一話
続きです。
神聖歴千三十一年七月二十九日。
ここのところずっと厚雲で覆われていた天の支配権を太陽が取り戻していく。朝日が雨水に濡れる大帝都を照らし出した。
荘厳であり、神秘的な光景が生み出される。しかし人々がそれに気づくことはなかった。
『早くしろって!このままここにいたんじゃ殺されちまう』
『エルミナ聖王国はとにかく人を見つけ次第、虐殺してるそうだぞ。早く東へ――ヴァルト王国の方へ逃げねえと』
東西南北に置かれた正門は早朝にも関わらず混雑していた。商人たちや他領域に住まう者たちが大帝都から去ろうと必死に動いているためだった。
そんな人々を薄情な連中だと非難の目線を送っている者たちがいた。大帝都に住まう者たちだ。
彼らは簡単に住居を移せないので、危機が迫ろうとも逃げ去ることなど出来はしない。
『ふん、エルミナ聖王国がなんだってんだ。こっちは人族最大の国家アインスだぞ』
『でもよ、奴ら三十万の軍勢で攻めてきてるって話じゃねえか。今のアインスにそんな数が集められるかね』
『しかもこの間の反乱で皇帝陛下が重傷を負ったって噂だ。今もお隠れになっているとか』
『政府は何をやってんだろうねえ。ここんとこずっと黙り込んでるじゃないか』
人々が不安げな視線を帝城へと送る。
その帝城では今まさに緊急の軍議が始まろうとしていた。
玉座の間はマティアス第一皇子のせいで使えなくなっているため、会議室が使われている。
集っているのは蓮を含む皇族と生き残った高官、そして主だった貴族諸侯だ。
『これからどうすべきでしょうか。陛下を失い、多くの高官も失ってしまい、そこに侵攻の知らせです』
反乱に関して国民に発表したのはルナがエリザベート第三皇女を討ったというところまでだ。その後に起きたマティアス第一皇子による皇帝暗殺は混乱が予想されることから伏せている。
「一先ず、現在の戦局を皆で共有すべきだろう」
そう提案したのはホルスト宰相だ。彼は反乱の際に運よく生き残った一人である。
しかし、それを運よくで済ませるのは少々無理がある。
『ホルスト宰相……それよりも何故あなたは五体満足なのですか?そもそも反乱の折は何処にいらしたので?』
宰相とは皇帝に次ぐ地位であり、国家の変革を望んだマティアス第一皇子が見逃すはずがない存在である。故に嫌疑がかかるのは当然といえた。
『あなたはマティアス第一皇子と内通していたのではないですか?だからこそ生き残れたのでは?』
普通は誰だってそう考える。蓮とてホルスト宰相の正体を知っていなければ同じ考えを抱いただろう。
「今はそれどころではなかろう!それに私は当時、陛下の命で城下街に降りていた。故にマティアス第一皇子と鉢合わせることがなかっただけだ!私にあらぬ疑いをかける前に、現状について話し合うべきだ。違うか!?」
彼の言葉の真偽を確かめる確固たる証拠がない以上、これ以上の追及は不毛であり、今もっとも大事な時間を無駄に浪費してしまうことになる。故にそれ以上の追及はなかった。
『では、話を戻してよろしいですか?現在の戦局についてですが……』
司会進行役の貴族が呆れを隠さない態度で言えば、皆が身を引き締めた。
『エルミナ聖王国の侵攻から一週間、西域は甚大な被害を被っています』
反乱で誰もが中央に意識を向けていたのをいいことに、エルミナ聖王国は三十万という大軍勢にも関わらず素早く侵攻を開始した。
西方国境である大陸を縦断する大絶壁、ここを渡る唯一の手段である〝天の橋〟を陥落させ、橋頭保とすると軍を五つに分けてアインス西域を蹂躙し始めたのだ。
『よもや西域五大貴族のミッテル家が内通していたなどとは思いもしませんでしたからね。ここまで被害が大きくなったのはミッテル家をはじめとする多くの西域貴族が寝返っていたためでしょう』
