布に魔法付与は難しい
「あのマント、そんなに深刻なダメージを負っていたのか。そういう風には見えなかったが……」
「生地が傷んでいたわけじゃなくて、術式の破損らしいから、見た目からじゃわかりにくいんだと思うよ」
物理的な破損じゃなくて、もっと魔法的な理由だったか。
「そうなのか。まあ、布に魔法を付与するなんて事をしているのがそもそもアイツしか知らんからな……素人にはわからんのも無理は無いか」
「魔法の原理原則から考えて魔法陣の形が崩れるのは厳禁だからね。普通は壁とか地面とか……固いものに魔法陣を描くハズなんだよね」
「……一部、空中に魔法陣を浮かべている奴もいたが……」
「一部はいるだろうね。要はまっすぐに魔法陣を描ければ良いんだから」
空中でまっすぐ線を引けるかって話か。確かに出来る奴は出来るだろうな。だが、難易度は桁違いだろうな。平らな壁に魔法陣を描く分には凹凸による高低差も殆どないだろうが……空中に描くとなると、二次元的にではなく、三次元的な歪みも発生しうる事になるハズだ。つまり、まっすぐに線を引いているように思っていても、無意識に手前側に線を引いてしまい、曲線になってしまう場合が考えられる。
「空中に壁があるかのように絵を描くわけか。まあ、無茶苦茶な話だな」
「それでも慣れれば普段から使ってるような魔法なら問題無く描けるね。ただ、これを布に書き込むとなると難易度は一気に別次元になる」
まあ、物理的に形が歪むからな。これで魔法陣をまっすぐに保つってのは……普通に考えたら不可能だ。
「書く事は出来ても、それをまっすぐにするには結局、壁に貼り付ける必要があるな?」
「だけど、実際にはそんな事をしなくても魔法は発動している」
「まっすぐじゃなくても魔法は撃てるって事か?」
「流石にそんな事は出来ないよ。だから、魔法陣を小さなブロックで構築するんだって」
「ブロック? ……立方体……三次元の魔法陣を作るって事か……? 想像もつかんな?」
というより、三次元の魔法陣なんて作ったらそれこそまっすぐな形状なんて維持出来ないんじゃないのか?
「まあ、そもそも陣って二次元に使うものじゃないし……」
「……そりゃあ、兵士を戦術とか戦略の観点で並べるわけだからな……」
地図の上から見たら平面上に並べられた軍隊でも、実際には山の上だとかに並べるわけだから高低差が生まれる。確かにミーシャの言う通り陣と言うのは三次元的に組み立てる必要があるな。




