本選出場祝い
「まあ、せっかくですから今日はご馳走になりましょう」
そう言うと、ナタクは店員を呼び出し、テーブルを移動させた。
「本選出場のお祝いだと思ってくれて構わないから、皆も気兼ねなく注文するといい」
「だ、そうだ。お言葉に甘えて一番高いのでも頼むか?」
「い、いくら奢りでもそれはちょっと」
「安心しろよ、その気になればこのホテルごと買い取るぐらい造作もない話なんだからな。というより今日このホテルを貸切にしたのはこの人の可能性が高い」
そうならばこいつが全ての部屋の鍵を持っていたことも説明がつく。それにホテルへの質問も受け付けるのもこいつ自身がクライアントだからということだろう。
「ホ、ホテルを買い取る!? そんな金持ちなのかよ!?」
「どんなに金持ちだって言ってもホテルの買取なんてできるわけないでしょう? もっともこのホテルを貸切にできたのはナタク君が頑張ってくれたからなんだけど」
「今までこんな前例ないでしょう? つまりそれぐらいの金が動いたってことですよ」
「……このホテルのロイヤルの数は確か……」
オリヴィエはこのホテルの部屋数から貸切に必要な資金を計算しているようだった。
「そんなに大した事じゃないんだよ。ただ、このホテルのオーナーが偶然知り合いだっただけさ」
「え!? オーナーと知り合いだったの!?」
「偶然って言いましたが、偶然なのは知り合いだったことではなくその人がオーナーに就任したことじゃないんですか?」
こいつの財運だって親ほどではないにしても桁が違うからな。もし本当に知り合いなら『偶然』金運に恵まれることも高い確率でありえる。まあ、そういうのをご利益というのだろうな。
「いやー、そんなことはないんじゃないかな?」
「そうですかね? 貴方のお友達は皆、『幸運にも』何らかの形で成功しているように思えるので……その方もそういう幸運に恵まれた方なのかと」
「ま、まあいいじゃないか、そんなことは。それよりも本選出場を祝おう! 注文はこっちで頼むことにしよう。どうやら慣れていない人もいるようだしね」
誤魔化したな。ということはここのオーナーはこいつの思し召しで選ばれた奴か。何がホテルを買い取れるだ……完全に手中に収めているじゃないか。
「ええ、まずは夕食を頂きましょう」
席に座り少し待つと料理が運ばれてきた。どうやらコース料理らしく、大量のスプーンとフォークが並べられた。
夕食会はそれなりの時間が経過した。
「そろそろ会計を済ませよう」
「ご馳走になるわよナタク君」
「会長たちの分も奢るんですか? 別に構いませんが」
「良いのかよ……」
本当に金銭感覚が凄いことになっているな。結構な値段だぞ。
ナタクが会計を済ませ、俺たちも礼を言いレストランを後にした。
「いやー美味しかったわね」
「会話はびっくりするぐらい弾まなかったがな」
「え? ああいうところってお喋りしたらまずいんじゃないの?」
ああいう食事会って主催者がどう思っているかによって変化するからなあ。
「むしろお喋りした方がいいはずだ。食事会はあくまでもコミュニケーションの一環として認識されているからな。増してやあの男ならばなおさらだろう」
「だが場合によっては一切喋らずに食事しなければならないはずだ。まあそういうのは主催者に合わせるのが普通だから、結局のところ話をした方が良かったかも知れんが」
「そこまでわかってて何で黙ってたの!?」
「さっきも言ったように主催者に合わせるべきなんだよ。つまり今回の場合はお喋りなんてせずに終わらせるのが正解だ」
流石に仲良く食事なんてできる筈ないからな。少しでも早くナタクと離れることが最善策のはずだ。
「あ、あのーなんか今日はごめんね? 奢る約束だったのに逆にご馳走になっちゃって」
「ああ、奢ったのは生徒会だから気にする必要はないな。なにせ本選出場のお祝いだからな」
「うーん、でも」
「じゃあ飲み物でも奢ってくれ。それで手を打とう。懐も厳しいようだからな」
隼人は苦笑いしながらもこの要求に応じてくれた。




