予選開始
「さあ! とうとうこの日がやって来ました! 風霊祭の予選第一回戦の始まりです! 実況は私ロレット学園放送委員会委員長メイ・ウッドヴィル! 解説はチャペル学園騎士道部三年兼王宮騎士隊指南役アリシア・クロスフィードさんと、前年度風霊祭三年の部の覇者ディートヘルム・ドレヴァンツさんです!」
「どうも、よろしくお願いします!」
「よろしく。……ところで風霊祭はシルフ・グロリアと呼ぶのが正式なのよ?」
「それはわかってるんですが、言いづらくありません?」
「最初ぐらいはしっかりしなさいよ。以降このように誇称しますって言えば良いんだから」
とうとう予選の始まりだな。後すこししたら入場だ。
「いやー相変わらずの盛況振りですねー!」
「なにせ今年も話題の選手が大勢いますからね!」
「お二人は今年の覇者は誰になると思いますか!?」
「やはりシャルル・ド・オルレアン、そしてフォルジュ・セルヴァンの二人だろうな。あの二人は別格だ」
この国の王宮騎士がそこまで言うとは本当にすごい選手なのだろうな。
「王宮騎士が自国の選手を応援しないんですか? 俺はチャペルのロミルダ・エーレンベルクのいるチームが勝つと思いますよ」
「なるほど! では私はおそらくこの国で今一番話題の選手を応援しましょう!」
「面白い選手を選びましたねー、去年はチャペル学園、アンティキティラ魔工学院、そしてコスタリカ騎士学校がそれぞれ別の学年で優勝するという結果になりましたからね。今年はどこが優勝するのか、ひとつの学校が同時優勝することはあるのか、一つだけ言えることは今年の風霊祭は間違いなく荒れるだろうということです!」
「それはやはり優勝宣言をした男の活躍ですよね!? 彼はやってくれると思いますよ!」
俺のことか。
「その通り! もし彼が優勝したらとんでもないことですよ!」
「しかし、そんな派手なことをしたらほかの選手から徹底的な妨害にあうだろう」
「むしろすでに運営から潰しが行われているみたいですよ。なにせAブロック最初の試合はその話題の彼がトリリトン校のフィリパ選手とぶつかると言ういきなりのビッグカードですからね」
「王宮騎士隊としてはあの男にはさっさと退場して欲しいものだがな」
流石に嫌われてるな。だからこそ挑戦しがいがあるというものだが。
「いやはや奇遇ですね。俺も彼には初戦で敗退して欲しいと思っているんですよ! やはり俺と貴女は気が合うんじゃないでしょうか!?」
いきなり解説者を口説くなよ。
「この国の者なら当然だ! 国王陛下の眼前で優勝すると言い放ったんだぞ!? これで本当に優勝されればいい笑いものではないか!?」
「いやいや、私は彼を見たことがありますがその実力は本物ですよ! ひょっとしたらひょっとするかも……」
「ははは、それもすぐにわかりますよ。本物の実力者なのか、それとも化けの皮がはがれるのか」
化けの皮ははがされたくないな。
「それでは選手入場です! 本日の第一回戦はいきなり注目の選手! 国王陛下に優勝宣言した男、その正体は最強の戦士か売名狙いの悪徳詐欺師か!? 素良天蓋選手! そしてその相方はなんとジュニア大会優勝の常連、爆撃姫の異名を持つ、オリヴィエ・ヴィンクラー選手だ! これはすごいコンビです!」
「まさかあの女とタッグを組むとはな」
「相乗効果でブーイングがひどいですね」
解説の人の言うとおり物凄いブーイングに包まれている。
「オリヴィエ、お前も相当嫌われているらしいな。何したんだ?」
「ふん、弱者の嫉妬に過ぎん。私は事実を言ってきただけだ」
なるほど、嫌われるわけだ。
「嫌われ者同士のコンビか、だったらせっかくだ。最後まで悪役に徹してやろうじゃないか」
「フ、忌み嫌われし漆黒の衣を纏う鴉……悪くない響きだ。名前をつけるとしたらクロウ……いや、ドッペルクレーエか」
別にコンビ名は何でもいいんだがな。それはさておき二人で入場する。
「あーっとこれは凄い! この状況でなんと天蓋選手、死神です! 鎌を持った死神の衣装で登場だー! これはまさに相手をあの世へ送るぞとの挑発! そしてそれを偲ぶ喪服! 試合前から魅せます!」
これそういう意味だったのか。
「こういうなめた格好で来るような奴らだぞ? これは是が非でも優勝を阻止せねばなるまい」
「そして対するはこの二人! 決して触れられぬ虚像の美少女! 幻蝶のフィリパ・スタンレイ! そして我こそが真の最強戦士、今大会最大最重の重戦車! ゼノバ・シュトラウス選手の入場です!」
フィールドの向こう側から大柄な男とやや長身の女性が現れた。この男本当に一年生か? いくらなんでも貫禄がありすぎるだろう。
「おーっと、こちらのコンビはテーマを合わせてきた天蓋、オリヴィエ選手とは打って変わって無骨な装備のゼノバ選手とフリルが可憐な愛くるしい衣装のフィリパ選手。それぞれが我が道を行くファッションセンス! 試合でも自分らしさを出しきれるかが注目か!? 凄い声援で迎えられながら登場だー!」
「実に対照的な組み合わせですね。あえて表現するなら光と闇、正義と悪、そして衣装もテーマを追求してきた二人とあくまでもそれぞれの持ち味を活かす装備、これは実力前評判抜きに面白いカードです!」
「ではでは試合の前にお互いの予想を言い合いましょう! 私は当然天蓋選手と予想しますが、お二人はどうですか!?」
そういうコーナーが一々行われるのか。実況の人たちも大変だな。
「見た目やパフォーマンスで実力が上がるわけでもなし、やはりフィリパには触れられずに決するだろう」
「俺も同意見ですね。ゼノバ選手ならばオリヴィエ選手の必殺技プロミネンスも耐え切れるでしょうし、フィリパ選手も回避できるでしょう。天才と言うものは一度折れてしまうと案外脆いもの。この勝負はきついと思いますよ」
「なるほど、観客の皆様はどうでしょうか!? それでは次にジャッジ……おや!? ゼノバ選手が天蓋選手に近づいたぞ!?」
近くで見ると本当に巨大な男だ。それにしても俺たちに何のようだ?
