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英雄王、その未来は  作者: ねむねむ
七章 希望と絶望の狭間で
159/223

十八話

続きです。

 戦いが徐々に収束していく。

 アインス大帝国西域西部ダスク平原で行われた、二十八万対三十万という、史上においても類を見ない規模の軍勢同士が激突した戦いが終わりを告げようとしていた。

 アインス大帝国を始めとする諸国連合軍による包囲殲滅陣が完成、加えて司令官であるオティヌスがルナ第五皇女に討たれたことでエルミナ聖王国軍は投降を始めている。

 しかし、そんな戦場にあって未だ熱気に包まれる空間があった。

 凄まじい爆発が立て続けに起こり、心胆を震わせる爆音が奏でられている。その合間を縫って聞こえてくるのは剣戟の音色であった。

 「ハァア!」

 「ゼアアッ!」

 奏者は複数人いた。

 両目が無い男たち――紫光放つ剣を手に、魔法を使って爆発を起こしている。魔力を操作できる存在――魔族であった。

 彼らに立ち向かうは一人の美青年――紫電纏う大剣を手に、魔法剣戟飛び交う戦場を縦横無尽に駆け巡っていた。アインス大帝国の軍服をかっちりと着こなし、胸元には大将軍を示す記章が付けられている。

 軍事国家アインス大帝国が誇る武官の頂点、護国五天将の一人〝東域天〟レオン・トロイア・フォン・フィンガー大将軍である。

 二十一歳という若さで大将軍となった希代の男。覇彩剣五帝〝黄帝〟(ケラウノス)の寵愛を受けし男。

 そんな彼も初めは一介の武官でしかなかった。東域五大貴族フィンガー家に生まれた貴族ではあったが、レオンは家柄を使うような真似は一切せず、一兵卒として軍に入った。

 家柄のことでの妬み嫉みは日常茶飯事であり、受けた誹謗中傷も並みではなかったが、彼は卑屈にならずに日々邁進し続け――遂に転機が訪れる。

 長年小競り合いが続くヴァルト王国との国境線〝東域戦線〟へ派遣されたのだ。

 そこで彼は数々の輝かしい戦歴を打ち立てる。孤立無援に追い込まれた時には単騎で一千の敵軍の最中を突破してみせたり、自軍が劣勢に立たされた際には一人最前線で戦い続け、遂には敵軍を撤退させることに成功したりと。

 レオンがいなければ東域戦線の維持は出来なかっただろうとも言われている。そんな彼の活躍ぶりは中央にも轟き、皇帝の耳にも入ることとなった。

 大帝都に召喚されたレオンは時の皇帝――すなわち先代皇帝フリードリヒに認められて大将軍に任命され、護国五天将となる。護国五神器〝青龍〟を貸し与えられた彼は再び東域戦線へと舞い戻り、前線を押し上げることに成功する。

 レオンの実直な性格、生真面目な態度にいつしか兵士たちは惹かれ、その武威を褒めたたえるようになった。のちに覇彩剣五帝〝黄帝〟に選ばれてるという栄誉を受けても、態度が変わらなかった彼を誰もが賞賛し尊敬した。

 だが、一部の者たちは――レオンの戦いぶりをよく知る者たちはそれ以外の思いを抱いていた。

 畏怖――あるいは畏敬である。

 彼らはレオンのことを口をそろえてこう評する――〝阿修羅〟だと。

 国を護るという絶対の〝正義〟をかざし、剣を振るうレオンは、端的にいって敵に容赦がない。切り伏せ、地に倒れ、完全に死滅するまで彼は戦い続ける。たとえ先ほどまで味方であった相手であっても、裏切りなどでひとたび敵に回れば一片の躊躇なく殺す。

