本日休講
「今日からまた学校か」
王宮から寮へ戻った次の日、授業が始まる前に教室へと向かう。
「あ! お、お前、新聞に載ってたぞ」
「なに? 本当か⁉ どんなふうに載ってた?」
早速新聞に掲載されたか。
「まだ読んでないのかよ⁉ これ見てみろ」
クラスメイトから新聞を渡された。
「どこに俺が載ってるんだ?」
「ここだよ、ここ! 王様相手に優勝宣言したらしいじゃねえか⁉ お前どういう神経してんだ⁉」
それが載ったのかよ⁉ 他になんか書かれてないのか⁉
「おい、ちょっと待て! 誘拐犯逮捕の時の俺の活躍が一切書かれたないぞ⁉」
それどころか誘拐犯達についての情報がほとんど記載されていない。
「それなら確か魔術科のゲイルって奴が姫様を助け出したらしいな! 助け出したのがお前だったら今頃この教室は生徒で溢れかえっているぞ」
マジかよ⁉ いくら姫様が無事助け出されたからって誘拐犯については完全黙秘ってどういうことだよ⁉
「じゃあ魔術科は今」
「ああ、とてもじゃないが授業にならないそうだぜ? そのせいで向こうは今日一日休講になるみたいだってよ」
「それは豪気な話だ」
「お前……悔しくないのか? お前もその時いたんだろ?」
「誘拐犯逮捕に夢中になってた」
「お前って奴は……」
なんだよ?
「おい、お前らさっさと席につけ!」
先生の大きな声が教室に響く。言われた通り席について周りを見回すと、席がまばらに空いている。恐らくゲイルのいる教室へと出張っているのだろう。
「先生、何人か魔術科のほうへ行ってから帰ってきません」
「わかっている。まったく私も随分と嘗められたものだ」
先生はため息をつきながら教室全体を見渡す。
「諸君らも知っての通りだが、行方不明になっていたミリア姫が先日無事保護された。まあ、この騒ぎからもう隠すこともできないからはっきりというが、誘拐されていたところをわが校の生徒が助け出した。ということだ。……そのためこの騒ぎを押さえつけることは非常に困難だと判断され、本日は全学年休講となった。非常に不本意であるが」
その瞬間教室が歓声に包まれた。学校が休みになったのが嬉しいのか、堂々とゲイルに会いに行けるのが嬉しいのかはわからないが。
「じゃあ、早速魔術科へ」
「ああすきにしろ。ただし、天蓋! お前には少しだけ話がある。この後私のところに来い」
なんだ? 何故俺だけが呼び出されるんだ?
「ひょっとして助け出したのがお前じゃないから説教かもな」
まさか、そんなことはないだろう。
そんなこんなで学校が休みとなり、教室からどんどん人が減っていく。最終的に残ったのは俺と先生にカルラとオリヴィエだった。
「先生、話とはなんですか?」
「新聞は読んだか?」
「はい」
再びため息をつき始める。
「随分ととんでもないことを言ったようだな」
「王様に対してですか?」
「そうだ。昨日から苦情が来ているらしい」
昨日ってことは優勝宣言した直後から苦情の連絡が入ったってことか。
「それで学校側に迷惑がかかったと」
「いや、こういう案件は以前にもあったらしいからな……お前のやったことは褒められたことではないが、優勝してしまえばこんなことはどうとでもなる」
「ようするに敗北は許さないと」
先生は何も言わずにただ頷いた。
「あの、先生」
突然カルラが先生に話しかける。
「なんだ?」
「今朝の新聞は私も拝見致しましたが……私にはお兄様に関する記事が少なすぎると思うのですが」
お前それ今関係ないよな?
「……それは、新聞社に言え」
いや、そんなことをまじめに答える必要ありますかね?
「お兄様はどうお思いになっておられるのですか!?」
「そりゃあ、俺の活躍も書いて欲しいところだが、余白が足りなかったんだろ?」
「ではよろしいのですか!? この記事を読む限りではまるでお兄様が常識知らずのように書かれておられるのですよ!?」
俺の行動って他人から見たらそういう風にしか見えないからなあ。
「別に良いだろ。そもそも真実を伝える手段なんてこの世に存在しないんだから」
「ですが!」
「ちょっと待てお前ら! そういう話は後で頼む。とにかく学園側から言わせればお前……せめてこの学園の生徒が優勝しさえすれば波風は立たずに済ませられるということだ」
まあ、この学園が優勝しさえすれば色々と有耶無耶に出来るからか。
「いわれるまでもなく、必ず優勝して見せますよ」
「よくそんな自信があるな。風霊祭はタッグデュエル形式だぞ? 新聞を読んだ限りではまだ誰とも組んでいないらしいが、まさかパートナーの目処はついているんだろうな?」
「いえ、これから探します」
「は?」
「え?」
先生とカルラが聞き返してくる。
「まさか、本当にパートナーを考えずに優勝するなどと言ったのか!? 国王陛下の眼前で!」
「その通りです」
「ちょっと待ってください! タッグデュエルなんですよね!? 私と組むつもりだから優勝すると断言なさったんですよね!?」
まあお前と組めばどう考えても優勝するだろうが、正直お前と俺が組むのはずる過ぎだろ。むしろ勝率が存在する勢力を探すほうが無理難題だぞ。
「いや、誰か有志を探すつもりだったが……お前優勝とか興味ないだろ?」
「あ、あります! 凄くあります! ですから私と組みましょう!」
「そういうことも後で話せ。……天蓋、これは教師としてではなく私個人の意見だが、私はお前のやったことを全面的に支持する。昨今の魔術師どもは腑抜けが多いからな。少しは骨のあるところを見せろよ」
なるほど、中にはそういう考え方をする人もいるのか。
「はい、必ずや。大会に参加する以上優勝を目指すことは当然だということを、腑抜けた魔術師に教えなければなりませんからね」
「ならば、私が組もう。貴様にして見ても一度組んだことのある者の方が良いだろう。それに私も貴様の思想は嫌いではない。優勝を狙うことを何故隠さなければならないのだと思ったことは一度や二度ではないからな」
案外どこにでもこういうことを考えているやつは多いらしいな。なんにせよ、オリヴィエが組んでくれるなら安心だな。……とりあえずクラウディア先輩に報告に行った方が良さそうだな。




