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崩天蛇神の秩序維持  作者: てるてるぼうず
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帰還

「え? 今誰っていったの?」

「ですから、十余名の誘拐犯達に独りで立ち向かった方ですよ」


 ……。


「ちょっと良いですか?」


 俺は小声でクラウディア先輩にはなしかけた。


「なに?」

「あの人には何も教えてないんですか?」

「教えるタイミングを逃したのよ」


 そうか、タイミングを逃したなら無理だな。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもありません」

「そうですか。それでは改めて聞きますが、私を助け出してくださった方はどちらにいらっしゃるのですか?」


 それは俺のことだが……何故誰も教えていないんだ?

 先輩も俺のことだとは教える素振りもない。

 ……まさか、本当に幽霊がやったことにするつもりか? それだと俺に対しての褒美はどう説明するんだ?


「他の者からお聞きになさらなかったのですか?」


 先輩が姫様に質問する。返答次第では幽霊だと言い張る必要があるのかもしれないな。謎の男ということにしても良いような気がするが。


「幽霊の仕業だと言ってるのですよ? 私にそれを信じろと?」

「私もそう思うわ」


 どうやら、マジで幽霊を押し通すつもりのようだ。ということは、俺も空気を読むべきだな。


「……、俺は何も知りませんよ」


 危ねぇ、危うくあれは幽霊でしたよと言うところだった。俺は窓から落ちた後、外の連中に保護されたことになっているはずだから、幽霊かどうかなんてわかるはずないんだった。


「貴方は確か、窓から落ちた……天蓋さん、でしたか? 挨拶が遅れてしまいましたね。私はミリア・ドルトリンク・クロスフォード四世。聞くところによりますと誘拐犯達捕縛の功労者とか、心よりの感謝を申し上げます」

「光栄にございます姫様。それでは改めて自己紹介から、私の名は素良天蓋、姫様を異端者の手から払いのけることに微力ながら助力できたこと、身に余る栄誉でございます」

「そうかしこまらなくても構いません。それよりも先ほどの件について本当に心当たりはないのですか?」


 下手に嘘をついてもバレそうだな……そもそも、向こうがどう誤魔化しているのかもわからないのだから誤魔化しようがないな。


「ありません。突然のことなので。ですが、引きずり落とされていないことは確かです。それなら、下を向いたはずなので」


 流石に見てないものを見たことにするのは無理があるな。目撃したと証言をすると、変なところで食い違いが発生する可能性が高い。


「ですが掘りの底は刃物が剥き出しになっていたはず。その時怪我をなさらなかったのですか?」

「ええ、奇跡的に」

「何故?」

「この世の者ではない存在ですよ? それぐらい容易いことでしょう」


 この世の者ではない存在とは俺の事ではあるが。


「他の者達は黒い人影を見たと」

「俺は見ていません」

「そうでしたか。では何故証言が食い違うのでしょうね?」


 むしろ全員の証言が一致してたら胡散臭いでしょう。だから俺はあえて幽霊は断固否定に回ろう。


「俺は幽霊の存在なんて認めませんからね」

「では貴方も誰かがやったことだと?」

「神のご意思かと。幽霊は認めませんがオカルトは信じる性質なんですよ」

「言っていることが矛盾しているように聞こえますが」


 ……どういうことだ? 確かチャペル学園は宗教学校のはずだが。


「矛盾はしていません。死者は裁かれる。ゆえに彷徨わない」

「……わかりました。どうあってもどこかの誰かではないと言い張るのですね?」

「……そのとおりです」


 どこかの誰かではなくこの俺だからな。


「わかりました。宴も終わる時間ですので私は部屋へ戻ることにしましょう。侍女が心配しますので」


 それだけ言うと姫様は会場から退出した。

 うまく誤魔化せたか?


「何故幽霊を否定するような事を言ったの?」

「全員口を揃えて幽霊じゃ信憑性に欠けるでしょう。多少の食い違いがあったほうがかえって煙に巻くことが出来ます。それより俺の功労って姫様にどうやって説明したんですか?」


 どうしても数が合わないよな? どうやって帳尻を合わせたんだ?


「まさか幽霊に褒美を与えるわけにもいかないでしょう? だから暫定的に貴方が幽霊の代わりに活躍したことにした。と説明されているはずよ」

「手柄を横取りしたことになってるんですか?」

「そういうことになるわね。演じたからには最後まで演じるべきだということよ」


 一人二役かよ。


「何故そこまで隠すんです?」


 別に教えてもいいんじゃないか? それとも教えたらまずいことでもあるのか。


「だって流れから考えて、貴方とお見合いになるのよ? ここにいる全員が阻止しようとするのは自然じゃないかしら」


 なるほど確かに、それは困るな。


「お見合い相手は誰でもいいってわけにもいきませんからね」

「そういうことね。それはそうと褒美の品が運ばれてきたわよ」


 王様の近くにたくさんの品物が並び終わると、号令がかかる。やっと褒美が貰えるようだ。俺たちは褒美を貰うために一列に並んだ。


◆◆◆◆◆


 褒美も貰い終わり、ボロボロになった制服も修繕が終わり、俺に渡された。

 今回借り受けた礼服と修道服を返却しようとしたが、折角だからやる。と言われたのでそのまま貰って帰ることにした。

 今となってはこの王宮も名残惜しいが、明日からまた学校だ。さっさと寮に戻って寝よう。そういえば今回の事件は新聞にどう載るんだ? とりあえずアレンさんが一面を飾ることは確かだが……まあ、明日の朝刊が楽しみだな。

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