最初の授業
「よし、全員席についたな」
先生がHRに全員出席していることを確認する。
とりあえず俺たちは学籍番号順に席に座っており、そのため席の並びは男女交互というわけではない。ちなみに俺が座っている場所は、暫定的な段階だが、教卓の前の一番前。正確には中央やや右側の一番前である。
「じゃあ、取りあえずくじで席をシャッフルするぞ」
先生の発言により、早速席替えが始まる。一番後ろの席がいいな、なんて考えながらくじを引くと、C-5と書かれた紙を引いた。右から三番目、後ろから二番目の位置だ。そこそこの結果といえるだろう。
俺と同じクラス、つまり武術科一組に知り合いは今のところカルラとオリヴィエがいる。カルラは窓際の一番前、オリヴィエは俺の前にいる。
「よし、終わったな。次は自己紹介だ。A-1を引いたやつから始めろ。」
全員が自己紹介を始める。一部の連中は自己紹介が終わった瞬間、ほかの生徒からの質問責めに遭っていたが、先生が休み時間に聞けと生徒を一喝。なんとそのお叱りの声に女子生徒から歓声の声が出る。女が女にキャーキャー言うあたり相当凄い経歴なのだろう。当の先生はその結果に頭を抱えているが。
俺も適当に自己紹介をする。反応はそこそこだった。まあ、俺の直前が名門貴族の令嬢なのだから当然か。それからこのクラス40人編成で男18人、女22人の比率だが、貴族だとかなんだとか上位階級が28人いるようだ。裕福な家庭ならば英才教育というやつができるからだろうか。
最後に先生が自己紹介した。シュネー・クライン……年齢は言わなかったが独身のようだな。ここの卒業生だそうだ。
「では、HRの最後にこれだけは言っておく。諸君らはここロレット学園の入試で上位の成績を出した言わばエリートだ。しかし、現時点では比較的才能のある生徒という見方しか成されていない! 来年の組み分けに選ばれない者もいるだろう。とはいえ諸君等の才能、磨くも腐らせるのも諸君等の自由だ。有意義な学園生活を送ることを心より願っている」
いきなりシビアな発言だが、これは先生の性格というよりも名門校としての自負、品位のための言葉なのだろう。確かにこういうことは後で言われても困るからな。
このプレッシャーに耐えられないなら上を目指すなど夢のまた夢ということか。
「これにてHRは終わりだ。最初の授業は魔法訓練、訓練場へ集合するように」
とうとう授業が始まる。期待を胸に俺は訓練場へと向かう。
◆◆◆◆◆
訓練場へ着いた。
「では、これより魔法の基礎訓練を行う」
先生の言葉に男子生徒が苦笑する。
「先生、俺たちはエリートなのでしょう? ならばもっと実践的な訓練をすべきなのでは?」
「ほう、実戦がお望みか。良いだろう、構えろ」
その言葉の直後、強烈なストレートが馬鹿の顔面にクリーンヒットした。右か。
「グベッ」
馬鹿の、名前はマクシミリアンとか言ってたか? そいつは高速で空中を回転した。
「とまぁ、基礎を怠る者はこのような油断を招く。理解したな?」
いや先生、そいつ聞こえてませんよ。完全に意識が飛んでます。
そもそも、基礎練で防げるようになるのか?あれ。
「あー、先生? そいつ保健室まで運んでおきましょうか」
「む、悪いな」
俺はのびてる男を肩に担ぐと、保健室まで歩いて行った。
その後、再び戻って来ると先生を含めた少数の生徒が他の生徒に魔法を教えている。という状況にでくわす。どういうことなのか聞くと、より魔法の成績の良い者が他の生徒に教えているらしい。
「ただいま戻りました」
「ご苦労だった。確かお前は炎属性が得意だったか? 自信がなければカルラかオリヴィエに教えてもらえ。それで駄目なら私の所に来い」
なんで俺の属性を知っているんだ。まさか、全員の入試の結果を覚えているのか? 凄い記憶力だな。
「そこの的使っていいか?」
「ああ、構わんよ」
俺は的の前に立ち、魔導書を開く。
「なんだ、お前魔導書なしじゃ魔法使えないのか?」
「繊細な制御が難しいんだよ。いきなりぼや騒ぎ起こす訳にもいかないだろ」
「ははは、そんな見た目してるは」
こいつ初対面なのに言いたい放題だな。
俺は魔導書に目を通す。なになに、マナを集中させて放ちましょう。魔法にはイメージが重要です。可能な限り、具体的に正確にイメージする事が上達のコツです。魔法は心の中で唱えましょう。
なるほどな。じゃあ、適当に身近にある炎を思い出そう。地獄道の業火……名前はなんだっけ? 焦熱地獄大焼処だったと思う。多分。あの場所の光景を思い出す。よし、イメージは完璧だな。
後は、マナを解き放ち、唱える!
「ファイヤーボール!」
手のひらから火の玉が飛び出し、的を焼き尽くす。火力はなかなかのものだが、なんかイメージと違う。なんで放物線を描いて飛ぶんだよ、真っ直ぐ飛べよ。
なんかいけると思ったが貰ったほうが良いな、アドバイス。
「ナ、ナパーム弾かよ、どういうイメージしたらそうなるんだ」
だって炎って爆発みたいなものだろう?
爆発? 爆発だと……。まさか、さっきのデュエルが潜在的に脳裏に焼き付いてしまっているのか?
確かにあれはかなりのインパクトだった。
うーむ、困った。
「ふん、貴様にしては要領が悪いな」
オリヴィエ、見ていたのか。
「マナを固め過ぎだ。塊を投げ飛ばすのではなくレーザーを照射するイメージで放て」
え? そういうイメージなの? とりあえず言われた通りのイメージで試してみる。
意外と真っ直ぐ飛んだ。すげえ。
「これぐらいは当然か」
「ああ、わざわざ悪いな、アドバイス」
「気にするな。……おい。何故私と目を合わせない」
「……」
いや、無理だろ。あんなことがあったばかりだぞ? 意識しないほうがおかしい。
「まあいいか、今友人の数はお互いにゼロ。つまり私と貴様は対等」
なんで勝ち誇っている。そもそも、対等か、それ?
そろそろ授業も終わる。成績はまあまあか。