エリザベート第三皇女の生家である西域五大貴族ミッテル家をはじめとする多くの西域貴族が敵側に寝返っていたことが、〝天の橋〟陥落に大きく貢献してしまっていた。
(ルナからはエリザベート第三皇女が〝世界神〟信仰の言葉を吐いていたと聞いている。今回の反乱でマティアスと彼女の目的は違ったのだろう)
マティアス第一皇子はこの国のために動いていたが、エリザベート第三皇女はエルミナ聖王国の――〝世界神〟のために動いていたのだと推測できる。
(さらに興味深いことも聞けた。かつて後宮事件を引き起こした第一皇后とエリザベート第三皇女が同じような言動をしていたということだ)
このことから蓮はアインス大帝国に〝世界神〟の魔手が伸びているのだろうと確信した。
(〝奴〟はアインス大帝国に干渉し、国力を弱めると共に、自らを崇め奉っているエルミナ聖王国を動かしてとどめを刺しに来たということだろう)
一連のアインス大帝国の国力衰退は仕組まれたものだということだ。
(既にこちらは後手に回らざるを得ない状況に追い込まれている……けど、このまま好きにはさせないよ)
この国は何としても残さなければならない。友との唯一の繋がりなのだから。
『このことから西域軍は裏切った西域貴族の私兵とも戦わなければいけなくなり、結果各地に分散してしまっている模様です』
『マヌエル大将軍は何をしている?護国五天将たる彼がいれば侵攻を食い止められるであろう』
一人の貴族が疑問を口にすれば、司会役の貴族は重々しい口調で答える。
『西方守護マヌエル大将軍ですが、彼は現在西域鎮台に立てこもって敵軍の侵攻を食い止めているようです。ですが先も述べた通り、西域軍は各地に散っておりますから、鎮台に残っている兵数は三万にも満たない。対してエルミナ側は五軍の内の二軍――八万で攻城を行っており、苦戦は免れないかと』
エルミナ聖王国は〝天の橋〟防衛に総勢十万の軍を待機させ、残り一軍四万、計二十万を五軍に分けて侵攻させている。そのうち二軍が西域鎮台を攻城しており、南東から一軍を西域鎮台を迂回させて第二帝都に向かわせていた。
残る二軍――八万の軍勢だが、
「一番不味いのは北東方面に侵攻中の二軍だろう。彼らは神聖殿の奪取を目的としているんだからね」
この場にいて尚、重苦しさを感じさせない態度でブラン第二皇子が告げる。
彼は銀髪金眼――対照的な色彩を有した皇位継承権第二位である。
今回の反乱で皇位継承権は大きく変動した。
第一位であったマティアス第一皇子は継承権を剥奪され、第二位であったエリザベート第三皇女はルナの手によって征伐された。
これにより継承順位が繰り上がり、ブラン第二皇子は第二位、ルナは反乱を鎮圧した功績を持って第一位となった。
蓮は継承権を放棄しているため問題にならず、マリアナ第四皇女ことマリーは第三位に繰り上げとなっている。
しかし継承順位の繰り上げは行われたが、皇帝を選定するには至っていない。エルミナ聖王国が攻めてきている中で内部分裂が起きるのを避けるために棚上げせざるを得ない状況だからだ。
(ルナの支持は今回の反乱でかなり上がっている。でも未だ敵対派閥がいるのも事実だ)
ブラン第二皇子を擁する北域貴族、中央に干渉しない南域貴族、此度の反乱で処罰された中域貴族や西域貴族などがいる。
(敵対派閥を始末するのは難しいことだ。でも西域貴族のように敵と内通しているのであれば別だ)
蓮は壁際に立っている侍女を横目で見やる。
ブラン第二皇子の言葉に一同は重い息を吐いた。
『確かに、ブラン殿下のおっしゃる通りですな。神聖殿はアインス大帝国のみならず、周辺諸国にとっても重要な場所。そこを敵に奪われたとなれば非難は免れないでしょう』
