決着
「そ、そんな……まさか」
「いかに優れた武器を持っているとはいっても、それを使いこなせなければさほど脅威ではない。要するに攻撃させなければただの棒切れだからな」
それだけに残念だよ。もしお前の持つ国宝とやらがお前に向いた武器ならばもっと楽しい戦いが出来ただろうに。
「私がこの武器を使いこなしていないと!?」
「自覚あるだろ? そもそもこの試合条件で遠距離魔法中心、これ自体は有りだが、味方が壁にならない時点で他の戦術に切り替えるべきだっただろ。それにお前なんで近距離型なのにわざわざ遠距離魔法主体で戦ったんだ?」
そもそもあの男を盾代わりにしなければ遠距離戦闘なんて維持できないし、するべきでもない。
「!? 何故それを!? 私が近接戦闘をした記録などあるはずが」
「確かに俺が持ってる資料にはお前が近距離型という事実は無い。だが現実問題としてお前は俺の鎌の間合いを見切っていただろう。あれは紙一重の間合いを奪い合わなければ身に付かないセンスだ。それほどの才を持ちながら近接戦を行ったことがないなどありえない」
スタンレイは非常に驚いた様子だったが俺の言葉を聞いて、ようやく観念したように答えた。
「……あなたの言うとおり、私は以前までは双剣を振るっていました」
双剣か……その剣捌きを是非とも味わいたかったが、俺がそんなことを願っても仕方の無い話だな。
「だろうな、少なくともこの距離での戦いではお前はオリヴィエに比べて明らかに劣っている」
「……その理由をお聞きかせくださいませんか」
悔しさを滲み出すように杖を強く握り締めている。やはり面と向かって言われるのは堪えるようだな。
「平均と比較してどうかは知らんが、魔法の発動速度、そして精度、この二つが話にならない。少なくともノーモーションで即時、しかも敵の目の前に直接発動してくるオリヴィエと比べて、だがな」
「なるほど、彼女と比べられたら確かに私は凡人でしょうね」
「何故だ? 何故近距離に拘らなかった? お前ならばもっと」
「そんなことは私に勝ってからお聞きください。それとも、もう勝ったつもりですか?」
まだ諦めずに戦うか……しかし、その通りだ。
ふ、俺の方が勝負に純粋になっていないとはな。
「まさか、ジャッジの宣言がないのだから決着はまだだ。……そうだな、試合中に無駄話ばかり……恥ずべきことだな」
「行きますよ。杖術の方も得意ですので、油断なさらないようお願いします」
「やっと俺相手に勝ち筋が見えてきたな。まあ、蜘蛛の糸より細いが」
「手繰り寄せるには十分な太さです」
ああ、それで良い。それぐらいの気概が無ければ俺の相手はつとまらんよ。
「決着をつけようか」
そう言いながらスタンレイとの距離を詰め、攻撃を仕掛けると、スタンレイは更に分身体を出現させて足止めを狙う。
「流石の腕ですね。これほどの物量作戦に対して真っ向から受けて立ち、しかも私を押し始めている」
「どうやら分身を出現させる量よりも俺が分身を処理する量の方が多いらしいな……いずれ本体を倒す時が訪れるな」
このペースなら二分以内に本体一人にできるな。それまで一撃も本物に当たらなければ。
「その前に、あなたにダメージを与えれば良いだけのことです」
不意に一筋の光線が俺の喉に直撃した。この角度から攻撃が来るとはおかしい。しかし、その答えはすぐに理解できた。なぜなら、俺が攻撃していない個体の胴体に穴が空いていて、その直後に消滅したからだ。
つまり、俺を分身ごと巻き込む形で攻撃し続けるつもりらしい。
「自ら分身を減らすとはな!」
「大した防御力ですね。ですが、まだまだ続けますよ」
この後も分身を巻き込みながらのレーザー攻撃が続いた。
「この程度の木洩れ日ごときで、この俺を倒せるとでも思っているのか!」
「いいえ、まったく。動きを確認しているだけです」
「面白い……やれるものならやってみろ!」
確認だと? このわずかな時間で俺の鎌捌きを見抜くとでもいうのか?
「見切った!」
「甘い!」
俺が鎌を振り払った瞬間を狙いすまして背後から攻撃がくるが、俺は素早く体を回転させ、鎌の軌道を調整させて逆に袈裟斬りにした。
しかし、その袈裟斬りにしたスタンレイは消滅しなかった。それどころか鎌の柄を掴み取り、そのまま分身に攻撃させてきたのだ。
「……はあ、……はあ」
「その出血、長くは保たんぞ?」
「間に合わせますよ。私の意識があるうちに、必ずあなたを!」
鋭い一撃が顔面に直撃する。流石に国宝というだけあって、一撃で俺の仮面を叩き割った。
「どう考えてもダメージはお前の方が大きいぞ」
「離しはしませんよ、絶対に……」
「分身もどんどん減っていってるぞ」
「まだ……です。まだ……勝負は……。……」
良い覚悟だ。だが、これ以上は危険だな。
俺は鎌から手を離し、スタンレイの鳩尾に拳をを当てる。
「……審判、宣言を」
力なくうなだれていくスタンレイを見つめながら、審判に話しかける。




