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崩天蛇神の秩序維持  作者: てるてるぼうず
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王宮での出来事

「待て、ここから先は誰も通さないように言われている」


 流石に危機的状況に陥っているだけあって、かなり緊張しているのがわかる。

 俺は伯爵から貰った紹介状を門番に渡す。

 誘拐未遂犯からの手紙にどういう反応を示すかはよくわからないが、俺が思うにほとんどの場合で悪い状況へと発展すると思うが、実際にはそういうことにはならなかった。

 もしかしたら伯爵がここの姫を誘拐しようとしたこと自体がばれていないのかもしれない。


「おい、このシンボルはノートン伯爵のものだぞ」

「ああ、この緊急事態になんで客人なんて寄こすかね」


 真面目そうな門番は手紙を持ったまま王宮へと走っていった。

 まあ、忙しい二人には悪いが迷惑は承知の上で来たからな。


「おい! さっさとここを通せよ!」

「あー、上から確認を貰わなければならないんで少しだけ待ってて貰えませんかね?」


 当然の話か、まさかここで中身を調べるわけにもいかないだろうからな。


「はあ!? その手紙は間違いなく本物だろうが!」

「だから、どれぐらい丁重に扱えばいいか確認しなきゃならないんだって」

「現時点でぞんざいじゃねーか!」


 そもそも歓迎してくれるかどうかもわからんぞ? 案外怪しいから捕らえておくか、最低でも監視はつけたほうがいいと書かれている可能性もある。


「落ち着け、あと少しの辛抱だ」


 そう言ってゲイルのことをなだめる。


「あと少しってどれぐらいだよ!?」

「恐らく数分で」

「歓迎か門前払いかがわかるわけですね」


 門番の言葉を遮るようにして俺が口を挟む。

 その言葉に当然のごとくゲイルが聞き出してくる。


「ちょっと待て、門前払いってどういう」

「今の状況を考えろ。客人なんて迎えられる余裕なんて無いだろ。執事がノーと言えばそれまでだ」


 再び言葉の途中で口を挟むことにした。わかりきった事をいちいち聞いていても面倒なだけだ。


「執事どまりなのかよ!?」

「当然だ。執事っていうのはつまらない用事でいちいち主に取り次いだりはしないものだからな」

「ましてや国王陛下ならばなおさらでしょうね。いろいろと多忙なんですよね、貴方達学生と違って」


 そういえば学生服だな、これは少しまずいことになったか? もしこれで問題を起こせば当然その責任はロレット学園へと向かう。そもそも休みの日に学生服ってかなり変だな、スーツでも着てくるべきだったか。

 俺はすばやく門番に掴みかかろうとしているゲイルの首根っこを掴む。


「だから落ち着けって言ってるだろう。ここで問題を起こせば、門前払いどころか投獄だってありえるんだぞ」

「場合によっては極刑もありえますよ? たとえ伯爵からの紹介状があっても」


 いちいち一言多い門番だ、そういうところでこいつの頭に血が上ってることに気づいてないのか?


「おい、この二人をお通ししろ」


 もう片方の門番がやってきてしゃべり始めた。

 どうやら伯爵の言うとおり、悪いようにはならなかったようだ。

 俺はゲイルのことを放した。

 ついでに言うと、門番と一緒にメイドが一人付いてきていた。


「では、王宮へご案内いたします」


 道案内はメイドがしてくれるようだな。


「悪いが王宮への案内は後にしてくれないか?」

「はい? それはどういうことでしょうか」


 まさかこいつ。


「そこへの案内はいいから姫をさらったやつが潜んでる場所へ案内してくれ」


 やりやがった、そういうことはちゃんと順序ってものがあるだろうに。

 国王の許可無くそこらへんうろちょろできるわけ無いだろう。


「それは」

「礼儀知らずで本当に申し訳ない」


 すぐに頭を下げた。ここまで来て面倒はごめんこうむる。


「い、いえ。頭をお上げください。伯爵様からの紹介のあった方が私ごときに頭を下げるなど」

「いえ、儀礼を欠いたのはこちらのほうですので」


 ゲイルの頭を押さえつけながらさらに深く頭を下げる。

 うめくな馬鹿、自分から面倒を増やしてどうする。


「そ、それでは王宮のほうへご案内いたします」


 メイドの後について行った。


「あの屋敷には何があるんだ?」


 しばらく歩いてる最中にゲイルが指を屋敷のほうに指し示しながらメイドに質問した。


「あ、あの屋敷は……その」


 しどろもどろになっている。何か説明したくないことがあるのか? 人だかりが出来てるが。

 ああ、そうか。この状況で人だかりが出来る場所なんて一箇所しかないな。そしてその場所を説明したらこいつはすぐに飛んでいってしまうだろう。

 そして彼女は適当に誤魔化すことも恐らく出来ないだろうな。なぜなら一介のメイドが伯爵からの紹介状を持った客人に嘘をつくことになる。これは非常にまずいことだ。


「なんだ? ……まさか!?」


 気づいてしまったか。俺が止める暇も無くその屋敷のほうへ走り出してしまった。


「あ、あぁ」


 メイドは力なくうなだれているばかりだった。


「重ね重ね申し訳ない。事情は説明しますからとりあえず俺だけでも王宮へ」

「……はぃ」


 涙目になりながらも俺に返事をしてきた。相当に叱られそうだな、このタイプは。

 そんなこんなで王宮へとたどり着いた。


「お待ちしておりました。お二人とお聞きいたしましたが、お連れの方はどちらに」

「申し訳ありません。実は人だかりのできていた屋敷へ勝手に」

「そうでしたか。それは困ったことになりましたね。実は異端審問官の方がすでに着ていらっしゃるので何か問題が起きなければいいのですが」


 異端審問官だと? どこにでもあるものだな、そういう職業は。というか異端審問って同じ宗教の異端者を、つまり戒律を破ってる奴を粛清する職業だよな? どうしていつもいつも異教徒狩りまで手を伸ばしているんだ? そもそも異教なんてものは存在せず、と考えているのか? まあそういう理屈も信者ならまかり通るんだろうが。


「出来ればこちらとしてもその屋敷に向かいたいので、早く挨拶を済ましたいのですが」

「それは難しい、と言わざるを得ません。というのもあなた方の行動はすでにこの誘拐事件に悪影響を及ぼしかねない行動を行っていると言わざるを得ないためです」


 至極ごもっともな意見だ。すでに俺たちはルールを破っている。この時点で自由な行動はありえない。

 もっとも自由な行動なんてそもそもありえないが。そういう意味では相手への無礼が少し早まっただけとも言えるな。


「わかりました。しばらくの間ここで待機いたしましょう」

「その必要はないわよ」


 この声は。

 よく聞いたことのある声だ。なぜここに? って当然か、一国の姫君がさらわれている状況で大臣の娘が寮で休日を過ごす訳にもいかないか。


「クラウディア様!? ですがこの方たちは!」

「かまわないわ。連れのほうは相応の罰が必要だけれど、彼が行いについては私が保証しましょう」

「信用なさるおつもりですか!? 異国の者を」

「少なくとも。どう過小評価しても、今あの屋敷に棒立ちしている誰よりも優秀だと判断できるだけの情報は持っているつもりよ? それとも私の言葉が信用できないと」


 メイドはすぐに顔色を変えた。


「いえ! そのようなことは」

「そう? それはよかったわ。じゃあ、そういうわけだから、すぐに向かってもいいわよ? それからこれについては貸しだと私は勝手に考えているから」


 

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