価値のありそうな物
「二つか、聞こう」
「陛下」
王様の臣下らしき人物が忠言する。
「まあ、よいではないか。聞くだけでも」
「まず、一つ目として私と私の友人、ゲイルがこの王宮殿で行った無礼の赦しを要求します」
「無礼? 何のことだ」
王様が臣下の者を見やる。
臣下たちはお互いに目を合わせるが、何のことだかわからずに戸惑っているようだった。
「無礼というのはこの王宮の門番たちや……それ以外にもここにいる騎士たち、彼らへの暴言などのことです。今ここでその非礼を赦していただきたいのです」
「何を言うのだ? 諸君らは余の愛する娘、ミリアを助け出した英雄ではないか。そんな勇敢な者たちをどうして無礼だと処することができるというのか。そなたは余がそんなにも冷酷な王に見えるというのか」
俺はゆっくりと首を横に振り、王様に話しかけた。
「正しいことをした、勇敢なことをした。それでも罪を犯したことに変わりはありません。善行が罪を軽くすることはあっても、それは免罪符にはなりえない。だからこそ、私は赦しが欲しいのです」
「……。よかろう。王である余の名の下にそなたらの非礼に対し特別に赦そう」
「ありがたき幸せにございます」
俺は王様に深々とお辞儀をした。
「ただし」
……? 何かを付け足すようだ。
「この赦しを褒美として認めることは出来ない。それはそなたが望まぬのであれば、余がそなたの活躍を罪と断じることと同義だからである。素良天蓋よ、もう一度望みを二つ言うのだ」
なるほど、そうきたか。しかしこれで後腐れなくこの王宮から帰ることが出来る。
しかし二つか……ここにきて二つは思いつかないな。とりあえず一つは言っておくか。こういうのは適当に価値のありそうな物を要求しておけば丸く収まる。
本当は陶器製でできた、ブランデーの空きボトルが欲しいのだが、流石に学生である俺がそういう物を欲しがるのは不自然過ぎるだろう。
しかし、学生寮の俺の部屋にはすでに陶器製の空きボトルがいくつか飾ってある。もちろんこの世界にきてから酒は一滴たりとも飲んではいない。ただ、俺が空きボトルを収集しているという趣味を持っていることを知っている奴が俺宛てに贈ってくれたのだ。
「では、そうですね。実はドラゴンの生態に興味がありましてね。できることならばドラゴンの牙をいただきたいのですが」
これだ。ミーシャがドラゴンに関する部活に入っていたからな……つまり、ドラゴンは実在するということだ。そうなれば価値のありそうな物といえばやはり牙とか爪だろう。その手のゲームは色々やったことがあるから間違いない。ドラゴンと言えばワイバーンとかリンドブルムみたいなさほど強くない傾向にあるタイプではなく、恐ろしく強いタイプだ。それの牙となればそれなりの価値があるはず。流石に玉とか逆鱗は欲張り過ぎるだろうからな。
「ほう! ドラゴンの牙か! 実は余もドラゴン好きがこうじて様々な物を収集しておってな。ならば、余が王妃に内緒で取り寄せた取って置きの物を授けよう」
マジかよ。相当価値のある物を欲しがっちまったみたいだな。
しかも嫁さんに内緒で取り寄せるとか今ここでいっていいのか。
「陛下、またそのようなものを……」
「ま、まあよいではないか。こうして役に立ったのだから。王妃にバレても説明が付くというものだ」
この王様さては尻に敷かれているな?
「わかりました。それではすぐにでも用意いたしましょう。すぐに秘密の宝物庫から一番素晴らしい物をもって参れ!」
秘密の宝物庫って言いながらみんな知ってるのか。公然の秘密だな。
そして後一つ。何にしようかな。