神聖殿とは人族で唯一神力を行使できる存在である緋巫女が住まう場所であり、信仰の象徴的存在でもある。アインス大帝国の庇護下にあることから、もし奪われでもすれば周辺諸国からの非難は免れないどころか自国民からも非難されるであろうことは想像に難くない。
『異教徒から聖地を奪還する――それが奴らの掲げる大義でしたな。まったく度し難い』
エルミナ聖王国は〝世界神〟信仰のみであり、アインス大帝国やその周辺諸国の〝双星王〟信仰を異端であると表し、〝世界神〟の力たる神力を行使できる緋巫女を保護すると公言している。
『ですが妙ですな。〝創神〟であらせられる初代皇帝陛下はまだしも、人族――ひいては世界を救った英雄王である〝軍神〟シュバルツ陛下を貶めることは、この世界に生まれた者であれば普通考えもつかないはず。なのに連中は躊躇いなく異端だと言っている。これはおかしいことでは?』
アインス人の常識ではそうだが、〝世界神〟の息が掛かっているエルミナ聖王国では異端ということにされているのだろう。
蓮はそう予想したが、無論彼らが知るはずもない。
「狂信者の主張など理解しようとするだけ無駄でしょう。今はエルミナ聖王国にどう対処するかを話し合うべきです」
そう発言したのは恰幅の良い男。無派閥最大の貴族であった。
ロイエ・バーボン・フォン・バステル。
反乱に加担したとして処罰された中域五大貴族ダオメン家に代わって中域貴族たちを纏めている存在だ。
『ロイエ卿のおっしゃる通りです。私は各地にいる領域軍を中央に集めるべきだと思いますが』
一人の貴族の発言に、ホルスト宰相が反応を示す。
「それについては私も同意見です。アインス大帝国の総力を結集せねば三十万という大軍勢には勝てないでしょうから」
『では、各地の領域軍について話し合いましょう。まず……東域はどうですか、バルト卿?』
進行役の貴族が訊ねれば、東域五大貴族のバルトが応じる。
「東域はヴァルト王国との戦争が終結したためすぐにでも軍を動かせる状態にあります。加えて〝東域天〟レオン大将軍がいる東域鎮台には我が国の主力である総軍が駐留しており、こちらも動ける状態にあります……が、何分数が数ですので中央に来るのには一月ほどかかるかと」
「それは仕方がありません。小分けにして送っても、揃わなければ大軍勢を打ち破ることはできませんからな」
唸るバルトにホルスト宰相が告げる。
『では次に北域はどうですか?』
これにはブラン第二皇子が応えた。
「北域軍は諸兄らもご存じだと思うが、エルミナ聖王国の侵攻とほぼ同時期に発生したベーゼ大森林地帯からの魔物の大侵攻に対処している」
恐れていた最悪の事態が発生していた。しかし、五天会議での決議の通りに西域軍からベーゼ大森林地帯へ派兵が実行されていたので大事には至っていない。
派兵された西域軍が奮戦することで時間が稼がれ、援軍である北域軍が間に合ったためだ。
「このことから動かせるのは二万五千――大帝都に連れてきた五千と合わせて三万となる。あまり力になれず申し訳ない」
「いえ、魔物の大侵攻が凄まじいものであることは誰もが知っております故、不満などありません。ですが二万五千が到着するのはどの程度の時間がかかるのですか?」
「東域と同様に一か月は掛かる見込みだよ」
「そうですか……」
ブラン第二皇子の言に、ホルスト宰相が落胆を隠さない息を吐く。
『で、では次に南域はどうですか?』
進行役の貴族がとりなすように言えば、一人の南域貴族が応じた。
『南域ですが……此度のエルミナ聖王国による侵攻に呼応するかのようにルフト属州各地で小規模な武装蜂起が相次いで起こっており、治安維持活動に軍を割いている状況にあります。ですが援軍を派遣することは十分可能であると〝南域天〟ルドルフ大将軍が申しています』
ルフト属州は一度反乱がおきている場所であり、未だ不安定な情勢下にある。
(それにしてもこのタイミングでか……エルミナ聖王国が噛んでいる可能性が高いな)
