理想と言える戦法
「どこから敵が侵入して来るかがわかっているなら、罠を仕掛けるのも楽だろうな。そして、この競技には制限時間もあるから、集中力が途切れる事も無いだろう」
攻撃を仕掛ける側はどのタイミングで攻め込むかを決める権利がある。相手の守りが薄くなったタイミングに仕掛ける事が出来ればそれだけで攻撃側の成功率は飛躍的に上昇する。
「穴を掘って引きこもられたら手が出せないね」
「まあ、それをやると自分がポイントを稼げなくなってしまうから、何らかの工夫が必要になるだろうがな。……あるいは、必要な分のポイントを稼いでから隠れるという手もあるな。いっそのこと、生き残りさえすれば上位に食い込めると腹をくくって引きこもるという選択肢を取る者だっているかもしれない」
いわゆる穴熊戦術という奴だな。ガチガチに守りを固めてとにかく負けないように立ち回るわけだ。しかし、この競技は高得点を取った者が次の競技に進めるルール。穴熊戦術だけでは勝ち残る事は出来ない。よって勝つための策も併用する必要がある。一番手っ取り早いのは勝ち上がるために必要な得点を稼いでから守りに入るという作戦だ。それが上手く行けば誰も苦労はしないという作戦ではあるが……周囲と比較して頭一つ抜けた実力を持っているのであれば可能だろう。
「ここまで勝ち進んでいながら『何もしない』なんて運否天賦に任せるような事が出来るのは逆に肝が据わってるね」
「ああ。少なくともこの競技までの間に体力を消耗する事は無いハズだからな。切れるカードが豊富にあるという状況下で何もしないという選択肢を取れる奴はまずいない。百人いたら百人は何らかの行動に出るだろうな」
そう、常人ならばまず何もしないなんて事は出来ない。何をしたら良いかわからないという連中ならごまんといるだろう。しかし、何もせずに結果が出るまで待ち続けるという判断を下せる奴はそうはいない。まず不安になって何らかのアクションを取りたがるハズだ。
「じゃあ、地下に引きこもる奴はいない……?」
「そんな事は無いな。すでに稼ぎを終えている者なら引きこもる事もあるだろうし……そもそも、地中深くに潜みながら敵を倒す手段を持ってる奴からしてみたら前提からして俺達の認識とは根本から異なる。身を隠すのではなく。安全地帯から一方的に攻撃を仕掛けるだけなんだからな」
この競技で戦うにあたって、最も理想と言える戦法だ。もっとも……それを実現するには安全地帯を作り出す術とそこから一方的に攻撃を仕掛ける術の二つを高い次元で両立する必要があるがな。