 それだけでも恐ろしいのに、彼には更に危険視される要因があった。

 ――諦めることを知らないのだ。

 どれほど危機的状況に陥っても、どれほど絶望的状況に追い込まれても、どれほど劣勢に立たされても。

 レオンは絶対に屈しない。とにかく諦めずに戦い続けるのだ。

 その不撓不屈の精神は常人では決して持ちえないものであり、その勇猛精進ぶりは敵には畏怖を、味方にには尊敬をもって評価されている。

 今もまたそうであった。

 「ハァアアアッ!」

 剣で貫かれ空いた腹部の穴から夥しい量の血が垂れ落ちているにも関わらず、レオンは気迫のこもった剣術で敵を圧倒している。

 主の意思に呼応するように、〝黄帝〟は輝きを増し、紫電を放って敵をけん制していた。

 満身創痍――にも関わらず、その戦いぶりは獅子奮迅であった。

 対する魔族らはレオンの武威に圧倒されていた。

 数的有利なのに仕留められない。傷を負わせても、吹き飛ばしても立ち上がってくる。

 やがて距離を空け、一旦戦闘を休止した彼らは――愕然とする。

 十二人もいたというのに、半分の六人にまで減らされていたからだ。

 「……貴様、本当に人族か!?」

 驚嘆の声を上げる魔族。それを一瞥したレオンは息を整えながら言葉を返した。

 「無論、某はただの人族だ」

 「はっ、嘘を吐くな!致命傷を受けて尚、我ら魔族を圧倒するなど人の業ではないわ!」

 「信じぬのならそれでも良い。某はただ、貴殿らは屠るのみだからな」

 ぶれない。どこまでも燃え盛る闘志が、その碧眼から発せられていた。

 魔族たちは思わず後ずさってしまい――激怒する。

 「ふざけるなっ!我らは最優の種族である魔族、貴様如きに負けるわけがない!」

 戦闘再開、魔族たちは魔法を使い、炎を、氷を、雷を、風を放つ。

 視界を覆いつくすほどの面攻撃、空を飛べないレオンは回避できない――否!

 「〝黄帝〟よ、我に力を!」

 吠え猛る主に応じて〝黄帝〟が力を発揮する。

 天恵(ギフト)――〝鼓動〟(パルスノヴァ)

 触れたもの全てを粉砕(、、)する紫電が放たれ、迫りくる魔法全てが迎撃される。魔法の陰に隠れて接近を試みた魔族たちは慌てて回避行動をとるも、一人が破壊の雷に打たれて爆散、そこら中に肉片が飛び散った。

 これが、これこそがレオン一人を討てぬ原因。魔法による防御すらも粉砕する神雷を放たれては、近づくことすらままならない。

 「厄介な……ッ!」

 「しかし何故、奴は覇彩剣五帝の力を使えるのだ?今は封じられているはず――」

 「……空を見ろ。既に術は解けている」

 「なんだと!?」

 魔族たちが天を仰げば、そこには先ほどまで展開していた神々しき光はなく、澄み渡る蒼穹が広がっているだけだ。

 そう、レオンが力を使えているのは何も奥の手である〝天孫降臨〟を使ったからではなかった。

 彼らは知らぬが、既に術の行使者である〝聖女〟は撤退済みであった。

 「ならば撤退を――」

 「逃がさぬよ」

 動揺を隠せない魔族を襲う悪寒。即座に迫る殺気に顔を戻せば、眼前に紫電が――。

 「あっ――」

 魔族にできたことはそれだけ。ただ呆けた声を出すだけであった。

 次の瞬間には体を爆散させ、絶命した。

 大将軍(レオン)を前にしては、一瞬の隙が致命的なものとなる。

 一斉に視線を向けた魔族たちが見たものは――特大の絶望であった。

 視認さえ困難なほどの輝きを発する大剣を両手で持ち天に掲げ、覇気を滾らせるレオンの姿がそこにはあった。

 彼の頭上に急速に集う黒雲。渦を巻いて稲光を大量に発している。

 天候操作を成しえたレオンは、ただ敵を討たんと鋭い視線を魔族に投げかけていた。

 それを受けた魔族たちは瞬時に判断を下し、残る全ての魔力を凝縮して魔法盾を創り上げた。

 「〝絶対防御〟(アブソリュート)

