連携プレー
「どうした? 今更怖気ついたか?」
試合が開始され、各々が武器を構えるが誰も攻撃せずににらみ合いが続いている。オリヴィエも挑発するがこの静寂を打ち破るにはいたらなかった。
「開始早々膠着してしまった!」
「何せ天蓋は武器を入れ替えているからな。オリヴィエの方も爆撃せずに仁王立ちのまま、これでは迂闊に攻撃できないだろう」
「しかしこれでオリヴィエ選手は一回戦での消耗が回復しきれていない、ということが確定しましたね」
「確かに試合開始直後にプロミネンス連発が常套手段でしたからね。一回戦での思いがけない苦戦が今になってボディーブローのように効いているのか!」
予想通り魔力を消費し過ぎているようだな。それならば無理をしなければいいものを。
「いっくわよー!」
とうとう痺れを切らしたのか、二人同時に攻撃を仕掛けてくる。どうやら相手の作戦はオリヴィエを集中的に狙うつもりらしい。弱っているほうから倒すのは定石どおりだな。
「我相手に余所見か」
俺はオリヴィエとの間に割って入り、大剣を振り下ろす。
「あぶなっ!」
「きゃあ!」
二人はそれぞれ別方向に飛び退きながらも体勢を立て直す。
「ふん、逃げ足はそれなりか……」
「まずはこっちから倒さないと駄目って事ね」
「違うな。友情パワーなど散り散りにすれば良いだけのこと……仲良く戦えると思うな」
俺はゆっくりと前進する。二人同時にオリヴィエを狙えば片方はたどり着くかもしれんがもう片方は確実に俺に倒される。さて……どう出てくる?
「一緒に行くわよ!」
「当然でしょ! 氷結弾!」
空中に魔法陣が描かれ、そこから氷の弾丸が発射された。それと同時に足元に別の魔法陣が描かれた。恐らく金髪の方が時間を稼ぎ、その間に別の魔法を確実に当てにいく作戦のようだな。
「そんな氷の粒で足止めされるか!」
氷の攻撃を一切無視しながらそのままの速度で歩き続ける。驚いたことに足元の魔法陣もそれに合わせてスライドしていってる。なかなか器用な真似が出来るらしいな。
「おお! 天蓋選手攻撃を避けない! 攻撃を受けるよりかわす方が労力だと言わんばかりの歩き方だー!」
「しかし凄まじい振り下ろし方だったな」
「そうですねー、鬼気迫る斬撃でした。何とか回避したとはいえあれは怖い!」
「しかし果敢に挑む姿にかげりは一切見せない! あの圧倒的な迫力の暗黒騎士の恐怖に打ち勝っている! 頑張れ! 観客は皆君達の味方だぞ!」
確かにさっきの一撃を紙一重で避け、体勢を立て直す身のこなしといい、生半可な動きではなかったな。流石にこの大会に出場するだけの事はある。
「それにしてもただ歩いているだけでいいのでしょうか?」
「ああ、的確に間合いを狭めている。下手にオリヴィエを狙いにいけば片方は間違いなく倒されるだろう」
「オリヴィエ選手を見捨てる作戦ですか!?」
「むしろ効率良く守っているな。相打ち覚悟でオリヴィエを攻撃しても残るのは天蓋……どう楽観的に考えても一対一の形になってしまう。そうなれば勝ち目は完全に絶たれる」
そう、二人で協力することが最善ではあるが、それだけでは俺には勝てない。それはつまり試合に勝てないということになる。つまりこの二人が狙わなければならないことは、いかにして俺の攻撃から掻い潜りオリヴィエに近づくかにかかっている。
「次はこれよ! 打ち抜け……凝結楔!」
俺の装備している鎧の間接部分に氷の楔が突如として発生した。確かにまともな奴ならこれで間接が固定されて身動き一つ出来ないだろうが、俺には関係の無いことだ。構わず氷を砕きながら歩を進める。
「止まらない! 天蓋選手スピードすら下がらない! ゆっくりとしかし確実に二人との間合いを縮めていく!」
「このまま障壁まで追い詰められたら万事休すだな」
「しかしあんな鈍重な動きなら普通に回りこめるんじゃないですか?」
「あるいはそうかも知れんが、一回戦でのあの男の動きを見ているはずだからな……安易な判断で動けないのだろう。もし予想以上に早く攻撃してきたら、と」
「そもそもオリヴィエ選手の前に移動したとき以上の速度は確実にあるわけですからね。あれも警戒せざるを得ない速度でしたね!」
そうだ、このままでは負けるだけ……いつ仕掛けてくる? そろそろ発破をかけるか。俺は剣を持っていない方の手を前にかざし、炎魔法を発射した。
「きょ、強烈! まるで魔法とはこういうものだという、恐ろしい火力の魔法を発動してみせたー!」
「あれだけの戦いをしておいて魔法まであのレベルかよ……本格的に弱点が見当たらないな」
「あの見た目で万能タイプとはな、初見の奴はまず騙されるだろう」
このまま手をこまねいているようなら、このまま焼き払うだけだが……黒髪の方の魔法が一向に発動して来ないのが気になるな。それほど強力な魔法を準備しているのか?
