祝賀会
「すごい賑わいですね」
クラウディア先輩から案内され、扉を開くと豪勢な料理が並んでいた。
アレンさんとゲイルはすぐさま料理に飛びつき、俺と先輩は近くにあった空のグラスに水を注ぎ、一応形だけの乾杯をした。
「もう始まっているみたいね」
その言葉通りすでに宴は始まっており、酒を飲みすぎて出来上がっている者もいる。
「俺たちが長話しすぎたということですかね?」
「いえ、一時間以上前から始まっていたみたいね」
なるほど一時間前からか。それなら酔いつぶれる奴がいても不思議ではないな。
「王様が来る前から始まっていたんですか?」
「そうよ」
この国での王様の威厳ってどんな程度なんだ。
「実際のところ王様ってどれぐらいなんですか?」
「貴方が思っているほど高くないのは確実そうね」
まあ、王様なしで宴が始まるぐらいだからな。
「そういえば姫様は今どこにいらっしゃるんですか?」
宴が始まって時間がたっているというのに姫様らしき人物はいないようだ。
「少し前に目を覚ましたわ、着替えが終わったらここへ来るみたいよ」
「それではやはりゲイルが助け出した後はそのまま倒れたわけですね?」
ん? ということはもしかして姫様は誰に助け出してもらったか把握してないのか?
「まあ、相当な時間を極限状態でいたわけだから、仕方のない話ね」
「え? じゃあ王様の謁見が今になったのはまさか」
「姫様が心配だったようね。目を覚ますまでつきっきりだったのよ?」
そこは無事助け出せたんだから仕事に戻ったほうがいいんじゃないのか。
「まあ、なにはともあれようやく仕事をしてくれるようですね」
「ええ、この宴が終わったら」
「いや、もうすでに王としての責務は果たしていると思いますが」
「そうかもしれないわね。そういえば貴方、料理は食べないのかしら? せっかくだからいただきましょう?」
せっかくの宴だからな。適当に何か食べるか。
「そういえばここにいる人たちはどこかで会ったことがあるような気がするんですが」
「覚えてないの? 昨日屋敷の外にいた人たちよ」
ああ、そういう人たちか。深夜だったから全員把握できていなかったのか。
「よう、王様の前で大見得切ったそうじゃないか」
若い男性が俺に話しかけてきた。
「もう噂になってるんですか?」
「そりゃそうだ! 王命まで出ちまったからな。この会場にいる全員がもう知ってるぜ」
情報伝達が早いな。
「じゃあ、宣戦布告に来たのかしら? 確か貴方の弟君が風霊祭に出るらしいって聞いたけど……」
「さっすが! よく知ってるよそんな事。あいつらがいる限りあんたには悪いが優勝は無理だろうな」
確か風霊祭はタッグデュエル限定の大会だったな。
「そういえば俺は誰と組めばいいんです?」
「誰か適当に組むといいわ。一応一年で揃えるって規定があるから友達を誘うとか」
「え? まさか……まだ誰と組むか決まってないの!?」
男が大声で聞いてくる。回りからも注目を集める。
「そもそも、大会に出場すると決めたのが今朝ですからね。それ以外何も決めてませんよ」
周りが一瞬だけ静かになる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ? 本気で優勝出来ると思って……え? クラウディア様、まさかそれ理解してます?」
「当然でしょ? さっき聞いたときはいきなりのことだから驚いてしまったけど。十分間に合うと思うわよ」
「そ、それは……ずいぶんと、余裕ですね」
驚きというよりもむしろ、呆れ顔を浮かべている。
「そんなに問題かしら? そもそもどこだって即席のコンビを組むことになってしまうルールなのだから気にする程のハンデでもないでしょう?」
「い、いや、入学以前から名コンビといわれているやつ等がたくさん出場してくる大会ですよ!? それをわかった上で連携のれの字も知らない状態で準備するんですか!? 今から!?」
そういうことになるな。
「頑張れば何とかなりますよ」
正直な意見を言った。
「いやならねえよ!? いやいやマジで! 今からでも遅くねえから謝って来い!」
「そんないらない心配をする暇があったら弟君の心配をしたら? 初心者に負けたら立ち直れないわよ?」
「なんでそんなに自信たっぷりなんすか!? その源ちょっとでいいから分けてくださいよ!」
いや、下手に貰ったら人生破滅するな。多分この人だから何とかなってるだけで。
「私から言わせたらどういう人生を送ったら不安になるのか知りたいぐらいよ。何をそんなに心配しなければならないというの?」
「だって負けたらこいつ国中の笑いものですよ!? それ以前に下手したら不敬罪までありえますよ! そうなったら貴女にまで累が及ぶことになるんですよ!?」
「理解してないのは貴方のほうじゃない。ギャンブルって言うのは何かを賭けて初めてギャンブルになるのよ? 私は賭けた。ちゃんとリスクとリターンを天秤にかけて。なんら問題は無いわ。いざとなったら私の後輩をサポートにするつもりだから」
まあ、確かにコンビが見つかりませんじゃ話しにならないからな。最悪カルラをパートナーにしようかと思ったが、それはあまりにも他の奴等が可哀想過ぎる。そもそもカルラが強すぎて俺達が優勝したってことにならない。
正直な話本気で優勝を狙うならカルラ一人で大丈夫だからな。
「ずいぶんと彼を信頼しているみたいですね?」
「逆に彼の実力を疑うことが出来るかしら? 貴方に彼の代わりが出来るかしら、果たしてこの国に彼より実力があると断言出来る人がどこにいると?」
「その慢心はいつか足元を掬われることになりますよ。近い将来に必ず」
ふ、いつか足元を……か。
「どうかしたか?」
「いえ、そうならないように全力で大会を制して見せますよ。誰にも難癖をつけられないように、完膚なきまでに、徹底的に」
「そうかい、それじゃ俺はこれで失礼させてもらいますよ。あなた方の弱点はもう全員にバレたみたいですし」
それだけ言うと、どこかへ行ってしまった。はたしてそんなものが弱点になるのかどうか、大会を楽しみにしているんだな。