 その判断は正しい。レオンが放とうとしている攻撃は広範囲に及ぶため、今から逃げても間に合わないからだ。

 紫光放つ半透明な大盾、見て取ったレオンは――子揺るぎもしなかった。

 覇気を爆発させ、〝黄帝〟を振り下ろす。

 「覇ァアアッ!」

 

 ――雷切瞬散(アドゥンナー)


 振り下ろされた瞬間――世界が震えた。

 凄まじい光量が網膜を焼き、圧倒的な爆音が鼓膜を突き破る。膨大な熱量は大地を抉りぬいた。

 天から降り注ぐ極光は裁きの雷。

 あらゆるものを打ち据え、砕く。焼き焦がしては塵と化す。

 雷撃が収まった後には何も残らなかった。ただ焼け焦げ、抉れた荒廃の大地が広がるのみ。

 人族をはるかに超える力を有した魔族は全滅していた。

 その結果を見届けたレオンの耳朶に、馬蹄の音が触れた。

 「レオン殿、無事か!?」

 「……ティアナ殿でしたか。某は無事です、それよりも首尾のほうは……?」

 「上々だ。敵本陣を制圧し、糧食を抑えた。そののち敵本軍を背後から強襲し叩いたところ、ルナ殿が敵司令官を討ち取ったこともあってか、敵は降伏を宣言した。だから私がこうしてここに来たというわけだ」

 「そうでしたか。それは……良かった」

 かすれ声で応じるレオンに疑問を抱いたのか、下馬したティアナが近づいてくる。

 彼女は直後にレオンの負傷に気づき、声を張り上げた。

 「衛生兵、レオン殿を治療せよ!」

 近づいてくる無数の足音を聞きながら、それでもレオンは意識を手放さずにいた。

 『これは……今すぐ治療せねばならないでしょう。それも簡易ではなく、本格的にです』

 「ならば本陣へ帰還しよう。私が運ぶ、ついてきてほしい」

 『承知しました』

 そうしてレオンは肩を抱えられて、勝利の凱旋を迎えるのだった。


 *****

 

 かくしてのちの世で第一次宗教戦争と呼ばれる戦いは幕を閉じた。

 この戦いはエルミナ聖王国の敗北という形で終わったものの、勝者である連合軍は逆侵攻を行わなかった。

 連合軍に参加した国々は戦争によって疲弊しており、此度の派兵ですら限界だったからだ。

 連合軍は三万の犠牲を払って勝利し、各々の国へと帰還していく。

 ヴァルト王国は〝覇王〟リチャード・ヘルシャー・ファン・デ・ヴァルトが未だ目覚めぬまま。

 エーデルシュタイン連邦は内紛の兆し見える自国へと。

 アルカディア共和国は一番被害が大きく、実に二万もの兵を失って。

 アイゼン皇国は新たに〝黒天王〟という強力な存在を迎え入れて。

 そしてアインス大帝国。

 ルナ・レイ・スィルヴァ・フォン・アインス第五皇女は側近の裏切りによって負傷し、治療を受けている。覇彩剣五帝の加護もあることから大事には至らないというのは、不幸中の幸いであったといえるだろう。

