魔術師に向いていない
「魔術師としての基礎能力が高いのに、射程距離が短いって事があるのか?」
「稀にだがありえる。例外中の例外と言っても良いくらいだがな。そしてそういう魔術師は射程距離が三センチにすら届かないという事もあるらしい。もっとも、あくまでも極端な例を出せばの話だがな」
三センチ未満……それはそれで極端な例になりそうだな。
「確か……二人に一人は三センチを超えるんだったな?」
「ああ。それと三十センチ未満の魔術師は全体の八割前後とも言ったが、それのほぼ全員が三センチから三十センチまでの間だ。三センチ未満というのは、千人に一人にも満たないレベルになると言われているな。実際、私も今まで見た事が無いしな」
まあ、近ければ近い程、自傷する危険性が増すんだから極端に短いというのは魔術師として不自然な存在と言えるだろうな。
「ある意味で珍しいようだな」
「ああ。射程距離が実力を表すわけではないというのはさっきも言った通りだが……ここまで極端だと扱える魔法そのものに厳しい制限がかかる事は想像に難くないからな……基本的にここまでくると魔術師を目指す者はいないだろうな」
魔法を放つ度に自分もその影響にさらされるとしたら、まず攻撃魔法は撃てない事になるな。
「他人への攻撃がまず自分にも当たると考えたら、選択肢は自然と狭まるな。……回復魔法か」
「そういう事になるな。回復魔法は……と、言うより治療行為をわざわざ距離を置いて行える事に対して、そこまでの必要性は無いと言われているからな。それでも回復魔法を自分自身にも浴びてしまい、効率が下がるという現象は確認されているから、やはり風向きは厳しいと言わざるを得ないな」
他人への治療行為なのに、自分自身まで回復しようとしてしまうわけか。しかし、自分自身が傷を負っているわけでもないのであれば、それは単に無駄に魔力を消費している事に他ならない。根本的に魔術師に向いていないとも言えるわけだな。




