アドバンテージ
誤字脱字のご指摘がありましたので修正いたします。
勝ちと書くべき部分が価値になっていました。
これからもがんばります。
「おい! 本当に勝算があってデュエルを受けたんだよな!?」
ゲイルがしつこく聞いてくる。オリヴィエとデュエルの約束をしたあと、カルラ達と学園を一通り見て周り、明日の約束の地であるアリーナの下見をしている。
アリーナでのデュエルは半径50メートルの円上で行われ、ドーム状の障壁、所謂バリアが発生する事で周りの人への被害を減らすよう工夫がなされている。
このデュエルフィールドは、公式大会で使用される最小のサイズのようだ。オリヴィエはこのルールでの大会優勝が多いらしい。
「勝算はこれから見つけるさ」
ゲイルの言葉に適当に応える。
「何悠長な事を言ってんだ! デュエルは明日なんだぞ!?」
「ああ」
「しかも俺がジャッジをするんだろう? それじゃあ応援もできないぜ?」
俺はゲイルに向き直す。
「別に構わない。俺がお前に望んでいるのは公正明大なジャッジ、それだけだ。間違っても神聖なデュエルを低俗な喧嘩にならないよう努力してもらう」
「責任重大だな。はぁ、わかったわかった、もう何も聞かねーよ」
これ以上の問答は無意味だと判断したのだろう。ゲイルはため息をつきながらやれやれと首を横に振る。
「感謝する。……そろそろ寮に向かうか」
「じゃあ、俺は家に帰る」
「そうか、またな」
「おう、負けるなよ」
そういうとゲイルは校門の方へ歩いて行った。俺も寮へ向かう。
◆◆◆◆◆
寮へ着いた。管理人に学生証を見せると俺がこれから生活する部屋の鍵と、入学が決定した際に送っておいた生活必需品や教材等の荷物が渡された。
その後、鍵と同じ番号の部屋の前に立つ。今日からここが俺の部屋になるのだ。俺は少しワクワクしながら部屋の鍵を開け、ドアを開けた。中は一人で生活するには充分なスペースが広がっていた。台所が備え付けられているため、自炊もできるようだ。
荷物を無造作に置くと、ウィルの部屋へ行くことにした。頼みごとをしていたためだ。
「ウィル。部屋にいるのか」
ウィルの部屋を管理人に聞いたところどうやら俺の隣の部屋らしい。ドアをノックすると、バタバタと物音がしたあとドアが開いた。
「やあ、待ってたよ。頼まれてた物は集めておいたから、部屋に上がって適当にくつろいで待っててね」
「ああ、忙しいところを済まない。お邪魔する」
部屋へ上がるとソファと椅子があったので椅子の方へ座る。
しばらくするとウィルが、頼んでおいた物と紅茶、そして洋菓子を持ってやってきた。
「悪いな、気を遣わしてしまって」
「気にしないでいいよ。それよりこの紅茶なんだけどね! 実は……」
紅茶についての熱い講釈がはじまった。それを適当に聞き流し頼んでおいた物、オリヴィエの過去に出場した大会の記録に目を通す。
「どうやら得意な武器はレイピアのようだな」
「え? ああ、そうみたいだね。魔法での攻撃を主体にしているから武器は比較的軽量なものにしているのかな」
「炎系統の魔法……具体的にどんな戦い方をしてくる?」
「爆発魔法、プロミネンスを使っているようだよ。今までこの魔法だけで相手を倒し続けて大会でも優勝だからね、とんでもない天才だよ」
肩をすくめながら答えている。なるほど、負けたことがあるようだな。道理でよく調べられているはずだ。
「レイピアでくるならば、こっちはアレを使うか」
「秘策があるんだね?」
「いや、ただ相性の良い武器を使うだけだ」
「あ、対等の条件で正々堂々って訳じゃないんだ」
「……? 何を言ってる。情報戦でのアドバンテージがある以上利用するのが当たり前だろう。勝つための最善策を打って始めて正々堂々といえる」
「そ、そう。想像してたのとちょっと違う」
俺にどういうイメージを持ってたんだ。まだ会って一日だぞ?
とにかく、情報は集まった。俺はウィルに礼を言うとすぐに部屋に戻りデュエルの準備を済ますと、風呂に入って寝た。明日が楽しみだ。
◆◆◆◆◆
翌日アリーナに向かうと、全員すでに待っていた。目に熊ができている奴やあくびしている奴がいるところを鑑みるにどうやら気になって眠れなかったらしい。
「逃げずに現れたことは褒めておこう」
静寂としたアリーナに自信に満ち溢れた声が聞こえる。声のする方を振り向くとそこにはオリヴィエが……オリヴィエ……? なんだあの姿は……? 黒いロングコートに黒い上着、そしてさらに黒いミニスカートに黒いガーターベルトに黒いストッキング……ほぼ全身黒で統一している。
唯一違うのは白い手袋で手の甲の部分に、右手には青い、左手には赤い薔薇の刺繍が施されている。これが絶妙なダサさを演出しており、正直あの顔だからファッションだとギリギリ言えるレベルだ。
……いや待てよ? 確か黒は収縮色だから実際の大きさよりも小さく錯覚するはずだ。という事は黒で統一されたあのファッションには痩せているように見せる効果が期待できる筈だ。そう考えるてみると心なしかオリヴィエ本人の背の高さもあいまってかなりスタイルが良く見える。……もっとも、スタイル自体は元から良かったと思うが。しかし女性だけにそういったところも考慮しているのか? 資料にも終始黒で統一された服を着ていたし。
「その衣装で戦うのか?」
「ああ、戦闘服の着用は認められているからな」
どうやら俺の相手はとんでもない奴らしい。何故かつての大会であの衣装を着なかったのに今このタイミングでそのファッションに着替えたのか? まさか巷で噂の……俺は世代が古すぎて実際にそんな奴は見たことはないが、いわゆる高校デビューという奴なのか? など不毛な疑念が頭から離れない。もしそれが狙いならばとてつもない心理戦が始まろうとしているのではないのか。
「さて、デュエルを」
「あ、ああ」
「ところで生徒会を呼んだのはお前か?」
「何? 何の話だ?」
オリヴィエが視線を逸らすのでその視線を追いかけると確かに何人か人がいる。
皆の顔をみると知らないと首を横に振る。どうやらどこかでデュエルの話を聞きつけたらしいな。
「まあいいか、私の勝利の承認は多いに越したことはない」
「たいした自信だな」
「当然だろう。私の得意とするフィールドだ、アドバンテージは私にある」
オリヴィエは不適に笑っている。
「案外そうでもないと思うがな」
「何!? 貴様など10分もたたずに倒してくれるわ!」
「ほう、ならば10分以上経過したら俺の勝ちで良いな?」
この要求に
「なっ……! ……良いだろう! その代わり私が勝ったら私に勝てると思ったその思い上がり、謝罪してもらうぞ!」
「ならば俺が勝ったら学食にあるやたら高いあのコーヒーをおごってもらうぞ」
「ーー!! 次から次と変な要求を……! ジャッジ!! すぐにデュエル開始の合図を!」
これ以上話を続けてもペースを乱されると判断したのだろう。
突然の要求にゲイルは驚いた様子だ。
「そ、それではデュエル開始!」
こうしてとうとうデュエルの火蓋が切って落とされた。