魔物の大侵攻にルフト属州での不穏な動き。エルミナ聖王国がこちらを確実に弱らせてから討とうとしているということが分かる。
(厄介な相手だ。けど……こちらもまだ手札は残ってる)
蓮はちらりとルナを見やった。
絹糸のように滑らかな銀髪に神秘的な虹彩異色の瞳。だが美顔は曇っていた。
(マティアスに負けたことが尾を引いているか……)
蓮としてはエリザベート第三皇女を討ち果たし、覚醒を遂げたということだけで満足なのだが……ルナ自身は違うようだ。
(問題はない。失った自信を取り戻す機会はこの先十分にある)
と、ここで進行役の貴族の発言に意識を戻した。
『そちらもやはり一月はみるべきなので?』
『はい、やはりそれくらいは掛かるかと……』
『わかりました。……では最後に中域はどうでしょうか?』
その言葉に、今や中域貴族たちの中心的存在となっているロイエが重々しい息を吐いた。
「反乱に加担した兵士たちは不安定な精神状態にあり、とてもではありませんが反攻作戦には参加させられません。残る軍も治安維持に割くことを考えると……動かせるのは三万程度ですね」
エルミナ聖王国が西域に侵攻したことで、西域の民が中域に逃げてきていた。これによって治安が悪化、各地で盗賊が発生し、加えて大侵攻に触発された魔物たちが人を襲い始めていた。
各地で問題が発生したことで、アインス大帝国の動きは緩慢なものとなっている。これが全て敵の思惑の内だとすれば、向こうには相当な策士がいると予想される。
(この辺りで介入すべきかな)
会議室に漂う悪い流れを断ち切らなくてはならない。アインス大帝国が負けそうだと悟れば貴族諸侯たちの中に裏切り者が出始めてしまう。保身が第一の連中が大多数なのだから。
(西域貴族のようにね……けど、それが本来あるべき人の姿でもある)
人はだれしも自分が一番だ。蓮のように国家を優先する人種は狂人と呼ばれる類の存在である。
しかし、蓮はそのことを理解しながらも納得はしていなかった。
(民の血税で富を得てるんだから、国家の――民のために命を使うべきだろ)
『……やはり各領域からの援軍を待つべきですね。たった三万では太刀打ちできないですから、ここは西域には耐え忍んでもらうしか――』
「いえ、ここは打って出るべきです」
進行役の貴族の言葉を遮って、蓮は立ち上がると声を発する。
「お言葉ですがレン殿下、たった三万で出陣しても撃破されるのは誰の目にも明らかでしょう。いたずらに兵を死なせるのはどうかと思いますが……」
ホルスト宰相が苦言を呈してきたが、蓮の態度は揺るがない。
「ここで出陣しなければ政治的にも軍事的にも不味いんですよ」
「それはどういう……?」
疑問符を浮かべるホルスト宰相に、蓮が説明を始める。
「まず政治面ですが、アインス大帝国が反攻に打って出れないと周辺諸国が知れば好機とみて軍をこちらに差し向けてくる可能性があります。さらに国内ではアインスを見限って寝返る貴族も出てくるでしょう」
前者はありえないと蓮だけが知っていたが、あえて口に出す。
「仮に軍を動かさないとしても、神聖殿が攻め落とされかけているというのに動かないのは怠慢だと非難を浴びせてくるでしょうね。国民だって当然、政府を非難するでしょう」
そうなれば国家の権威は失墜する。その先にあるのはアインス大帝国の崩壊だ。
「次に軍事面ですが、エルミナ聖王国側の侵攻速度が速いので西域軍だけでは中央になだれ込んでくるのを長期間阻止することはできないでしょう。そうなれば敵は中域に攻め込んできて、大帝都は包囲されてしまう」
国家の象徴であり、首都である大帝都が包囲されるようなことになれば、やはり国家の権威は失墜を免れない。
「このことから少数であっても打って出るべきなんですよ。アインスはこの程度では揺るがないと見せつけ、西域の民に希望を与える必要がある」
