人目に付かない場所
「ここか……凄い人だかりだな」
ゲイルの居るであろう教室にたどり着くと大量の人で溢れかえっていた。
「時の人がいるわけだからな……暴動が起きてないだけまだましと考えるべきじゃないのか」
俺の後ろでオリヴィエが話しかけてくる。
「それはその通りだが……」
これほどの人数ではいつ騒ぎが起こるかわからんな。
「おい、どうやら上手く人ごみから抜け出せたようだぞ」
「なに? どこだ?」
「そこにいるだろう」
オリヴィエの指差す方向を見つめると、確かにゲイルらしき男が人ごみの中をかいくぐってなんとか脱出しているのがわかる。
とりあえず合流するか。
「おい! 少し見ない間に随分とやつれたな、ゲイル」
「うわ! ってなんだおまえかよ」
なんだとはなんだ。
「よく抜け出せたな」
「ああ、なんとかな。これじゃおちおち飯も食えねぇよ」
「ほう、人気者は言うことが違うな」
即座にオリヴィエが口を挟んできた。
「は! ここの連中がミーハーなだけだろ? それでお前等はなんでここにきたんだ?」
「俺とカルラは暴動が起きないように監視だな」
「私は暇だから付き添いだ。風霊祭の打ち合わせもあるからな」
「じゃあ、おまえ達が出場するのか。それなら優勝は貰ったも同然だな」
随分と気楽に言ってくれるな。
「そればかりはやってみなければわからんよ」
「堂々と優勝宣言しといてそれかよ?」
「背水の陣を敷いておいて油断するなんて笑い話にもならないだろ」
自分から確率を下げにいったんだ、これで出来ませんでしたは相当な道化だな。
「お、おい! あれ新聞の奴じゃないか!?」
「本当だ! 他の奴らも有名人だぞ!」
流石にこの面子は相当目立つらしいな。どこか人目に付かない場所へ移動したいが、どこへ行けば良い?
「天蓋! こっちよこっち!」
この声は……エリーか? どこから声を。
「とにかく声の方へ向かうぞ」
「待てオリヴィエ、どこから声がしたのか聞き分けられたのか?」
「ああ、こっちからだ」
そのまま真っ直ぐに歩いていくオリヴィエの後を追うように歩いていくと、体育館裏へと辿り着いた。
「ここまで来れば人目も避けられるわね」
「だからって体育館裏か……不良に絡まれた生徒かよ」
「ぱっと見全員不良にしか見えないわよ」
余計なお世話だ。
「それで? 他の奴らはどこにいるんだ?」
「もうすぐここに集まることになってるわよ」
その言葉通り少しばかり待っているとウィル達が合流してきた。
さっきまでここにいた奴と、今ここにきた奴を比べると完全に不良と真面目な生徒で綺麗に分かれるな……この風景を第三者が見たらカツアゲくらっているようにしかみえないんじゃないか?
「お兄様、どうかなされましたか?」
あ、そういえばカルラは不良には見えないな。
「いや、何でもない。それにしてもよくここが人通りが少ないってわかったな。有名なのか? カツアゲとか」
「そんなわけないでしょ。さくらがここなら人通りが少ないって言ったから……」
さくらが? さくらのことを一瞥すると、あたふたと俺に弁解する。
「誤解なさらないで下さいね!? 私はそんな人様のお金を脅し取ろうだなんてことは一切してませんよ!?」
「むしろお前の場合、取られてないと弁解すべきなんじゃないのか?」
「え? ……あ、ああ! そうですよね! その通りです。そのような事はありません」
なんだ今のリアクションは。まるでそんなことは夢にも思わないというような表情だった。
……まあ、別に良いか。
「それでとうしてここを合流場所に決めたんだ?」
「それはですね、実は向こうの方に弓道場があるのでここの人通りの量がわかるんですよ」
向こう側に弓道場が?
「なんでそんなとを」
「実は弓道部に勧誘されまして、似合うから是非と」
まあ、たしかに似合うだろうな。
「それにしてもなんでこんな所に弓道部の部室があるんだ?」
「さあ……体育館裏は不良の溜まり場になるから死角を作らないようにだとか聞いたのですが……」
「そういうものなのか?」
なら初めから体育館裏に人が出入り出来ないように壁でも打ち立てればいいんじゃないのか?
「そうだ! 皆さんも弓道部へ行きませんか? やはり私一人では心細いので」
「とは言ってもこの人数は迷惑じゃないのか?」
「大丈夫ですよ、見学は一人でも多くきてほしいと仰っていましたので」
周りの顔を見回したが、特に意見も出てこなかったのでそのまま弓道部へ向かうことになった。
「あのー、すみません」
「あれ? あなたは確か……近衛ちゃんだったかしら?」
「はい、友人と見学しようかと」
「え! ホントに? どうぞあがっていってね」
どうやら見学の許可が降りたようなので弓道場へ入ることになった。
弓道場というやや特殊な場所だけあって東洋系の人が多い。勿論西洋人もいるが……これは。
「さくら、ここって女性限定とかなのか? だとしたら俺達はどうしたらいいんだ?」
一人も男がいない。これは実に奇妙な光景だ。
「いやー、男性部員も募集してるんだけどみんな射撃とかアーチェリーに流れて行っちゃってねー。だから男の子も大歓迎よ!」
「アーチェリーも別にあるんですね」
「前から思ってたんだが、銃があるんだから弓とか要らなくねぇか?」
おい馬鹿止めろ。
「ん? 何か言ったかな?」
ほら、地雷踏みやがって。
「だって銃の方が何かと有利だろ? 小さくて持ち運びに便利だし」
「弓が廃れないのには必然的な理由がある」
「え?」
どうやらオリヴィエがこの険悪な雰囲気をかき消してくれるようだ。
「必然的な理由?」
「そうだ、確かに銃の性能は非常に優れていると言えるだろう。今言ったように小型な為持ち運びに優れている。しかし、それ故にあるデメリットが発生してしまうのだ」
「魔法効果の付与だな?」
オリヴィエは黙って頷く。
「魔法効果の付与って、武器にってこと?」
「簡単に説明するには矢、弾丸の方で考えればいい。単純な話、矢と弾丸どちらが体積が大きいか比べるとわかる。明らかに矢の方が大きいだろう。それはつまりより多くの魔力を込める事が出来るということだ」
「その通り、魔法の適性が高ければ銃より弓の方が単純な火力では上回るということになるのよ! これで弓の方が素晴らしいということがわかったでしょう?」
とは言っても、魔力を温存しながら戦えるという見方をするなら、銃に軍配が上がるが……まあ、一長一短だという訳で自分に合った武器を使えば良いだけの話だ。
「じゃあ、銃に魔法は相性が悪いのか?」
「銃弾の素材をミスリルやオリハルコンにすれば克服できるが、それだとコストが高くなるからな……基本的に魔力が少ないか近距離魔法主体なら銃を使うことになるだろうな」
「だから私達は弓を愛用しているのよ。銃を使う奴は魔力の量に自信がないって自白しているようなものだからね。現に桁違いの魔力を誇るエルフ達はみんな弓を使っているわ」
エルフまでいるのかよこの世界。
「エルフって確か尖った鼻と耳をした小人でしたっけ?」
「それはゴブリンじゃねぇか。エルフって言ったら森に住む美人って相場は決まってるだろ」
トールキン・エルフかよ。俺が想像してるのと全然違う奴だぞ。この分じゃあ、トロールもムーミンみたいな姿じゃなくて、棍棒を持ったデカい男だし、オークも死者の国の住人じゃなく、豚なんだろうな。




