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崩天蛇神の秩序維持  作者: てるてるぼうず
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夕食

「……そこで俺がテロリスト達の潜む館に突入して姫様を助け出した訳だ」


 調べ物の内容を聞く限りでは資料を集めるのに時間が掛かりすぎるため、一度ホテルへ移動することになった。ホテルでゲイル達と合流したあと、俺は先輩の部屋へ資料を貰いに向かった。

 資料を持って戻ると、ホテルのテーブルに座りながらゲイルが皆にテロリスト達に姫様がさらわれた時の話をしている。当事者の俺が聞く分には大分盛っているように聞こえる内容だったが、まあ反応はボチボチといったところか。


「へえ、すごい活躍じゃないか!」

「あんたがねぇ……それ本当の話なの?」

「俺が嘘ついてるって言うのかよ!?」

「て、言うか本当にそれが真実ならもっとしつこく自慢するわよね? あんたの性格考えると」


 どうやらエリーは薄々感づいているようだな。


「お前友達の言葉が信用できないのか!?」

「それならすぐに答えがでるわ」

「え?」

「よう、俺の知らないところで随分活躍したらしいな?」

「げ! もっと時間がかかるんじゃないのかよ!」


 ゲイルは目を丸くしながら大きな声を出した。その表情からは驚愕がはっきりと映っており、冷や汗もかいている。


「その反応は聞かれたくない話が混ざってたってことよね?」

「はぁ!? そんなわけ」

「まあ、後で聞き比べてみればわかることね」


 まったく、なんですぐにバレるようなことを言うんだ? 俺だって当事者なんだから嘘ついても意味ないんだぞ?


「それより、調べたいと言っていた資料だ。これ以外の情報は俺にもわからんからな、悪く思うなよ」


 そう言って資料を二人に見せる。


「ず、随分ぶあついね……」

「ああ、明日本選に出場する六十四組の選手……その百二十八人中八十六人分の情報が記載されているからな。聞いていなかったが一年生の情報だけで良いんだろう?」

「た、たった一日でそこまで調べてあるのか!?」

「勿論この大会が始まる前から集めていた情報が大半を占めるだろうな。これは今日の試合を通して修正し直したものだ」


 もっともこれだけの資料をわずかな時間で修正するのはかなりの労力だろうな。


「とんでもない情報網だな……」

「……そうだオリヴィエ、お前にも資料を渡しておくぞ。明日までに一通り読んでおけ」

「わかった。今夜中に目を通しておこう」

「任せた……それで? おまえ達は誰の情報が欲しい? 資料に載っているならば渡そう」


 俺はもう一つの資料をオリヴィエに渡した後、自分用の物の一ページの目次に視点を合わせた。


「良いのかい?」

「何が?」

「こんなにたくさんの資料を見せてもらって……とても重要なものなんだろう?」

「確かに、大会前に相手選手の情報を集めることは必須と言っても良いが、それ故に至難の業とも言える。ましてやそれ程の膨大な量の情報……誰もが欲しがるはずだ。必然的にそれ相応の価値もつく」


 確かにこの資料は剣術部の裏方に回っている人達の努力の結晶……毎日の偵察や、情報の統合、その努力は一年生の俺にはとても計りきれない。


「別に恩に感じる必要はない。こっちにもメリットがあるから教えているだけだ」

「メリットって?」

「もしかしたら大物食いをしてくれるかもしれないからな。そもそも俺からしてみたら味方に情報を隠すのも気に入らない」

「剣術部が集めた情報なのだから当然だろう?」


 ……やはり、身内同士での争いが慢性化しているらしいな。そんな内ゲバなんてしているから優勝を逃すと思うのだが、これも大きい組織の宿命か。


「一致団結せずに世界を制す事が出来ると思うか? 俺達がこれから相手にする奴らはそんな甘い奴らなのか?」

「君の言いたいことはわかった。だけどそれなりのお返しはするよ」

「気にするな……この資料には『まだ』価値はない」

「まだ?」


 そう……これはまだ文書に過ぎない。これの価値を決めるのは他ならぬ俺達だ。


「……先輩方がどれほどの想いでこれを編纂したと思う? それは何のためだ? 命令されたから、仕事だから……勝利のために……そんな事はどうでもいい、重大なのは俺達が優勝出来なければこれは紙屑でしかなくなることだ」

「そんなことはないよ、こんなに頑張って……」

「その価値は誰が決める? この資料は俺達が優勝するために利用して始めて価値が生まれるんだよ。そしてその価値は優勝して始めて認められる」

「待て、……つまり、私達に情報を開示するのはお前達の優勝のため、ということだな?」


 ニーアが剣呑な表情で俺のことを睨みつける。どうやらいくばくかプライドを刺激したらしい。


「当然だろ。情報提供の理由は少しでもお前達の勝率を上げるためだ。身内の方が後々情報は集めやすいからな」

「一試合でも勝ち上がってくれた方が保険になるというわけだな?」

「ああ、一組でも多くの候補者達を倒してくれる事を願っている」


 この言葉を言い終わる前には、膨大な魔力が俺の目の前で放出されていた。これほどの魔力を温存しながら予選を勝ち抜いたとはな……存外こいつら、本当に絡んでくるかもな。


「まあまあニーア、試合外での決闘は禁止されているんだよ? それに彼は味方じゃないか」

「味方だと!? この男の言葉を聞いていなかったのか? お前と私を格下扱いしているんだぞ!」

「この人にはこの人なりの考えがあるんだから。一旦落ち着こう。ね?」

「う……お前がそこまで言うなら」


 この隼人という男が笑顔で話しかけるとニーアは顔を赤くしながらも反論するが、結局は隼人の説得に応じることになっていた。


「ふう、良かった。それじゃあ改めて、何かお礼になることを言ってくれないかな?」

「何度もいらないと言っているんだが、まあ報酬を払うことでお前が納得するなら貰うことにしよう。となると、知りたい情報を言ってもらうぞ、それに対して適当な対価を応えよう」

「フォルジュ・セルヴァンとその相方を」


 一瞬だがオリヴィエが反応を示した。まあ俺も驚いたが、優勝候補者だからな……知りたいのも当たり前か。


「このページだ。予選での活躍では書き換えも追加もないな」

「ありがとう。お礼の方は」

「こいつらはレアだぜ、報酬は高いぞ」

「わかっているよ」

「そうかい。じゃあ夕食を奢ってくれ。こいつらの分も」


 近くにいた全員が唖然とした。

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