大仰な手ぶりで注目を集め、自信たっぷりに告げる。
「更に打って出るにあたって、指揮官を僕が努めます。〝軍神〟の末裔である僕が出張ることで、三万の軍に希望を持たせ、西域の民には本国はあなた方を見捨ててはいないんだと理解させられる」
アインス大帝国における重要人物である蓮が出陣することで兵と民に希望を持たせ、貴族諸侯をけん制する。
と、ここで黙っていたルナが声を上げた。
「それは危険。もしレンが討たれるようなことになればアインスは終わったと言う者もでる。英雄王の末裔であるレンはそれくらい重要な人物。軽率な行動は避けるべき」
この言葉に思わず蓮は驚きから押し黙ってしまう。
(矢継ぎ早に言って誤魔化そうとしたんだけど……ルナには通用しないか)
ルナは基本的に落ち着いた性格をしており、周囲の雰囲気に飲まれにくい。蓮が場の雰囲気を誘導しても彼女だけは冷静な視線を保っていた。
(皇帝になるにあたってはうれしいことなんだけど……今は邪魔でしかないな)
蓮は眼帯を撫でると、笑みを浮かべて応じた。
「それについては問題ないよ。僕がするのはあくまでも援軍結集までの時間稼ぎ、遅滞行動だからね」
本格的にやりあうことは避け、徹底した遅滞行動に努める。
そう告げれば、ルナは疑念を宿した瞳を向けてきた。
「……本当?」
「あ、ああ。本当だよ。だから安心して欲しいな」
ルナの瞳に視線を合わせて告げれば、彼女は渋々といった様子で黙り込む。
と、ここで成り行きを見守っていた進行役の貴族が言葉を発した。
『ふむ、ではルナ殿下も行かれてはどうですか?覇彩剣五帝所持者であるルナ殿下がレン殿下と共にいれば、万が一の事態を避けられると思うのですが……』
その言葉に多くの貴族たちが同意を示すように頷いた。
「いえ、ルナにはほかにやるべきことがあります」
蓮は懐から複数枚の書状を取り出す。
「周辺諸国の代表から僕宛に手紙が届きました。内容は此度のエルミナ聖王国の侵攻に関して話し合いたいとのことです」
これには集っていた者たちの間でざわめきが起きた。
蓮は大仰に手紙を叩いて注意を促すと、再度口を開く。
「アイゼン皇国、エーデルシュタイン連邦、ヴァルト王国、アルカディア共和国――四ヶ国が既に会議への参加を表明しています。その場の流れ次第ではありますが、アインス大帝国に援軍を送ってくれる可能性もあるため、不参加は愚策でしょう」
なので、と蓮は告げる。
「アインス大帝国も参加すべきです。そして集うのは国家の代表であり、現状我が国の代表に相応しいのは皇位継承権第一位であるルナだと僕は思います……皆さんはどう思いますか?」
と、問いかければ敵対派閥ですら渋々ではあるが首肯した。今は争っている場合ではないと理解しているのだろう。
「……反対意見はないようですね。ルナはどうだい?」
蓮が話を振れば、ルナは無表情の中に緊張を滲ませて頷いた。
「ん、相手は三十万の大軍勢。周辺諸国の手を借りられれば勝率を上げられる。異論はない」
とはいえ必ずしも周辺諸国の手を借りられるとは限らない――現状では。
(どの国家も自国を優先するのは当然。だから今は戦争に参加することに消極的だろうな)
だが、蓮の計画が順調に進めば必ずや援軍を得られると確信している。
(ルナ、キミの皇帝としての器を試すことになる。苦難の連続だろうけど……キミなら乗り越えられると信じているよ)
蓮はルナに温かい視線を送ったのち、会議室を見回す。反対意見が出ないことを確認して座り込んだ。
『では、レン殿下の提案を基本方針として動きましょう。次は――』
進行役の貴族が話を進め始めたのを聞きながら、蓮は手元にある書状へと視線を落とした。
(上手く行った。後は……)
その後、軍議は滞りなく終わりを告げた。