「ほう、優勝宣言したからにはどんな男かと思ったが、随分とひょろい死神だな」
「ひょろい? 死神の中では肉の塊だと自負してますがね」
「ゼノバ選手の挑発を死神流のジョークでなんなく返した! ここから天蓋選手、どうあおり返す!?」
数少ない応援してくれる人からの期待だ、応えねばなるまい。
しかし俺が声を出す前にもう一人の相手がしゃべり始めた。
「まさかこんな所で会えるなんて、驚いたわ……オリヴィエ」
「私の実力ならば当然だろう」
「実力は認めてあげてもいいけど、友達いないくせにタッグって……勝てるとでも思ってるの?」
「今までの私はただ孤高だっただけだ。勘違いするな……こいつと出会って仲間を持つのも楽しさがあると気づいただけだ」
いや、お前カルラに話しかけるとき緊張してただろ。
「ふん! この俺様とフィリパが組んだ以上勝利は必然! それでは可哀想だからな……貴様等にも勝利の可能性を与えてやろう。俺様は一分間この場から動かず攻撃もしないでやる」
「で、出たー! 風霊祭一年生の部の風物詩、舐めプ! 最初の国際大会だけあってその意味は大きい! 勝てば非常にカッコイいが負けたら惨め! 世間の笑われ者、いや、先輩からの制裁が必至!」
舐めプって……盛り上がるところか? 縛りプレイという認識になるのか。
「いやー、面白いことになりましたね。こちとらこれが楽しみで毎年観戦してるんですよ」
「去年は三年生も舐めプしたんですよね!」
「まあ優勝したのは俺なんですけどね」
「確かあの時やらかしてくれたのはロレット学園の剣術部でしたよね?」
うちのOBかよ!? 毎年毎年どんだけ問題起こしてんだ!
「あなた達はなんなんです? 当然の事のように騒ぎを起こして……いっそ廃部にしたらどうです?」
「フィリパの言うとおりだな! 無名選手が優勝など出来るわけがないのだから粋がらなければいいものを」
「二度目よ。力しか取り柄がないくせに気安く名前を呼ばないでもらえますか」
この二人そんなに仲良く無さそうだな。
「だ、だがタッグを組んでいるのに姓で呼び合うなんて」
「いつ私があなたのような木偶の坊を対等だと認めましたか? 黙って戦えばいいものをハンデなどとくだらないことを話す暇があるなら、少しでも私の邪魔にならないよう努力するべきでしょう」
「わ、わかった。すまないスタンレイ」
こいつは見た目の割に女に強くでられないタイプか。こういう奴に限って男にはやたら高圧的になるんだよな。
「ですが、格の違いを教える必要もありますし、不本意とは言え一度口にしたことを反故にするのも私の意に反すること。私も一分間だけ攻撃は慎むことにしましょう」
「やはりハンデは必要だろうからな!」
「勘違いなさらないでくださいませんか? あなたの愚かな言動の為に、学校の名声にまで傷がついてしまわないようにしただけです」
理由はどうあれ攻撃してこないとはな。普通なら罠だと考えるところだか、そういう策略を巡らすようにも見えない。本気で俺達の攻撃を凌ぎきるつもりか。
「そっちが一分なら、こっちは三分程動かずにいてやろうか?」
「お前は動かなくても移動砲台から固定砲台になるだけだろうが。ハンデになるか、そんなもの」
「さあ、話し合いも一区切りついたところで、改めてジャッジの入場です!」
「国際ルールなのでジャッジは主審一人に副審二人となります。勝利条件は相手二人の降参、戦闘不能、続行不可能と判断されるほどのダメージを与えること。他にも重篤な反則行為も失格となります!」
三人の黒いスーツを着た男が入場してくる。その後障壁が張られた。後はジャッジがデュエル開始の宣言をするだけだな。
俺は背中に取り付けてあるデスサイズを手にとり構える。
「は! 随分と質素な鎌だな。それじゃただの農機具じゃねーか!」
「死の象徴に飾りなんて必要ないでしょう」
「その通りだ。絢爛豪華な死神の鎌など不謹慎だろう」
俺の使っているデスサイズは真っ直ぐな木の棒に金属の刃を取り付けただけの単純な構造になっている。そもそも死神にとって鎌は収穫するための器具。そのデザインはシンプルな物ほど好まれる。手入れが楽になるためだ。
稀に派手な物を使っている歌舞伎者もいるが。
「ははは! そんな木の棒なんて一撃でへし折ってやるぜ」
「一分以上死神仕込みの鎌捌きから逃げられればな」
「いつまで無駄話をするつもりですか? 早くデュエルを始めましょう」
確かにその通りだな。俺達が始めないことには他のブロックでも始めることができないわけだからな。
ジャッジからの宣言によっていよいよ試合開始となった。




