早起き
昨日投稿できなかったので今日二回投稿する事にしました。
これからも頑張ります。
「おい、起きろ天蓋」
同じ部屋に泊まっていたゲイルに揺り起こされた。ベッドから起き上がりカーテンをめくり、窓を開け外を眺めると、まだ夜が明けたばかりといった具合に、薄いもやがかかっていた。
「ずいぶんと早く起きるんだな」
「ああ、昨日言ったように一分一秒が惜しいからな。朝一番の列車で出発するぞ」
「ここの主に挨拶しなければならないだろう。彼らが起きるまで待つのが礼儀だと思うがね」
「そんな余分な時間はない」
ゲイルは頑なに早急な出発を、要求してきた。これは恐らく梃子でも動かないといった様子だ。
「わかった。だがせめて執事には挨拶をしてから出発しよう。それぐらいは構わないだろう?」
「ああ、わかった」
そういうとすぐに出発の準備を整えて部屋をあとにした。
「おはようございますお客様。おはやいお目覚めですが、良くお眠りになられましたか? 何か至らぬことがありましたら謹んでお詫び申し上げます」
ここの……この館の景観を鑑みるにメイドと表現したほうがよさそうだな。とにかくそのメイドが俺たちに挨拶してきた。
「おはようございます。実は急用で早朝出発する列車に乗らなければならないことになりまして、出来れば誰かに挨拶しておきたいと思っていたのです」
「そうでしたか。それでしたら、執事長が奥の部屋におりますので、そちらでご挨拶を……」
「いや、その必要はない」
メイドの声を遮るように男性の声が聞こえた。その声の持ち主はここ伯爵邸の本当の主だった。
「だ、旦那様! おはようございます!」
「ああ、おはよう。楽にしておきたまえ。二人もおはよう。随分と早い出発だね?」
「おはようございます伯爵様。実は早急に解決しなければならない事案がありまして」
「王宮へ向かうのだね? しかし、君たちでは王宮の門番が通してはくれないだろう。そこでだ、私が紹介状を書いておいたから、これを門番に渡すといい。きっと悪いようにはしないはずだ」
そう言うと伯爵は白い封筒を一つ差し出した。
よく映画とかでみる、赤い蝋にはんこのような物を押した封がなされていた。
しかし、伯爵の紹介状か……。
「お気持ちは嬉しいのですが……」
「どうかしたのかね?」
いや、どうかしたのかね? って、だってあんた……誘拐未遂した人だし、そんな人の紹介状なんて信じますかね?
ないよりはましか。
「いえ、ありがとうございます」
それだけ言うと、紹介状が入っているであろう封筒をいただいて、挨拶を済ましたあと屋敷の外へ出る。
「お待ちください!」
聞き覚えのある声に呼び止められた。
振り向くと執事が走って来た。
「どうしました?」
「いえ、せっかく遠路はるばるこの館へ来ていただいたのに、土産の一つもなく帰したら家名に傷が付くと」
「それならばご心配なく。伯爵様から紹介状をいただいたので」
「いえ、そうではなく、姫様がそうおっしゃいますので。こちらを」
そう言うと執事は首飾りを取り出し、差し出した。
簡素なデザインではあるが、それがかえって中心にはめられているエメラルドを一際見事に輝かせているようだ。
この世界でのエメラルドの相場は知らないがかなりの高級品であることは間違いあるまい。
「よろしいのですか? こんなに素晴らしいものをいただいても」
「はい、姫がおっしゃいますにはこれを売って路銀にすると良いと」
「お気遣いに感謝申し上げます」
ずいぶんと豪気な話だ。大した奴だ。男として生まれたならば間違いなく時代を掴むことが出来ただろうと断言出来るほどにな。
「さっさと駅へ向かうぞ」
ゲイルに促されるままに門へ向かって歩き始めた。
「やあ、寝ずの番ご苦労」
俺は門番二人に挨拶した。
「あ! あんたは」
「ようボウズ! 昨日は料理を分けてくれてありがとな!」
「まあ、気にするな」
「今度来たときは素通りさせてやるぜ!」
「それはありがたいね。期待しているよ」
それだけ話して駅へ向かった。どうやら朝一番の列車には間に合ったようだ。
俺たちは朝食として駅弁を買った。
「間に合って良かったな」
ゲイルに話しかける。
「ああ、これで誰にも邪魔されずに助け出しに行ける」
「そうだな。……それよりこの列車のことなんだが」
どうしても聞きたいことがあったので聞いてみることにした。
「なんだ?」
「水蒸気が動力源なら蒸気機関、だよな?」
「当たり前だろ」
「ああ、それはそうなんだが、じゃあこの列車はなんて言うんだ?」
俺たちが乗った列車は蒸気でもなければ電力でも、増してや磁力で動く列車でもない。あえて表現するならば、列車に船のマットやら凧揚げのカイトやら、それからプロペラをゴテゴテに搭載した非常に意味不明なデザインの列車だった。
「は? そんな事も知らないのか? どこからどうみても魔導風力機関列車だろう」
こういうのは機関とはいわないだろうが!
