眼鏡二人の秘策
「ふふふ、まさか初戦で君達とあたるとは……」
「もう少しデータが欲しかったのだけれどやむを得ない事だ」
「なに、データなら戦いながらでも手に入る。嘆く事はない」
二人は中指で眼鏡をクイッとさせながら会話を交わしていた。
「さあ、試合開始まで残りわずかとなりました。両チームとも情報を隠しながら戦ってきたチーム故にまともなデータはお互いに入手出来ていないでしょう。この試合、どのようなものになると予想しますか?」
「ふむ、常に理詰めで戦略を組んでくるアンティキティラの生徒の中でもあの二人は特に秀才だと言われている。聞いた話では二人ともIQ120以上だという噂だ」
「それに対してロレットのあの二人は武器そのものを変更させ戦術そのものを変えてきている。これにより相手からデータを集められないようにしている。しかもその武器捌きはどれも高い水準、下手に様子見をしているとそのまま押し切られる可能性も否定できない」
「つ、つまり……?」
興味津々な声色でその先を聞き出そうとしている。
「つまり、最初から隠してきた奥の手の一つを見せる必要があるという事ですよ。そしてその秘策に対してあの二人はどのように対処するか?」
「それはつまり、奥の手を隠している秀才と本来の戦いそのものを隠している天才の戦い……完全に未知数だ!」
いや、予想出来てないだけだろそれ。
「ふふ、未知数か」
「我々の実力は隠せていると言うことですね。我々の計算通り」
再び中指で眼鏡をクイッとさせてきた。
「ほう? ならばその実力、我らの前でも隠し通せるか見物だな」
「ふっふっふ、君達の戦術はすでに見切っている」
「なに?」
「前衛に我々二人を同時に戦わせて後衛の君が隙をつくという作戦だろう? その程度のことを計算する事なんて造作もない」
普通そういう戦術を組むだろ。
「……少しばかりこちらの手を読んだところで我らに勝てるとでも思っているのか?」
「その戦略を今言う必要などないし、言ったところで理解できるはずもない。君の頭では理解の範疇の外にあるロジックだからね」
「この私が理解できないだと? 随分と面白い冗談を言う男だ」
「ふふふ、わかるはずがない。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや、これは東国の言葉で小さな人物は偉大な人物の考えていることを理解することは出来ないという意味だ。君の頭では我々の頭脳を理解することは出来ない」
さらに二人は中指で眼鏡をクイッとさせた。
「貴様ら、無事に帰れると思うなよ……?」
「フフ、そんな言葉しか出てことは、この国の民の学力低下も甚だしいね」
相変わらずの薄ら笑いを浮かべながら眼鏡をクイッとさせてきた。
「もしかして、眼鏡のサイズが合ってないのか? すぐに眼鏡の位置を調整しているが」
「……ああ、初めて顔を見たから気づかなかったよ。君も僕達ほどの知性は持っていないようだね」
「うつばりの燕、雀孝行」
「……え?」
片方の眼鏡が、どちらも眼鏡だが、あえていうならば背の高い方の眼鏡が聞き返してきた。
「さらに東国の言葉で、燕は子供を深く愛し、雀は親を深く愛する、という内容の言葉だ。孝を以て仁とするならば、燕雀の徳は論ずるまでもないだろう。それを軽んじるお前達は君子でもなければ賢人でもないな」
「ほう、僕達を愚か者と評しますか」
「まったく、実に頭にきますよ」
そんな事を言いながら二人は懐から薬品のようなものを取り出し、そのまま飲み干した。
するとどうだろうか。みるみるうちに身体が巨大化し、上半身の服は弾け飛び、筋骨隆々の青年にビルドアップしてしまった。
「巨大化……だと?」
「あ、眼鏡のサイズが合っている」
「……本当だ。……違う! おい審判! あれドーピングじゃないのか!? レギュレーションに違反してないのか!」
「……いや、そういう効果の魔法ならば違反にならない」
なんてザル法なんだ、まったく。




