呼び出し
「何ですか? 至急来るようにという放送だったので急いで来ましたが」
先ほどの放送を受けて剣術部の部室へと移動した俺とオリヴィエ。そこで待ち受けていたのは重苦しい雰囲気の生徒達と教師数名だった。
「よく来てくれたわね。風霊祭へ出場するのに必要な手続きをしてもらうために貴方達を呼んだのよ。だからその前に入部届を書いて提出してちょうだい」
俺達を呼び出した理由を簡潔に説明して貰った。手続きが必要なのはわかるがその前に入部届の提出を要求してくるあたりがなんともクラウディア先輩らしい。
「そうしたいのはやまやまですが生憎その肝心の入部届を持っていないんですよ」
「そんなこともあろうかとこちらで用意しておいたわ。これにサインしてくれれば問題なく入部が認められるわよ」
それは随分と用意の良い話だ。
「ありがとうございます。オリヴィエ、ちゃんと入部届の用紙を確認しろよ? 万が一すかしが入っていて退部不可能な条文が書いてあったら先輩が得するからな」
「しないわよそんなこと」
そうは言ってもこの人の場合安心は出来ない。
「この入部届って提出したあと書き加えられる可能性もありますよね? それもしないと誓えますか?」
「だからそんなことしないわよ! と言うより出来ないわよ! 入部届を受理するのは顧問の先生なんだから」
「ちなみに顧問は私だ」
クライン先生が剣術部の顧問だったのか……全然気づかなかったな。
「じゃあ名前を記入しますね」
入部届に名前を書いて先生に提出した。
「間違いなく預かった。それでは次に風霊祭の出場手続きを済ませよう。この書類の必要事項全てに記入してくれ」
「いまさらですけど、本当に俺達が出場していいんですかね?」
「本当にいまさらだな。だが安心しろ、これはあくまでも書類の応募に過ぎない。この中から一学年につき三組を教員会議で選出して初めて正式に風霊祭への出場が決定する」
三組も選ばれるのか。
「三組? 今年もそれだけ枠が取れましたか」
「ああ、なんだかんだで優勝は逃しているが上位には食い込んでいるからな」
「もしかして前年の成績いかんによって何組出られるか変化するんですか?」
「それぞれの学校で生徒の絶対数が違うからな。とは言っても一枠だけの学校より十倍以上の規模だから倍率自体は相当低いがな」
十倍以上差が広がってるのか。流石に貴族達が寄付しまくっているだけのことはあるな。
「まあ重要なのは俺達が選出されるかどうかですからね」
「実力面から考えれば申し分ないが……それにこの期に及んでお前を出場させないというわけにもいかないだろう。少なくともお前の実力は相当な人数が把握しているはずだからな」
「だから選ばれなかったらどうしよう、とか考える必要はないわね。そもそも文句があるなら貴方達とデュエルでけりを付けるように伝えてあるから、まあ大丈夫だと思うわよ」
それなら大会までは心配はないか。
「わかりました。それではこれを提出すればもう用はありませんね?」
「ええ、寮に戻っても二人で打ち合わせしても問題ないわ。それからライバル校のデータなら資料室にあるから何か調べたかったら私か先生が付き添うわよ」
「ありがとうございます」
一言礼を言うと紙を提出後そのまま部屋を退出した。
「おい、敵の情報は集めなくても良いのか?」
「今はそれよりも連携プレーを確認するほうを優先すべきだな。連携が拙ければ思いがけない不利に見舞われる可能性がある」
「それならアリーナに向かうか?」
「いや、とりあえずカルラ達と合流しよう。あいつらがいたほうが色々と助かるからな」
そういうわけでもう一度弓道部の部室へと移動することにした。
部室へ向かうとウィル達が弓を引いていた。
「あ、戻ってきた」
「おい、何の用だったんだ?」
「大会出場のための手続きだ」
「え? 大会ってもしかして風霊祭のこと!?」
「新聞にちゃんと載ってるでしょ。よく読みなさいよ」
もっともその新聞に書いてある事を鵜呑みにされると俺が困るんだけどな。
「ははは、今年は荒れそうねー」
「去年はそうでもなかったけど、一昨年は大変だったよね。なにせ決勝戦で障壁をぶち抜いて場外反則になるんだもん。当時はすごい記事になってたわよ、史上初って」
一昨年ということは今の三年生か。……あの人そんなことになってたのか。