「もしかして飛ぶのか? この列車」
「お前何バカなこと言ってんだ。飛んだら列車じゃなくて飛空挺になるだろうが。何のための線路だと思ってんだ」
いや、理屈はそうなんだろうが。
ダメだ、全く納得できない。
「あー、悪い。何でもない」
これはもう下手な事は考えない方がいいな。
「そうか、そろそろ出発の時間だな」
俺は窓際の座席に座り、外を眺めた。
一体この列車はどうやって動くのだろうか? まあ、風力なのはわかるが。
そして、とうとう列車が動き始めた。何が起こっているのか全くわからない。まあ、風が動力源なのだから見てわかるはずがないのだが。
ちなみに列車の周囲に猛烈な風が発生することが前提の列車ゆえか、窓は全てはめごろしになっていた。
「意外と静かだな」
相当な風が発生しているのだから、騒音がひどいと思っていたが存外静かだ。いや、それだけではない、列車特有のガタンゴトンという音も行きの時より静かだ。
「完全に密封されているからな。それに風魔法で車両全体を持ち上げて軽くしているから車輪と線路の繋目との接触音も小さく済むんだ」
「ずいぶんと詳しいな」
「エリーの受け売りだよ。あいつとは一緒に列車になんて乗らない方が良いぜ。三時間は喋り続けるからな」
あいつの趣味だったか。
「そうか、覚えておこう。それより弁当を食べるか」
完全に密封されていたとは、おすすめの匂いの少ないやつを買っておいて良かったよ。流石だなあの店員。
うん。この海苔弁も実に美味しい。特にこのきんぴらゴボウはよく味が染み込んでいる。
……。……。……だから何でこういうのがこの国で食べられるんだよ!?
海苔弁ってたしか日本でも最近できたものだよな!?
いや、駄目だ。考えるな……そうだ、この国で海苔弁とか柿ピーとかが売っているからといって、誰が困るというのだ? そうさ、きっとヤマトの人達の出入りが盛んなだけだ。
それに列車にしてもそうだ。さっきまで特に気にしてなかったが、冷静に考えれば磁力で動く列車なんて、とんでもないオーバーテクノロジーじゃないか。
それを考えれば、慌てるような出来事なんて何も起こってなどいないのだ。
俺は引き続き落ち着いて食事を済ませた。
あとは、王宮の近くの駅に停まるのを待てば良いだけだ。それまで景色を楽しみながらこの珍しい列車での移動を満喫しよう。
◆◆◆◆◆
とうとう目的地に着いたか。思えばあっという間だったな。
「よし、早く王宮に向かうぞ」
「ああ、そうだな」
適当に相槌を打ちながら列車から降りる。
恐ろしいまでの人ごみだ。ほんの少しでも油断したら即迷子だな。まあ、王宮へ向かっていればまた会えるだろうが。
「忘れ物はしていないな?」
一応確認しておく。よし、問題ないな。
俺たちはすぐに王宮へ向かった。
そして、当然のことだが門番に止められた。




