次の衣装
「ところで次の試合までどうするつもりだ?」
「特に予定はないな。ここで観戦すると思うぞ」
「そうか」
「いや、それは困る」
突然オリヴィエから止められた。ずっとここにいると何か不都合があるのだろうか?
「どうした、何か外せない予定でもあるのか?」
「何を言っている、ここでは着替えられないだろう」
「二回戦も着替えるのか」
「当然だ。私が何着用意したと思っている」
マジかよ……これからもあれを着なくちゃならないのか。
「あの、まさかああいうのが他にもあるんですか?」
「ああ、たくさんある」
「信じられませんね……またあの衣装を着るんですか?」
あの死神と喪服か。
「それは不可能だ。こいつは仮面が壊れてしまったし、私もヒールが壊れてしまった」
「仮面はともかく、靴の方は他の衣装で使うものから持ってくればいいんじゃないのか」
「それは駄目だ。他は金具が使われているからな」
確かにそれじゃ喪服には適さないな、別に冠婚葬祭に出席する訳じゃないが。
「はい? あの衣装がたくさんあるのですよね?」
「誰がそんな事言った? あれはこいつが大鎌を装備するとき専用の衣装だ」
「他にも武器を扱えるんですね。……まさか武器毎に衣装が違うんてすか!?」
「その通りだ」
正直武器を替える度に着替えている奴なんていないよな。
「予備の衣装がないならもう鎌を装備して出場できないではありませんか。何故そんな事も想定出来ないのですか? あなたのその頭には一体何が詰まっているのですか」
え? ちょっと待って、なんで衣装が損失したらもうその武器で出場出来ないの? いいだろ制服で。
「何を言っているんだ、せっかくたくさん用意したのだから別の物を着るに決まっているだろう」
お前が何を言っているんだ? なんでわざわざ武器をコロコロ替える必要があるんだ。
「なるほど、一度使用した武器はもう使わないことで相手からの対策を封じる戦略ですか。確かにあの鎌捌きと同等の練度で他の武器を扱えるならば、対策のための負担を相手により多く強いらせる事が出来ますね」
いや、そうかもしれないが、だとしてももっと出し惜しみしたほうが戦略的に有利だろ。
「その通りだ。というわけで、こいつは私と次の衣装を決めるために話し合いをしなければならないわけだ」
そこはせめて武器を決めるために、とかそういう言い方をしろよ。なんで衣装ありきで話し合いしなきゃならないんだ。
「次の試合はどんな衣装で行くんですか?」
「僕も気になる!」
お前ら他人事だからって軽く聞きやがって。
「やはり私としては大鎌を持った死神ときたから、次は重厚な鎧を装備して貰いたいところだな。となると大剣か槍だな」
だから衣装ありきで話を進めるな!
「ちょっと待てオリヴィエ」
「なんだ? 勿論貴様の意見も尊重するぞ」
「その、どんな衣装で出場するのか? っていう前提で話を進めるな。これから戦いに行くんだぞ? 武器とか戦術の話をしろ」
「何を言う! 戦場では見た目も重要だろう! あえて目立つ格好で戦場に赴き、一騎当千の活躍をする! それでこそ戦果が認められるのだからな」
そういえば戦場で名をあげた一族だったな。こいつの家系って。
「わかった。見た目が重要なのはわかった。そういうところは任せる。ただ個人的な意見をいわせてもらうと槍での出場は控えたい。貴重な物だからあまり使いたくないんだ」
「そうだったか。ならば次は大剣だな。あれの装着には多少時間が掛かる、早めに控え室へ向かったほうが良いな」
先が思いやられるな……とはいえ、一番着替えるのが面倒な鎧を一度装着すればそれ以上着替える必要が無いのは幸いだな。
「やむを得ん、さっさと控え室に戻るぞ」
「ああ、どれくらい動けるか確かめておく必要もあるからな」
「試合に重篤な不利益が生じるようなら制服で出場するからな」
「安心しろ、貴様ならば特に支障は出まい」
調子の良いことばかり言う奴だ。
「本戦への出場が決定すればインタビューが大勢襲いかかってくるからな……覚悟しておけよ」
「じゃあ身軽な格好の方が良いんじゃないのか?」
「なあに、少しばかり凄んでやれば退散してくれるさ」
悪役街道まっしぐらだな。まあ俺にはお似合いの道か。