 レオン・トロイア・フォン・フィンガー大将軍もまた負傷してしまい、療養に入ることとなった。彼も覇彩剣五帝の加護で急速に回復していっている。

 このように要人はなんとか無事であったものの、今後の課題は山積みであった。

 捕虜となったエルミナ聖王国軍をどうするか。未だ国交のない状態であるために、戦後交渉は行われていない。

 ベーゼ大森林地帯からの魔物の大侵攻が未だ収まる気配を見せていないことも問題だ。今は北域軍が交戦中だが、その内総軍などを派兵して本格的に対処しなくてはならない。

 西域に関しても課題は多い。エルミナ聖王国の侵攻によって荒れ果てた土地の再建、難民の保護、寝返りから征伐された西域貴族を新たに立てることも重要だ。

 国防の観点でも護国五天将三人の戦死や度重なる戦争で失った兵の確保など、問題は多い。

 これら諸問題に対処すべく国庫を開け放つわけだが、財貨が更に目減りすることも問題である。

 加えてこれからは冬――食料の問題もあるだろう。蓄えはあるが、一気に消費されることは確定的だ。

 アインス大帝国は今後、多くの苦難に晒されることだろう。超大国として南大陸に覇を唱え続ける時代は終わりを告げたのだ。

 そして――、

 「……〝世界神〟(ルミナス)が表舞台に上がった。〝天魔王〟と交戦したらしい」

 「ふん、負けるなど我ら〝五大冥王〟の恥だな」

 「一応は引き分けたらしいがな」

 彼らもまた動き始めようとしていた。

 これより訪れる混迷の時代では、無関係でいられる者などいない――それは神でさえも。

 「ふふ、なかなかやるねえ〝天魔王〟。私にここまで傷を負わせるとは」

 「次こそは必ずお兄様を……っ!」

 多くの者たちが動き出し、世界は混沌へと突き進んでいく。

 「では参りましょうか、お兄様――いえ、〝黒天王〟(ウラノス)陛下」

 「……ああ、往こうか――我が()よ」

 加速する悪意、果て無き欲望が渦巻き、世界は新たなる局面――〝転換期〟を迎えようとしていた。


 *****


 神聖歴千三十()年一月一日。

 新年度を迎えたアインス大帝国――首都クライノート。

 気温が低く、吐く息は白い。雲一つない空には昇り始めた太陽が燦然たる煌めきを発していた。

 地上――大帝都クライノートの大通りは人々でごった返している。彼らの表情は一様に明るく、活気に満ち溢れていた。

 それもそのはずで、今日は記念すべき新皇帝の即位が執り行われる日なのだから。

 昨年末には先代皇帝フリードリヒの崩御が発表され、喪に伏した国民であったが、新年に合わせて発表された新皇帝の即位に心機一転、沸き立っていた。

 国民は大帝都に住まう者から遠方に住まう者まで様々であり、同盟関係にある他国からも人が訪れていた。

 もちろん、他国の貴人も招かれている。彼らは帝城の露台(バルコニー)に用意された席に座っていた。

 そんな彼らの背後。大扉が開け放たれて、一人の女性が進み出てきた。

 皇帝のみが着用を許されている外套を纏い、腰には翠色の宝剣を帯びている。

 大勢の人々の視線を一身に集める女性――第五十代皇帝ルナ・レイ・スィルヴァ・フォン・アインスは、歓声を送ってくる人々に手を振り、笑みを浮かべて見せた。

 次いで振り返り、他国の指導者たちに挨拶をすれば、返ってくる祝辞の山。どれも悪意のない、純粋な好意で満ちている。

 それから改めて向き直ったルナ新皇帝は、露台から人々を見下ろして片手を挙げる。

 すると人々が静まり返った。玉音を賜るためである。

 「まずは皆に感謝を。エルミナ聖王国の侵攻に耐えた民、国難を打破すべく立ち上がった兵士諸君、(わたし)を支えてくれた貴族諸侯、そして協力してくれた諸国の者たちに捧げる」

 陽光に照らされる銀の髪は神秘的で、強い意志宿る虹彩異色の双眸は神々しいものである。発せられる声はまさに美声と呼ぶに相応しかった。

 「昨年はまさに苦難の連続だった。諸国との戦争、皇族による反乱、そしてエルミナ聖王国による侵攻。英雄王シュバルツ陛下の末裔たるレン・シュバルツ第三皇子は国を護って戦死され、先代皇帝フリードリヒ陛下は反乱時の負傷が原因で逝去なされた。護国五天将マヌエル大将軍並びにユリウス大将軍も戦死され、ほかにも多くの兵士、民が亡くなった」

 悲し気に声を震わせ、死者を悼むその姿に人々は敬意を抱いた。貴賤を問わず亡くなった者たちを悼んだ皇帝はほとんどいない。

 「しかし、だからこそ、我々は立ち止まってはならない。亡くなった者たちの犠牲を無にしてはならない。……余はここに宣言する。必ずや蹂躙された西域を復興し、いずれエルミナ聖王国に正義の鉄槌を下すことを!」