「……よし、準備万端よ!」
「それじゃあ早速始めるわよ」
「グランドスパイク!」
足元の魔法陣から無数の土で出来た槍が飛び出してくる。しかも足元の魔法陣が消滅していない。ということはつまり同時に二つの魔法を並行させて発動していたわけだ。道理で時間がかかる訳だな。
「まだ終わりじゃないわよ!」
上空から巨大な岩がなだれを打って落ちてくる。更に凍結魔法を掛け合わせ、俺を生き埋めにしながら氷漬けにするつもりらしい。
「やったか!? 天蓋選手の姿が見えなくなってしまったー!」
「……いや、どうやら動きを止めるには及ばないようだ」
「なんということだ! これほどの攻撃を行っても暗黒騎士は止まらない! 倒れない! これまでなのか!? 奴にはどんな攻撃も効かないのかー!」
これで少しは怖気つくか……と思っていたが、諦めるつもりは無いらしいな。
その後も土と氷の魔法攻撃を続けてきたが、さっきの策が通用しなかった以上無駄な足掻きだ。しかし彼女たちの連携は一層精彩を極め、観客達の中にも見とれている奴がいる。
「一体どれほどの修練を積めばこれだけの技が出来る?」
俺は観客達には聞こえない程度の小声で話しかけた。
「私たちの見せ場はこれで最後なのよ、最初で最後……だから、だから一秒でも長く戦ってみせる!」
そういえば、一回戦では見せ場は作れなかったようだったな。
「そのためなら……どんな結果に終わっても構わないというのか?」
「当然でしょ! そんなことは最初から決めてた!」
「そうよ! きっとどう頑張ってもあなたには勝てない、だっらせめて、技を全部出し切って戦いたい!」
これか……良くわかった、何故俺を恐れないのか、『そんな暇はない』のだな。
「ふん、少しはマシな攻撃をしてくると思ったが……それが友情パワーとでもいうつもりか? だとしたら、そんなもののために無駄に苦痛を味わおうとはな。諦めろ、貴様では我には勝てん」
せっかく演じたんだ、最後まで演じてやろうじゃないか、お前たちの技が尽き果てるまで。
「そんなものじゃない! 私たち二人の力は」
「黙れ、……いや、いいだろう。そこまで言うならば諦めがつくように我が剣技を味あわせてやろう。わかりやすく貴様らの実力というものを教えてやる」
「来るわよ、奴の本気の攻撃が!」
俺は剣に魔力を込め刀身を伸ばし、宙に浮いている氷や土のオブジェクトを叩き斬った。
以前倒した殺人鬼のような切れ味はとてもではないが出せないとはいえ、粉々に砕くには十分だな。
「これはどういうことだ!? 天蓋選手、まさか斬撃を飛ばしたのか!」
「いや、あれは魔力で刃を作り上げ、リーチを伸ばしているんだ。あんな器用な事も出来るのか……」
本来ならばこんな事は出来ない。私物の剣では……という意味だが。練習中に剣がへし折れ、学園に置いてあった剣から借り受けた物でなければこんな芸当は不可能だ。この剣ならば魔力との適性が高いようだからな。
「完全にパワータイプの見た目しといて魔法剣士とか反則だろー」
「あのイロモノコンビ、一芸特化に見えて万能タイプのようだな」
「あの二人明らかに一つの戦術を極めてそれで戦い続ける顔してるのにコロコロ戦術変えてくるからなー。観客達は裏切られた気分なんだよなー」
相変わらず好き放題言ってくれる解説者たちだ。
しかし、一応会場は盛り上がっているようだな。まあ、これほど多彩な連携を見せながら戦い続けているのだから当然か……出来ればこういう試合は観戦する方が好きなんだがな。




