤る確率が上がってしまう)

 むしろそれこそが相手の策なのかもしれないからだ。深く考えさせて相手の思考の幅を狭め、その隙に一気に勝負を決める。十分ありうることだ。

 「ライン、さっきから黙っているけどどうしたの?」

 シエルがラインに様子をうかがう声で、蓮は視線を戦場からラインの方へ向ける。

 「…………」

 「ライン……ライン!」

 ここに来てからというもの、ラインはずっと黙りこみ戦場を見つめていた。初めは緊張しているだけだと思っていたが……

 「ねえ、聞いているのライン?返事してよ」

 「…………ん?ねえちゃん?」

 姉の必死の呼びかけにようやく応じるライン。だがどこか上の空だ。

 (この様子……もしかして)

 蓮はそんなラインの様子を見てある可能性に思い至った。

 「ライン、キミはもしかして興奮(・・)しているのかい?」

 「……え?い、いやそんな不謹慎なこと……」

 ラインはそう否定したが、逆に蓮は確信を持つ。

 (返事まで僅かだけど間があった。ラインは生粋の武人気質なのかもしれない)

 もしそうであればラインを武人として鍛え上げるのも悪くはないと蓮は考えていた。

 (ラインは姉のシエルを守る力が欲しいと言っていたし、もしその道を選んでくれたら僕にも益はある……この戦いが終わった後にでも聞いてみるとしよう)

 もっとも姉のシエルが反対するだろうが……それであきらめるようならそれでもいいと蓮は考えている。

 (まだ若い。それ故にいろんな道を選べるからね)

 ラインがどのような道を選んだとしても、蓮はそれを全力で支援するつもりだ。

 (僕は二人の面倒を見るって決めている)

 自分の計画と並行して行うことになるが、問題はないと考えていた。

 そんな風に考え込んでいた時だった。

 「―――っ!」

 蓮の()が戦場の変化を捉えた。

 

 

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