 新皇帝としての決意表明は割れんばかりの歓声によって受け入れられた。

 アインス史上初となる女帝は民を慈しみ、兵を貴び、国を愛する御方なのだと理解したからだ。

 人々の期待を一身に背負い、国を導かんとするその立ち姿はまさに竜章鳳姿と評するに相応しいもので。

 『〝戦乙女〟(アテナ)!〝戦乙女〟!!〝戦乙女〟!!!』

 女帝の異名を呼び称える民衆の声が大帝都にいつまでも轟いていた。

 

 そんな光景を見つめる者たちがいた。

 大帝都の街並み――その路地の暗がりから即位式を見物している。

 外套を深々と被り、姿を隠した彼らはしばし式を眺めていたが、やがて先頭に立っていた人物が振り返ったことで視線を戻した。

 「もういいの?」

 すぐ傍にいた女性が問いかけると、振り返った人物がくぐもった声を発する。

 「ああ、もういい。アイゼンに戻ろう」

 その言葉を受けたことで、外套の集団は踵を返して場を後にする。

 が、残る者がいた。指示を発した人物と問いかけた女性、そしてフードを上げて金髪碧眼を晒した男である。

 「……やはり複雑な気持ちかい、マティアス?」

 指示を発した人物もフードを上げながら、そう問うた。日の下に晒されたのは黒髪と不気味な鬼面。

 「あんたは一応元皇位継承権第一位だものね。妹に玉座を取られて悔しいとか?」

 女性もフードを上げる。栗色の髪と灰色の瞳を持つ美貌が露わになった。

 「そのようなことはないぞ。我は玉座には興味がないのでな」

 金髪碧眼の男――マティアス元第一皇子が尊大な態度で応じた。

 「我よりも――〝黒天王〟、貴様の方が複雑であろう。あの小娘とは大層仲が良かったようだしな?」

 「あんたね、一応主なんだから言い方に気を付けたほうがいいんじゃない?」

 「ふん、我は望んでこいつの手先になったのではない。故に敬語など使わぬ。それは貴様もであろう、マーニュよ」

 マーニュと呼ばれた女性が同意だと言わんばかりに頷いた。

 「それもそうね」

 そんな会話を繰り広げる部下を後目に、〝黒天王〟は帝城の露台に視線を送っていた。

 すると彼らがここにいることが分かっている人物――アイゼン皇国女王ミルトが視線に気づいて小さく手を振ってくる。

 五百メートル以上離れているというのによく気づいたものだと感心しかけたが、よくよく考えると魔器による五感の強化があれば当然かと思い直した。

 「……さて、そろそろ行こうか。新皇帝の見極めは終わった」

 彼らにとっての主の命令に、二人は忠実に従ってフードを被りなおして立ち去る。

 〝黒天王〟もまた同様の動きをしようとしたが、不意に強烈な視線を感じて振り返る。

 そこには露台の上からこちらを見つめる新皇帝(ルナ)の姿が。

 明らかにこちらのことを捉えている。

 二人はしばし見つめあう。

 「ルナ……また会うこともあるだろう。その時まで、果たして僕は人のままでいられるだろうか」

 〝黒天王〟――蓮は自嘲の笑みを浮かべて、視線を外す。

 「……いや、その時僕は完全に〝神〟になっていることだろう」

 そしてフード被り、ゆっくりとその場を後にするのだった。

 

 帝城の露台――そこから地上を眺めていると異常な気配を感じ、視線を向けたルナだったが、その先には鬼面を被った黒髪の人物がいた。

 もうルナは確信していた。想い人は生きていると。

 (レン……必ずあなたに会いにいく。そして――あなたの真意を問いただす)

 返答しだいでは殴ってでも止めなければならないだろう。彼が歩んでいるという復讐の道――覇道を阻むために。

 (私が救ってみせる。絶対に)

 ルナは視線を外して去っていく鬼面の人物(レン)の背中を、見えなくなるまで見つめ続けるのだった。


第一部終了です。次話より第二部第一章〝王の帰還〟が始まります。

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