次の対戦相手
「それで? 次の相手はどんな奴らなんだ?」
水晶をのぞき込むと、二人の少女が勝利したのがわかる。
「この二人よ。完全に無名の選手が勝ち上がったから騒然としてるわね」
「棄権したと言ってたが、どういう試合運びだったんだ?」
「彼女たち二人の攻撃をひたすら避けたり捌き続けて終始優勢だったんだけど、一発攻撃を受けたらそのまま棄権しちゃったのよ。彼らが言うにはこの程度の実力では上に勝ち上がっても恥をさらすだけ、第一女性に危害を加えることは出来ない。とも言ってたわよ」
「まさか騎士っていうのは女性チームと一切戦わずに優勝出来るとでも思って出場しているのか?」
だとしたら騎士学校の連中はとんでもないバカとしか表現できないな。
「そういう時は降参するように優しく諭すらしいわよ」
諭されたくらいで降参するなら苦労しないだろ。そもそもそんな覚悟で出場している奴らがどれくらいいるというんだ。
「棄権する前に観客達に実力では勝っていたと証明してから勝ちを譲るあたり、プライドの高さが隠れていないな」
「棄権した二人の方が高く評価されているのも不愉快ですね。まるで彼女たち二人の方が先に棄権するべきだったという言い方に聞こえます」
「あれ? あなた達二人って仲悪そうな感じだったけど、実はそうでもないの?」
エリーがオリヴィエとスタンレイに質問した。確かに試合前と比べるとお互いに丸くなった印象を受ける。
「仲が良いとは言えませんが、試合が終わるまでは少し辛辣な物言いをしてしまったためにそのような印象を受けたのでしょう、だからと言って仲が良い訳でもありません。今回は意見が一致しているだけです」
「その通りだ。そんな事よりあの二人はどういう戦い方をする?」
確かにそれは気になるな。時間もあるし多少は対策を練ることができそうだ。
「女学園の生徒だけあって、ド派手な技や魔法を多用する傾向にあるわね」
「女学園には派手好きが多いのか?」
「それもあるとは思うけど、それ以上に知名度向上のためね。女学園の卒業生って舞台女優とか歌姫が多いし、こういうところで目立つと後々有利なのよ」
「もっとも彼女たちは引き立て役みたいだけどね」
突然ナタクが話しかけてきた。
「引き立て役? 誰の?」
「勿論女学園側が売り出したいコンビの」
「何故そんな事が?」
「例えば三人の女性が映っているポスターがあるとするだろう? その三人はどういう風に並んでいるか知っているかい?」
実際に思い浮かべてみる。
「目立つ奴は真ん中にいますね」
「それだけじゃない、センターから見て左側、つまりポスターの右側にはセンターを食わない程度の、万人受けしやすい人がいるようになっている。そして残った一人は素人と比較して可愛いぐらいの人が並ぶことになっているんだ。集団心理学とかそういう根拠があってその並び方が確立されているわけだね」
そういう大人の事情があるのか。
「あの二人は素人と比較されるレベルってことですか?」
「事実自分より格上の相手と戦わされただろう? つまり女性チームの実力を提示することで観客達のハードルを調整したわけだ。それを越えることで他のチームが一際映える訳だね」
わかりやすく一般人レベルがどれ位なのかをを観客に教えてから、本命に活躍させるのか。
……ということは女学園と運営って相当つながり強いことになるな。そんな試合を調整する事ができるわけだからな。闇深すぎだろ。
「要するにあの二人は捨て石か」
「年に四回ある大会でわざわざ人気を食い合う必要はありませんからね。残念ながら一回戦敗退が彼女たちの商品価値ということだよ」
「充分可愛いと思うんですが、そう甘い世界ではないようですね」
ああいう世界については全く知識が無いからな……俺には想像もつかない競争があるのだろうな。
「あ、好みのタイプだった?」
「好みというか」
「ああいうのが好みなんですか!?」
「あれですよ!? あの、ああいう世界は、私もよくわかりませんけどきっとドロドロしてたりしてアレなんですよ!」
ものすごいぐらい食いついてきたな……俺が誰を応援しても俺の自由だろう。
「タイプとか関係ないだろ」
「でも今可愛いって言ったじゃないですか!」
「なんで可愛いって言ったくらいでそこまでいわれなきゃならないんだよ」
「可愛いなんてそんな言葉聞いたことありませんよ!」
ないことはないだろ。多分どこかで言ったと思うが。
「いやいや、そんなバカな」
「確かにお前からそんな言葉聞いたことないな」
「俺も一度も聞いたことありませんね」
「……一度も聞いたことない?」
「はい」
「え? そうだっけ、あれ?」
そういえば言ったことないかもしれない。
「お兄様、これはどういう事ですか!?」
「どういう事も何も、頑張っている女の子とかその時点で可愛いし、応援したくなるだろ普通」
「それは認めるけど数多くいる中からあの二人を選んだわけじゃん?」
そういう解釈の仕方をするか。
「だって可哀想だろ、試合に勝ったって事は次俺達と戦うんだぞ?」
「そもそも本当に騎士道精神あるなら勝つべきですよね。その場限りの浅はかな正義感のために死地へ向かわされるなんてあの二人からしてみたら不幸ですよ」
「……俺と戦うのってそんな扱いなのか?」
「今までのデュエルを思い返してみろ。はっきり言うが貴様からは優しさの欠片も感じられないぞ」
いや、あれは勝ちを取り逃がさぬように動いた結果だから。
「別にいいんじゃない? そういう選手って結構多いし」
「結局誰かに勝つということは誰かを蹴落としている訳だからな」




